芸術を解する心を持つべし
ログハウスから南に一時間ほど進む。
近づくうちに青い石はだんだんと大きくなっていた。
しかし青い石はそれほど大きいわけではない。
むしろあの場所からよく気づいたものだと感心する。
遠見の魔法でも使ったのかもしれない。
「ありましたわっ!」
そこにたどり着くと、アリシャが弾んだ声を上げて走り出した。
好奇心旺盛なお嬢様の後に続く俺たち。
美しい龍の石がそこに存在していた。
他を圧倒するほどの存在感。
本当にただの石なのか。
生きているような、今にも動き出しそうな見事さだった。
「すごいですわ。これ、古代龍の石像ですわ! 当時の姿そのままに再現してありますし、これはすべて魔石ですわ」
「マジで!? じゃあ砕いて持って帰ればかなりの金になるんじゃねえ?」
魔石と訊いたヴァルが俗な発言で雰囲気をぶちこわす。
「これほど見事な石像を見てどうして壊すなんて発想が出来ますのっ!? 貴方に芸術を解する心はないのですかっ!!」
「うわっ! 怒るなって! 冗談! 冗談だからっ!!」
芸術を愛するお嬢様の剣幕に、さすがのヴァルも押され気味だ。
「世の中には冗談で済ませられることと、半殺しにしなければ気が済まないことが存在しますのよっ!」
「うぅ……たかが石像一つでそこまで怒らなくてもいいじゃんかよぅ……半殺しは酷いし……」
俺から見てもこの石像は見事だと思うのだけれど、ヴァルにそういう感性は備わっていないらしい。
芸術とは無縁の無骨者だった。
こりゃあ、余計女の子にモテないんじゃないか……と心配になる。
発言にデリカシーがなさすぎるよ。
「ふふふふ……貴方を石像にしてあげてもよろしいんですのよ……」
「ぎゃーーっ!! やめろーーっ!!」
手のひらに魔法を構築しながら迫るアリシャ。
うげ……あれマジで石化魔法だよ。
本気で石像にする気だよ……
アリシャお嬢様怖い……
声が冷え切っているから余計に怖いよ……
っていうか女の子は例外なく怖いイキモノなのではないだろうか。
リオとアリシャを見ているとそんな風に思ってしまう。
ローゼも怒らせるとやっぱり怖いし。
「まあまあ、落ち着けよアリシャ」
「う~……このバカに少しでも芸術を解する心があれば……」
「人には向き不向きがあるんだからそこまで目くじら立てるなよ」
「分かってますわ。だからあのバカを芸術作品のひとつにしてさしあげようと思いましたのに……」
「……あのバカを石像にしたところで芸術作品にはならないと思う」
「それもそうですわね……」
「二人とも容赦なさすぎだろっ!!」
俺とアリシャのやりとりに泣きそうな声で反論するヴァル。
自業自得だぞー。
「リオちゃーん。二人が冷たいよぅ。慰めてくれよ~」
しくしくとリオに泣きつくヴァル。
お人好しなリオは困った表情でヴァルの頭をなでなでしている。
「よしよし、大丈夫ですか? ヴァルさん」
「うぅ~。リオちゃんだけだよ、オレに優しいのは」
「えへへ~。でもあれはヴァルさんが悪いと思いますよ」
「う……リオちゃんまで……」
やっぱり情状酌量の余地ないよな。
あんな見事な石像を壊して売ってしまえって言うんだから。
俺でも呆れ果てるよ。
むしろこの状況でヴァルを慰められるリオの優しさに感動する。
「次にあんなこと言ったら麻痺毒吹きかけますからね~」
「ひいーーっ!!」
にっこりと笑顔でそんなことを言われたヴァルは悲鳴を上げた。
まあ当然だろう。
ほえほえ笑顔なのがより一層恐ろしい。
麻痺毒ならそのうち回復するだろうから石化魔法よりマシだとは思うけどね。
ちなみに石化魔法は解呪されない限り解けない。
俺に解呪魔法は使えないから、アリシャの機嫌が直るまでずーっとそのままだ。
そう考えるとアリシャの方が容赦ないかもな。
「うぅ……オレが悪いのか……? オレだけが悪いのか……?」
一人自問するヴァル。
悪いのか? じゃなくて悪いんだよ。
ちょっとは自覚しろ。
家のすぐそば新しい美術館が出来たりしてるんだけど、今度見に行ってみようかな……




