女の子のお風呂タイム
「浴槽ですわっ!」
「お風呂っ!!」
そして休憩エリアに辿り着いた俺たちが見たのは、真っ先に浴槽を確認する女子二人の姿だった。
やっぱりテンション高ぇー……
木造ログハウスの外に、蓋を被せられた浴槽がちゃんと存在していた。
「ちょっと汚いですわね。魔法で一気に掃除してしまいましょう」
「お願いします、アリシャさんっ!」
「任せなさいっ! 水烈砲!」
ふたを開けたとたん、アリシャの水砲撃が炸裂する。
もちろん手加減されたものなので勢いは本来の威力よりも減じているが、ブラシではなく水圧で汚れを落としてしまおうというあたり、ちょっとアバウトだ。
しかし汚れはみるみるうちに落ちていく。
ブラシでちまちま掃除するよりは圧倒的に早い。
「ふう。こんなものですわね……」
綺麗に荒い流された浴槽を見て、リオがきらきらと目を輝かせる。
もうすぐお風呂に入れるかと思うと天にも昇る気分なのかもしれない。
「ふふふ。では早速水を張りますわよ」
「やっちゃってください、アリシャさんっ!」
「水烈砲・弱!」
今度はずいぶんと勢いを弱められた水がどどどどど、と浴槽に注がれる。
みるみるうちに浴槽が満杯になった。
このままでは冷たいので、暖めなければならない。
「では仕上げに、火炎弾・弱!」
弱められた火炎魔法を張られた水の中に入れる。
じゅわっという音とともに火炎弾は消えてしまう。
「ふふ、湯加減はちょうどいいですわね」
お湯の中に手を入れて温度を確認するアリシャ。
その表情は達成感に満ちている。
一仕事終えた職人風の表情だ。
「さすがですっ! アリシャさんっ!」
リオのアリシャを見る目は師匠に向ける弟子の視線そのものだ。
鍋奉行ならぬ風呂将軍という感じだ。
「では入りましょうか。一緒にいかが? リオ」
「あ、いえ。私は最後でいいですよ。その……危ないですから……」
「……そう言えばそうでしたわね。ではわたくしが先に入りますわよ」
「はい、どうぞ!」
「いつまで見てるんですのっ! 覗いたら殺しますわよっ!」
「わあっ!」
「分かってるってっ!」
そしてそれを呆然と見ていた俺たちが怒鳴りつけられる。
べ、別に覗こうとしていたわけじゃないぞっ!
ただテンションの高さにちょっと動けなかっただけだからなっ!
こうして俺たちはログハウスの中へと追いやられた。
外がお風呂なので、出ているわけにも行かなくなったのだ。
「やれやれ。女の子っていうのは凄いし、怖いな」
「言えてる。ああいう時は絶対逆らえないもんな」
「あう~。ごめんなさい。ちょっとテンション上がりました~」
「いや、まあ気にしなくていいよ。気持ちはちょっと分かるし」
俺だって風呂に入れないよりは入れる方がいい。
気分の問題だ。
女の子なら尚更だろう。
「アリシャが出たらリオも入って来いよ」
「あ、私は最後でいいですよ。フェリクスさんたちも入りたいでしょ?」
「もちろん俺たちも入るけど、ここはレディーファーストで」
「でも……私の後は危ないですよ?」
「大丈夫。ちゃんとお湯は入れ替える。あの魔法なら俺も使えるし」
「そうなんですか?」
「もちろん。これでも魔法使いだぞ」
「なら、お言葉に甘えさせてもらいますね」
「おう。そうしろそうしろ」
アリシャを待っている間、俺たちは食事の準備をしていた。
といっても保存食を取り出す程度だが。
鍋とかもあるので何か料理をしたいところだが、困ったことに材料がない。
昨日みたいに川が近くにあるわけじゃ無いから魚を焼く訳にもいかないし……
しまったなぁ。
こういう場所があると分かっていたら使える材料も持ってきたのに……
材料どころか調味料すらないし。
塩があるぐらい。
前もって購入した地図で休憩用の家や風呂があることは分かっていたけど、まさか調理器具まで揃っているとは思わなかった。
前にここへやってきた人たちが置いていったものだろうけど、気が利きすぎてしょんぼりだよ。
水や火は魔法でどうにでもなるし、次からはしっかりと材料を持ってこよう。
というかアリシャがいるから鍋とかも持ってくることは可能なんだよな。
……あのアリシャお嬢様がさらなる荷物持ちを了承してくれるとは限らないけど。
いや、こっちが料理するってことで妥協してくれるかも?
