セラミック盾
朝ごはんの食材を持って行ったセモリナさんが戻って来た。
ちなみにケイトさんは村長宅前に設営された屋外食堂でボアのステーキを食べてるそう。
「ソイルくん、もう次のボアを狩ってたのね」
セモリナさんは倒されたボアの傷口を見てヤレヤレと肩を落とす。
「また盾じゃ倒せなくて剣を使ったのね。少しでも盾で倒す練習をしないといつまで経っても上手にならないわよ」
「いや、この盾で倒しましたよ」
「嘘? でもこの傷口はどう見ても剣の切り口よ」
遠くに新たなるボアを見つけたソイルは実演するからと見ていてくれと言う。
今度は敢えて盾の縁で叩き切る感じでボアを倒す。
すると同じような鈍い刃物で切り付けたような傷口がボアの頭に残った。
「すごい! この盾ってまるで刃物じゃない?」
「刃は埋め込んでないんですけど、軽くて振りぬく速度が速いから剣みたいに使えますね」
「じゃあ丸盾みたいな形状じゃなく、重装歩兵のカイトシールドみたいに突撃用の長い盾にしてみたらどうかしら? 長くなった方に刃物を仕込んでみたらどう?」
作ってみたらヤバかった。
鋭い刃物は仕込めなかったけど、盾の先の縁を気持ち刃物状に尖らせてみた。
試し切りしたら、突撃してくるボアの身体が真っ二つに裂ける。
「えぐっ!」
「まるで大剣ですね。しかも防御できるうえに木の丸盾よりも軽いし」
セラミック盾で狩りをしていたらあっという間に盾のマスタリースキルが取れたのは言うまでもない。
*
夕飯時、防御壁の建築をして戻るとソイルはブランにいきなり殴られた。
「ソイル、てめー! 俺の言いつけを破って剣を使いやがったな」
どうやら真っ二つにされたボアの切り口を見てそう判断したらしい。
そりゃ刃物を使って倒したようにしか見えないよね。
実際盾だけど刃物だし。
セモリナさんは重装歩兵の盾をブランさんに見せて説明するけど見てくれない。
「盾でボアを倒したと、そこまで言い張るなら俺と戦って証拠を見せろ!」
ブランの怒りは治まらずに、ソイルとブランは戦うことになった。
「ソイル死んだな」とご飯を食べながらブレイブが笑ってる。
戦いは闘剣場に行かずに庭で行われた。
「俺は素手で挑むから、盾だけで俺を倒してみせろ! もし俺を倒せたら……そうだなセモリナとキスをするのを許可してやる」
「なんだと!」
ブレイブから上がる怒声!
「なんで、お前がセモリナとキスをする。お前はケイトと結婚するんじゃなかったのか?」
「いや、そんなの初耳だけど」
結婚情報のソースはケイトさんだったのは内緒だ。
「ケイトと言う婚約者がいる癖にセモリナに手を出すなんて許さん!」
ブランに直訴するブレイブ。
「村長! ソイルの野郎との試合、俺に譲ってくれ!」
「いいが、殺すなよ」
「修行の成果を見せてぶっ殺してやる!」
そんな村長の忠告は耳に入らず、殺る気満々のブレイブ。
ブランもブレイブがソイルに楽に勝てると思っていた。
ところが……。
「なんだ、こいつ! 全然攻撃が当たらん!」
ソイルはブレイブの攻撃を全て盾で受け流しをしていた。
しかも盾は剣の攻撃を受けまくっても欠けることも痛むこともなく、すべての攻撃を素早い動作で受け流していた。
ブランの目が驚き位に変わる。
「ブレイブも結構仕上げたつもりではいたんだが、ブレイブの修行が足りないのか、ソイルが凄すぎるのか……」
ブランは判断しかねていたが、それはセラミック盾という超軽量超鋼盾と盾のマスタリースキルと母親の血筋の成せる業だった。
流石のブランも一日の自主練で盾のマスタリースキルが取れるとは思ってもいなかったようだ。
「はあ、はあ」
連続で技を繰り出しまくり息の上がりまくるブレイブ。
そろそろ限界が近いようだ。
「そろそろ、攻撃も終わりかな」
試合を終わろうとソイルが聞いてもブレイブは納得しない。
「まだだ! まだまだだ! 俺が倒れるまで諦めねぇ!」
「仕方ないな」
ソイルが試合を終わらせようと盾を振り抜き殴打すると、ブレイブは遥か彼方に打ち上げられ夜空のお星さまになった。
「やば! やり過ぎた!」
その夜、ボロ雑巾のようになったブレイブを村人総出で探すのに真夜中まで掛かったのであった。




