都市計画会議
翌朝、ブラン亭のダイニングテーブルにて朝食をとりながら今後の村の開発方針決める会議をする。
ケイトさんを議長にして、村長のブランさん、セモリナさん、ソイル、農耕代表でシェーマスさん、そして若手の代表のブレイブとローズさんで話し合うことになった。
「それでは『村民をとりあえず100人にするにはどうすればいいのか』会議をしたいと思います」
「ださっ!」
思わず突っ込むブレイブ。
「随分とかっこ悪い会議名だな。もう少しまともな名前は付けられなかったのかよ?」
ソイルもそれには激しく同意したい。
ケイトさんはその苦情を聞き流して議事の進行をする。
「まずは第二の防壁を作って村の敷地を拡張したいと思います」
計画図を机の上に広げる。
「この都市図を見て下さい。第二防壁は直径2キロルで建設する計画です」
それを聞いて目を飛び出さんばかりに驚く村長。
「2キロルって、何軒家を建てるのかわからねーけど随分と大きすぎないか? 王都までとはいかないが、衛星都市レベルじゃねーか。住民を100人住まわすのにそんな広大な敷地は必要ないだろ」
ケイトさんは反応を予想してたかのように頷く。
「家だけならそうだわね」
「どういうこと?」
セモリナさんが首を傾げる。
「この防壁の中には家だけじゃなく、農地も商店も馬の厩舎も……村を運営するのに必要な物を全て詰め込む予定よ」
「なんでそんなに詰め込むの? そんなもの防壁の外に作ればいいじゃない」
「だって町の外に出たら魔獣がうろついてるじゃない? あなたたちなら魔獣は敵じゃないかもしれないけど、普通の人にとったら生命に危機を覚える以外の何物でもない。町の外に出なくても生活できる為よ」
「そうか。それを考えると少し狭いぐらいね」
図面には無かったけど、井戸の他に川も水源となる森も必要だと思う。
ブランさんも同意し、シェーマスに確認を取る。
「シェーマス、農地はそれで足りるか?」
「そうさなー、農地だけなら足りるけど100人を食べさせるなら今みたいに狩りで獲った肉だけでは足りないべ? 牧場も必要だと思うべよ」
「そうだな。将来的には住人を1000人以上に増やしたいんだが、それを考えるとやはり農耕地はかなりの面積が必要か?」
「100人の食材と家畜の餌だけなら防壁沿いの500メトル位を農地に貰えれば足りると思うべが、1000人に増えることも考えるなら余裕持って外周1キロルぐらいは欲しいべ」
シェーマスさんには未来の村の発展した様子が見えているようだった。
ケイトさんはそれも予想していたらしく新しい計画図を出す。
「それなら安心して、牧場は住民が100人を超えた時点で次の計画を考えてるわ。第二の防壁の外側に新しい第三の防壁を作って農場と牧場と牧草地を作る予定なの」
第三防壁の計画図は半径4キロルにも及ぶとんでもなく広い物だった。
村の端から端まで歩いたら2時間は掛かりそう。
広すぎだろ……。
「こんなに広さが必要なの? これじゃ村の外に狩りに出るまで1時間は掛かるわよ」
ローズさんからあまりの村の広さに苦情が入るがケイトさんはそれも予想済みだったらしい。
「基本的には町から出ることがなくても生活できるようにする予定よ。まあ、町の外に魔獣を狩りに行く場合は村の門まで馬車で移動だけどね」
「それはもう村ってレベルじゃねーよ」
「ブレイブくん、いいことに気が付いたね。この村は魔の森の中に浮かぶ陸の孤島なの。外の街からの援助も無しに1000人を食べさせるならこのぐらいの規模が必要なのよ」
ブランは黙って頷いた。
「ケイトの姉ぇちゃんの言いたいことはわかった。でも、こんな規模の都市を本当に作れるのか?」
「土魔法を使えるソイルくんがいれば作れるかと思います」
「ソイル、出来るか?」
「やってみないとわかりませんが、たぶん――――うぼぁ!」
痛てええ!
いきなり殴り飛ばされた。
「バカ野郎! 男ならここは『やります』だろうが!」
「やります、やらせてください」
暴力で強引に押し切られてこの都市計画が全会一致で承認されたのは言うまでもない。
でもセモリナさんは気がかりなことがあるようだ。
「あれはどうするの?」
「あれって?」
「ゴブリンの巣になってる砦よ」
そんなのがあったな。
どうするんだろ?
「そりゃ決まってるだろ。ソイルが倒すんだ」
「えっ?」
「ソイルがこの村にやって来た歓迎会だよ」
え?
なにその歓迎会。
「ちょっと待ってください。歓迎会と言えばご馳走を用意して飲めや歌えの……僕が歓迎される場なのでは?」
「いつから歓迎会でソイルが歓迎されると思った?」
ブレイブも軽口を叩く。
「ソイルの歓迎会はゴブリンに歓迎されるのか! こりゃいいわ」
「なにそれ……」
これは抗議するだけ無駄だなと、ソイルは諦めるのであった。