寝袋もそれぞれ準備できた頃、ようやくアリシャが戻ってきた。
かれこれ三十分は経過している。
「お待たせしましたわ」
寝間着姿にタオルをひっかけたアリシャはちょっと色っぽい。
探索用の服とはまた違っていて、すごく女の子らしいのだ。
まさかワールド・エンドにそんな服を持ち込んでいるとは思わなかったが。
しかしアリシャは魔法鞄を持っているし、荷物だけならいくらでも準備できるんだよな。
うーむ。
やっぱりあの魔法鞄、欲しいかも。
あればかなり便利だし。
でもめちゃくちゃ高いんだよなぁ。
確か相場は五百万ぐらい……
ここで稼ごうと思ったらA級ライセンスぐらいの層に行かないと厳しいだろう。
いっそのこと自分で材料を揃えて作るっていう手もあるか。
魔法鞄の材料はこのワールド・エンドで揃えることが出来るし。
「じゃあ入ってきますね~」
「いってら~」
嬉しそうに出ていくリオ。
やっぱりお風呂は特別なのだろう。
「ふう~。さっぱりしましたわ」
「つーか長ぇな。風呂なんて五分もあれば十分だろ」
「はあ……これだから男ってどうしょうもないですわね……」
濡れた髪を丁寧に拭きながらアリシャが盛大なため息をつく。
さっきからヴァルの発言はデリカシーに欠けまくっている。
俺はまだローゼという身内をしっているからそこは弁えているが、完全脳筋のヴァルにはそういう気遣いは出来ないらしい。
「そういうものか? オレなら五分で終わるけど」
「仮にも貴族ならもう少し身綺麗にすることを心がけなさい。それじゃあカラスの行水ですわ」
「冗談じゃねえ。三十分も浸かってたらふやけるだろうが」
「身体を洗う時間を含めたら浸かる時間はそれほどではありませんわ」
「うーん。身体洗うのなんて一分もあれば十分だしなぁ」
「………………」
とことん噛み合わない二人だ。
アリシャも言葉を重ねることの無駄を悟ったらしく、はあ、と盛大なため息をつく。
同じ貴族として嘆かわしい、と思っているのかもしれない。
まあ俺も五分はないと思うけどね。
俺だって風呂にはいるときは十五分ぐらいかかるし。
……アリシャにしてみればそれでも短いのかもしれないけど。
でもヴァルよりはマシだと思う。
「お待たせしました~」
そしてリオが戻ってきた。
アリシャと同じく三十分ぐらいだ。
やっぱり女の子のお風呂だとそれぐらいかかるらしい。
「お湯は抜いておいたんで、フェリクスさんが入るときはお願いしますね~」
「了解」
念のために湯船も軽く洗い流しておいた方がいいだろうな。
「まあ俺たちの風呂は後でもいいからさ。とりあえず飯にしようぜ」
「賛成。オレもうはらぺこだし」
というわけで飯にする。
保存食をもそもそと食べるだけの寂しい食事だが。
「む……。次からは調理用の食料も持ち込むべきかしら?」
鍋をめざとく発見したアリシャがそんなことを検討する。
「アリシャが荷物を担当してくれるなら俺としては大歓迎だな」
「構いませんわよ。ただし調理はフェリクス達が担当ですわよ」
「まあそうなるよなー。アウトドア料理ならヴァルの方が手慣れてる感じだけど」
「普通の料理も出来るぞ」
「すげえな。料理得意なのか?」
「ちょー得意」
「マジか」
「親父がワールド・エンドに潜るつもりなら覚えておいた方がいいって言ったからな。旅における食事っていうのは絶大な癒しになるんだってさ。オレも同感だし。だから覚えた」
「……動機はともかくとして心強いことは確かだな」
「言えてますわ。では今後の料理担当はヴァルにしましょう」
「オレに丸投げかよっ!」
「俺が作ってもいいけど、料理に関しては素人だから結構酷いモノができあがると思うぞ」
「う……」
「それは遠慮したいですわ」
「私も嫌です……」
……そこまで嫌がられるとちょっと傷つくけど。
「まあいいや。じゃあ次に行くときはオレが料理担当ってことで。みんなは材料調達よろしくなー」
「おう」
「了解ですわ」
「楽しみです~」
そんな風に楽しく騒ぎながら、時間は過ぎていった。
俺たちも風呂に入ってから眠りにつく。
もそもそと寝袋に入ると、不思議と満たされた気分になる。
旅をして、仲間と騒いで、こうやって一緒に眠る。
それだけのことがすごく楽しい。
偶然出会っただけの関係だけど、俺は今こいつらがすごく大事だ。
守りたいって思う。
少しでも長くこの旅が続くように。
また一緒に旅が出来るように。
俺に出来る全部でこいつらを守ろう。
サービスシーンはありません(>_<)




