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成人の儀の謎

 試合後、疲れ果てて地面に座り込んでいたマイケルにソイルは手を貸して引き起こす。


「ソイル、きみは随分と変わったんだな」


「そうか?」


「昔は倒れた俺に手を貸すようなことなんて絶対にしなかった。英雄の息子と言う家系を自慢するいけ好かない奴だったけど今はそんな自慢はしないし、なにより実力が伴っているしね。今回は完敗だよ」


 まあ、昔は力を誇示するムカつく奴だったのは自分でも自覚している。


 でも今はこの村に来て最弱クラスの魔獣のワイルドボアに命をおびやかされたり、村民最弱剣技と言われるセモリナさんの実力に驚いたりで、自分の実力の低さを痛いほど痛感した後だ。


 上には上の実力者がいると知った今はもう自分の実力を誇示するなんてことは出来ない。


「そういえばソイルには頼みごとがあるんだ。聞いてくれるか?」


「まあ、僕に出来る事なら……」


「ヘレンのことなんだ」


「ヘレン?」


 思い出したくも無い名前だった。


 ヘレンのことで相談とはどんなことなんだろう?


 ヘレンに捨てられた身としてはなにも思いつくことはない。


「成人の日のかなり前の話になるんだけど、ヘレンは僕に土魔法を取れと言って来たんだ」


 話では半年前のことらしい。


 そのころからヘレンは僕を裏切ることを企んでいたなんて……。


 魔道具を使って僕の持っていた剣と盾のマスタリースキルをマイケルが取った土魔法スキルと入れ替えて、僕に土魔法使いの天職をなすり付ける。


 それに気が付けなかった僕も僕だ。


 マイケルが剣技とは全く関係のない土魔法スキルを取った奇行も腑に落ちた。


 マイケルも土魔法を取れと言ってきたヘレンの指示には疑問を持ったらしく、ヘレンに聞いたそうだ。


「なんで剣技に関係のない土魔法を取らないといけないんだい?」


 そう聞いたマイケルに対して『これは運命……歪んだ過去を修正するには必要な事』と言ったそうだ。


「その時は『歪んだ過去』とはソイルに邪魔をされて出来なかった俺の告白のことで、俺との婚約をする為だと思っていたので全く気にならなかったんだけどね。でもそれだけじゃなく、ヘレンは小声でこうも続けたんだ」


『人々を救うには必要な事』


「ここに来てセモリナさんに殴られて気絶をしてた間に最後の言葉を思い出して気になっていたんだ。最後の一言は俺との婚約の為なら不要で明らかにおかしな一言なんだよね」


 なるほど……。


 ヘレンの行動は単純にマイケルと婚約するためではなく、なにか別の意図があるんじゃないかと言うことか。


「気になって聞いてみたんだけど、ヘレンは言葉を濁すだけで結局意味を教えてくれなかった。さすがに明言するのを避けているのに俺からもう一度聞くわけにもいかないし……。春のヘレンとの結婚までにまだ時間があるから、それまでにソイルから聞いておいて欲しいんだ。まだ君に未練が有ったら気になって安心して新婚生活をおくれないからね」


「う、うん」


 セモリナさんを見ると僕とヘレンが会うと聞いたせいか沈んだ顔をしていた。


 *


 自分の寝室に戻り汗で汚れた下着を着替え終わると同時にセモリナさんがやって来た。


 表情は相変わらず浮かないままだ。


「ソイルくん……」


 俯いたまま涙をこらえていた。


「ヘレンさんに会いに行くんだよね?」


「そうだね、マイケルからの頼みだし、セモリナさんとの婚約も報告しないとね」


 セモリナさんがソイルの胸にしがみ付いて来た。


「ソイルくん、絶対に戻って来てよ。ヘレンさんとよりを戻したりしないでよ。わたしを捨てないで!」


「セモリナさんを捨てるわけがないじゃないか」


 ソイルもセモリナさんを抱きしめる。


「それにヘレンの所に行くのはセモリナさんも一緒だよ」


 途端にセモリナさんの表情が明るくなる。


「ヘレンにセモリナさんとの仲の良い姿を見せて悔しがらせてやろうぜ」


「そうだね」


 二人して笑うのであった。


 セモリナさんの不安が吹き飛んで一安心のソイルであった。

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