お嬢様のウルトラ・ヘル・イヤー
ライセンスの発行手続きをする為に受付へと戻ると、既にアリシャは試験を終えていたようで、ソファに座っていた。
「おかえりなさい。当然、合格したのでしょうね?」
じろりと俺たちをアリシャ。
失格だったらただじゃおかない、という視線だ。
「もちろん合格したよ」
「当然だろ」
「ふうん」
アリシャはじろじろと俺たちを見ている。
特にヴァルの方をじろじろと。
「苦戦したみたいですわね」
「うぐ。でも勝ったぞ」
俺と違って血の跡があちこちに残っているので、苦戦したというのは丸分かりだ。
「勝つのは当然です。打ち上げの約束をしたのですから。祝勝会が残念会になるなど許しませんわ」
「うわー。それは確かに痛いな……」
他の人が合格して祝い空気なところを自分だけ残念会になる。
さすがに痛すぎるよそれは……
「アリシャはどうだったんだ? 合格はしたんだろうけど苦戦とかした?」
「わたくしがそんなものをすると思って?」
「……思いません」
不敵なまでの自信が恐ろしい。
しかも見合った実力があるだけに似合っているのがなお恐ろしい。
「楽勝だったんだ」
「当然ですわ」
「当然か」
「このままC級に挑戦するのも悪くないと思いましたけど、その前に実戦を経験しておくべきなのでやめておきましたわ」
「それが賢明だ。俺も似たようなものだし」
「では今度一緒にワールド・エンドで実戦訓練をしましょうか」
「おう」
「ところでリオちゃんはまだなのか?」
「まだ、みたいですわね」
「まあ俺たちが早かったんだろ。時間がかかっているのかもしれないし」
「あの子も実力を発揮出来ればいいのだけれど……」
アリシャが心配そうに呟く。
なんだかんだでリオのことを心配しているらしい。
「ま、大丈夫だろ。俺たちと一緒に打ち上げするのを楽しみにしていたし」
「ですわね」
「よーし。戻ってきたらほめてやるぞ、リオちゃん」
「だからわんこ誉めはやめてやれよ……」
「えー、いいじゃん。リオちゃんはわんこ扱いされてるときが一番可愛いんだし」
「……いつか噛みつかれるぞ」
がうっ! って感じで。
……いや、無理かな。
だってリオだし。
うるうるしながら更に泣いてしまいそうだ。
さすがにそうなったら慰めるけど。
しかしリオはすぐには戻ってこなかった。
俺たち三人のライセンスが発行されても戻ってこない。
かれこれ三時間ほど、俺たちは受付の前で待つことになったのだが……
「た……ただいまですぅ~……」
ふらふらしながら戻ってきたリオ。
全身傷だらけの服はボロボロだ。
「リオっ!」
立っているだけでもキツそうなリオに駆け寄って、俺は慌てて回復呪文をかける。
「大丈夫か!?」
「あ、ありがとうございます~。大丈夫ですぅ」
「どうしたんだよ。もしかして失格か?」
「ええと……」
リオが気まずそうに視線を逸らす。
え、ちょっと、マジで失格なのか?
この状況で一人だけ失格って……気まずすぎるんですけど……
「あ、大丈夫です。合格はしました!」
そんな俺の気まずさに気づいたリオが慌てて言う。
「そっか。合格したのか。よかったじゃないか」
「えへへ……でも……」
「?」
「合格するまで五回ほどやり直しでしたけど……」
「………………」
気まずそうに頬を掻くリオ。
五回って……
マジか……
詳しい話を聞くと、リオは最初の試験ではまったく動けなかったらしい。
緊張しすぎてかちんこちんだった。
そこを試験対象から攻撃されて撃沈。
ちなみに忍者の試験対象は同じように忍者スキルを持った使い魔らしい。
魔法使いは一定レベルの魔法を使える使い魔になっている。
同じスキルを持つ者をぶつけ合って実力を見るという方式だ。
あっという間に失格してしまうリオはものすごーく落ち込んだらしい。
しかし十分ほどで立ち直って、試験官にリトライをお願いしたらしい。
二回目は少しだけ動けたが、やはりまだ実力を発揮出来なかった。
三回目、四回目も同様で、そうしているうちにズタボロにされたらしい。
しかしそこまでボロボロになってようやく緊張が解けた……というよりはヤケクソモードに入ったらしく、本来の実力を発揮して忍者を撃破。
ある程度追いつめた方が存分に実力を発揮できるらしい。
厄介な性格だ。
しかし五回もリトライさせられた試験官は辟易しただろうな……
しかしそれ以上に五回も挑戦して見せたリオの根性を誉めてやりたい。
内気でおどおどしたリオがそこまでの負けん気を発揮してくれるとは思わなかった。
「偉いぞ、リオ。よく諦めずに頑張ったな」
偉い偉い、とリオを誉めてやる。
くしゃくしゃと頭を撫でる。
「えへへ~。だって打ち上げするって約束したじゃないですか。ミートパイの為にも頑張りました~」
「………………」
一番の目的が致命的にずれている気がするのだが、突っ込まない方がいいんだろうな……
結果としてずれた目的の為に頑張れたのだろうし。
純粋なライセンス取得の為だったら、リオは早々に諦めてしまっていた気がする。
一緒に俺たちを、そして自分を祝いたいからこそリオは頑張ったのだ。
何度失敗してもくじけずに。
強くなった、と思う。
初めて会った頃のリオならすぐに逃げ出していただろうに。
