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貧民街の暗殺者と、貴族の魔法使い  作者: いのれん
最終部「復活を夢見る、虚な存在」
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第三十五話 忘れられない思いは、剣となりて

 各々が別々の地へと赴き、そして数十日が経った時。


 俺が秘密にしていた隠しアジトには再び全員が揃う。

 いずれも大きな怪我は無く、ほぼ無事に帰って来たと言ってもいい。


 しかし、ここにいる全ての人達の顔色は、まるで雨空のようにどんよりとしていた。


「……報告は、これで全てのようだな」

 それぞれ出向いた先々での出来事や成果を一通り聞く。

 他国へ行ってきた仲間は、もれなく全員ひと悶着あったとはな。

 精神的にも身体的にも疲労の大きさが見られる。

 ある程度予想はしていたが……。


「危険を犯したが、収穫はあった」

 だが決して無駄では無かった。

 皆が命がけで得た物はどれも代えのきかないものばかりだ。

 それらと、自分が得た情報を頭の中で整理していく。

 今まで輪郭すらはっきりとしない、霧の中の物を探すような感覚が僅かだが確実に晴れていき、自ずと次の一手が示される。

 とりあえずは、整理し導き出された事実(・・)を皆に伝えなければ。


「精霊の石、こちらの手持ちは一種類だがまずはこれでいい。恐らく各国にある全ての石が無ければ意味がないからな。敵側に揃わせなかったという点が大きい」

 仲間であるアロマや、女魔術師の命を狙う翼が逆さまの天使が集めている精霊の石は、風精、地霊、火竜、水神、これら四大大国にあった。

 特別な力を持った石であり、純度の高い物は方法は違えど各国全てが国宝と認めている程の代物を、天使達はどういうわけか欲しており、それらを無条件で揃えさせるのはまずいと察知した俺は、仲間をそれぞれの国へとむかわせて精霊の石を奪取、あるいは防衛する仕事を与えた。


 結果として、風精の国と火竜の国の精霊石はとられてしまったが、地霊の国にある精霊石は今ここにある。

 もしも、俺の予想している事が本当ならば、出来は上々といったところか。


「次の敵の数。酒場を襲った天使は倒してくれたらしいが、他にもう二体。あの風の悪魔と評されているラプラタを退ける程の力を持った天使サンダルフォンと、天使として生まれ変わり大悪魔を容易に仕留めるほどの力をつけたソフィネ」

 かつての仲間であった少女の名前が出ると、元々暗かったアロマはさらに落ち込み、今にも泣き出しそうになってしまう。

 限りなく少ない可能性として頭の片隅にあった未来予想が、現実になってしまうとは……。

 アロマはソフィネを一番理解しようと努めていたからな、さぞかし辛かっただろう。

 そして、あのラプラタが手を焼く程の実力を持った新たな敵。

 帰ってきた女騎士の話を聞く限りでは、いかなり攻撃も無力化してしまう不思議な術を使う。

 そんな相手にどう立ち向かえばいいんだ?


「……つまり、その風の悪魔を倒した天使が親玉ってことなんだろ? 話聞いてるとそんな気しかしないぜ」

「ファルスの言うとおり、恐らくはそうだろうな」

「だったら、そいつをぶっつぶしてやればいいじゃねえのか!」

 今まで沈黙していたファルスが机を大きく叩くと、血走った目でこちらを睨み訴えてくる。


「もうウンザリなんだよ。本来悲しむ必要の無い奴が悲しんでたり、死ななくていい奴が死んだりするのは!」

 地霊の国で、どうやらこいつの妹や他の民が犠牲になったらしい。

 ルナティックの巫女の候補といえば、他の国で言えば高官の位にあると聞く。

 実力もかなり高いであろうに、そいつらが束になって自らの命を犠牲にしてようやく倒せる相手とはな。

 改めて、とんでもない相手を敵に回してしまったと認めざるを得ない。


「落ち着け、そんなんでは足元をすくわれるぞ」

「……俺はいつも冷静ですよ」

 もっとも、今更後悔しても仕方ない。

 俺は自分自身と、こいつらを生かすための最良の選択をしなければならない。


「マスターさん、私とシュウは風精の国に帰ります」

「はぁっ!? 逃げる気か!」

 そう決意した時、アジトの留守番を任せていた風精の国からアロマを探しにやって来た輝色魔術師の異名を持つ魔術師のエミリアが、俺の方を見据えながら話を切り出してくる。


「そうじゃありません。ラプラタ様とお話がしたいのです、あの方ならば実際に戦っていますし、勝つ為の手がかりを掴んでいるかもしれないかと」

「ラプラタは天使の襲撃を受けたが、生きているというのか?」

「はい」

「確かに、あのラプラタ様が簡単に死んじゃうなんて思えないものねえ」

「ラプラタ様が殺されたならば、この水神の国にも知られているはず。それが無いのは、生きている証拠だと思うのです」

「ふむ、いいだろう」

 どうやらファルスの思惑とは違い、彼女も逆翼の天使に対抗するために動くようだ。

 今更逃げようとしても逃がす気は無かったが、天使の力を持つ彼女が前向きに間近に迫っている困難へ立ち向かおうとする事実と意思のあらわれは、頼もしさすら感じてしまう。


「だが、もう各々がばらばらに行動は出来ない。敵が複数でそれだけ強い力の持ち主だと解れば、万が一に見つかったら間違いなくやられてしまうからな」

「マスター、目立つぞ?」

「それは承知の上だ。だが、前にも言ったが天使化さえしなければ余程問題はないだろう」

 とりあえず話はして情報の共有は出来たようだな。


「今日は疲れているだろう。出発は明日にするから休んでおけよ」

 ならば長々と皆を拘束するわけにはいかないな。

 帰ってきたばかりというものあるし、明日の出かけやこれからに備えて、少しでも休んでおかないと。


 各々は自分が間借りしているスペースへと戻り、装備の整備はそのままで横になって眠りだす。


「あの、ファルスさん」

「ん? なんだ?」

「この弓、ちょっと持たせてもらってもいいです?」

「別に構わんけど、ルナティックの巫女にしか使えない代物だぞ?」

 ファルスも同じように体を休めようとしていた時、エミリアに声をかけられる。

 そういえば、精霊の石と一緒に物騒な弓も持って来ていたな。


「やっぱり……」

「どうしたんだ?」

「これ、どうする予定です?」

「んー、使えば命が取られる危険な武器だからな、海にでも沈めようかと思っている」

「頂いてもいいです?」

 一体何をするつもりだろうか?

 エミリアは風の悪魔ラプラタには劣るが、魔術師の中でも超一流でしかも天使だ。

 しかし、ファルスの話ではルナティックの巫女にしか扱えないらしいが。


「この弓には貴重な金属が使われていて、今それが必要なのです」

「素材として使うのか。なら別にいいぞ。何度も言うが、弓として使ったら命は無いと思え」

「どうもありがとうございます。取り扱いは気をつけます」

 まあ、何に使うかは知らないが彼女ならば大丈夫だろう。

 さて、俺も準備を済ませてさっさと休むか……。


 俺は書斎へと戻り、明日の準備をした後に床へついた。



 ――そして明日の朝。


「珍しいっすね、魔術師ちゃんがまだ来ていないなんて」

 アジトの入り口には準備を終えた仲間達が集う。

 しかし、そこにはエミリアの姿が無い。


「エミリア、何だか部屋にずっと篭っているみたいだけども、呼んできましょうか~?」

 魔術の実験器具が置いてあった部屋を借りて何かやっているらしいが。

 まさか、今も作業が続いているのだろうか。

 予定を遅らせることは出来ないから、女騎士に頼んで呼んで来てもらうしかないな。


「ふう、やっと出来た。ぎりぎり間に合ったね」

 そう思いながら昨日から扉の開かない部屋の方を見ていた時、多少眠たげなエミリアが部屋から現れて、自身が元気である証明をするべくこちらに健気な笑顔を見せる。

 彼女の手には、一本の白銀に輝くレイピアが握られていた。

 もしかして、それを練成していたのか。


「えええ、もしかして寝ないでずっと何かしてたの……?」

「うん、急ぎだったからね。でも大丈夫だよ、道中の船内で寝るからね」

 確か、昨日ファルスが持ってきた弓を使うとか言っていたな。

 まさかあの弓がこの剣ということか?

 ほう……。

 ルナティックの宝具であり、女神から賜ったといわれるくらいだからな。

 それから出来た武器となれば、これからの戦いにも十分使える代物だろう。


「あなたはずっと忘れなかった。自らの思いに背かなかった。そんな可憐で一途なあなたに」

 エミリアは笑顔のまま作り上げた剣を、そっとアロマへと差し出した。


「これは、銀の十字架……?」

「うん、私が直したの。名付けて聖剣アルペストリス! 気に入って貰えたかな? ふふ」

 その口ぶりから察するに、元々心当たりがある品物のようだ。

 恐らくは、かつては銀の十字架と呼んでいた武器が、エミリアの手によって再度復活したというところか。

 アロマが今まで使っていた剣は壊れてしまったし、これは丁度良い。


「エミリアお姉ちゃん……、ありがとね。うう……」

 アロマは、その場で泣きながら蘇った自身の得物を抱える。

 余程思い入れのある武器なのだろう。

 それが大切な人の手で蘇った、か。


「用事は済んだようだな。じゃあ行くぞ」

 何故だろうな、絶望的な状況なはずなのに妙に気分が高揚している。

 しかし、あまり浮かれてはいけないな。

 逆翼の天使を退け、生き延びねば。

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