失敗を恐れて、投げ出していただろうに。
失敗しても逃げずに、何度も何度も挑んだ。
それは間違いなくリオが俺たちと出会ってから得た強さだ。
そんなリオの友達でいられることがとても誇らしい。
「ほら、早くライセンス発行手続きをして来いよ。そんで打ち上げに行こうぜ」
「はいっ!」
ぐいっとリオの肩を押してやると、元気よく頷いた。
こうして俺たちは全員、D級ライセンスを取得したのだった。
めでたしめでたし。
全員分のライセンスをゲットしてから、俺たちは黒兎亭へと向かう。
リオを待っていたから腹ぺこだ。
「あう~。ごめんなさい。私のせいで遅くなって……」
昼飯にする筈が夕飯になってしまったのでリオが恐縮していた。
「いいんですのよ。全員で祝わなければ意味がありませんからね」
「そうそう。リオちゃんは頑張ったよ」
「あう~。次はもっと早く出来るように頑張ります~」
「やっぱり次も一緒に受けるのかな……」
今回タイミングが重なったのは偶然だけど、この調子だと次も同じように重なりそうだ。
そして打ち上げに行ったり……
それはそれで楽しそうなので大歓迎なのだが。
そして黒兎亭に到着。
それぞれが飲み物と好物、そしてほかのごちそうを頼みまくって、テーブルはかなーり豪華なことになっている。
ミートパイやギドニーパイだけではなく、子豚のローストや鉄板ステーキ、からあげまで並んでいる。
食べ盛りの俺たちにはこれぐらいあっという間だろうが。
「それでは俺たち全員のD級ライセンス取得を祝って、かんぱーい」
俺がジュースの入ったグラスを掲げて音頭をとる。
「「「かんぱーい」」」
ヴァルたちもそれに合わせてかちん、とグラスをぶつけてきた。
「うおっ。これうまっ!」
「こっちも最高だっ!」
「はう~。ミートパイでりしゃすです~」
「相変わらず見事ですわね、このギドニーパイは」
それぞれの好物をむさぼり尽くしながら盛り上がる俺たち。
ちなみに俺は骨付き肉が大好物だ。
骨の部分を掴んでからかぶりついてむしゃむしゃたべるのがたまらない。
したたる肉汁とか最高だ。
ごちそうも食べてそれなりに胃袋が落ち着いてくると、まったりとした空気になる。
のんびりまったり、このまましばらくだべっていたいという気分だ。
「何はともあれ、これでいつでもワールド・エンドに潜ることが出来るわけだ」
それは俺たちにとって大きな一歩であり、ワクワクする事実でもあった。
本当なら今すぐにでも飛び込みたいところだが、さすがにそれはせっかちすぎる。
ワールド・エンドに潜る間は授業を休んでもいいことになっている。
だからいつでも潜ることが出来るのだが、すぐにという訳にもいかない。
まずは装備を調えなければならないし、回復用の薬なども揃えなければならない。
いくら俺が回復呪文を使えるといっても、魔力だって有限なのだから、いざという時の備えは必要だ。
それに回復の為の魔力を使いすぎて攻撃の為の魔力が枯渇したとかいう事態は遠慮したい。
備えあれば憂いなし。
準備に手抜きをすれば命に関わる。
ここは念入りに揃えるべきだろう。
「俺は次の休みに剣を買いに行くぞ」
「じゃあ俺もそうしようかな」
「じゃあ一緒に行こうぜ」
「おう」
来週はヴァルと買い物だな。
「あ、あのあのあの……私も一緒に行きたいです……」
「おう。一緒に行こうぜ。アリシャもどうだ?」
「わたくしはもう自分専用の杖がありますから」
「そうなのか。じゃあ三人で行くか」
「……こほん。ですが魔法薬などの消耗品が心許ないので、ご一緒しますわ」
「………………」
素直じゃないなー。
一人だけ置いて行かれるのは寂しいとか、一緒に行きたいとか言えばいいのに。
「……何か言いました?」
「何も言ってないよっ!」
ジロリと睨まれる。
いや、言ってないよ。
考えただけだよ。
それなのにどうして分かっちゃうんだ?
鋭すぎだろお嬢様。
「べ、別に寂しいなんて思っていませんわよっ!」
「あ、うん……そうだな……」
墓穴掘ってますよお嬢様。
「……アリシャお嬢様って結構分かりやすいよな?」
「ですね。でもそこがアリシャさんのいいところだと思います」
「オレはもう少し素直でもいいと思うけどな」
こそこそと言い合うヴァルとリオ。
もっともだとは思うけど……
「こそこそとうるさいですわよそこっ!」
「「ひいっ!」」
アリシャお嬢様の地獄耳をもう少し考慮した方がいいと思うぞ。
何せ口に出していないことまで聞き取るウルトラ・ヘル・イヤーだからな。
「まあまあ、俺たちだってアリシャと一緒に行ける方が嬉しいんだし、そんなに怒るなよ」
「そ、そうそう。やっぱりみんな一緒の方が楽しいしっ!」
「そうですよっ! 一緒に行きましょう、アリシャさん!」
必死で宥める俺たち。
怒れるお嬢様の炎は少しだけ和らいだようだ。
「む……。そこまで言うなら一緒に行ってあげますわ」
ほっと息をつく。
アリシャのこういう物言いにも慣れてきた。
照れ隠しだと思えば可愛いし。
というわけで買い物は来週の休みに、ワールド・エンドへはその次の週に行くことにした。
のんびりと装備と心の準備を整え、万全の体制で潜るのが一番だ。
じごくみみ~♪




