魔法剣には気をつけよう……
そして翌日。
俺とヴァルはライセンス受験受付窓口までやってきたのだが……
「あ」
「………………」
偶然というにはあまりにも出来すぎたタイミングで、アリシャとリオに鉢合わせた。
「よう、おはよう。アリシャお嬢様にリオちゃん」
「ええ、おはよう。フェリクス、ヴァルクリス」
「おはようございますぅ」
「奇遇だなぁ。二人もライセンス受験か?」
「その通りですわ。リオとも相談して、一緒に受けようということになりまして。まさか貴方達と鉢合わせになるとは思いませんでしたけど。せっかく驚かせて上げようと思っていましたのに。つまらないですわ」
ちょっとだけむくれたように言うアリシャ。
驚かすつもりだったのかよ……
受験書類を持ったまま自信なさそうにしているリオの頭をとりあえず撫でてやる。
緊張しているみたいだからこれで落ち着けばいいんだけど。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
「うん。じゃあ頑張れ。ここで受かれば俺たち四人とも一緒にライセンスが取得出来るぞ」
「で、でもあんまり自信がないです」
「頑張れよ。ちゃんと取得できたら今度は四人でワールド・エンドに行こうぜ」
「一緒に行ってくれるんですかっ!?」
「もちろん。一人よりは四人の方が安全だし、それに楽しいじゃないか」
「そうですねっ!」
「やる気出たか?」
「はいっ!」
「自信湧いたか?」
「あう……が、頑張りますっ!」
「よし、その意気だ」
再びリオの頭を撫でる。
嬉しそうに目を細めているリオ。
うーん、やっぱりわんこみたいだ。
お手とか言ってみたい。
……怒りそうだから言えないけど。
「ほらほら、じゃれついていないでさっさと手続きを済ませますわよ」
「はい~」
そんな俺たちを見てやれやれと肩をすくめるアリシャ。
「リオちゃん。大丈夫だ。緊張したら三回まわってわんと言うんだ」
「犬じゃないですーっ!」
「よーしよしよし。どうどう」
俺と違って少し乱暴にリオの頭を撫でるヴァル。
あれじゃあ本当にわんこ扱いだ。
しかしヴァルもリオのことを本当に気に入っているらしい。
すぐにああやって構いたがるし。
……まあ恋愛感情というよりはペット愛みたいな感じだけど。
「フェリクスは剣士で受けるんですの?」
「そのつもりだけど」
「残念ですわね。魔法なら一緒に受けられましたのに」
「まあどっちでもいいんだけどさ。先にヴァルに誘われたからな。それに今のところ一番の得意分野はこっちだし」
そう言って木剣を掲げる。
他のスキルもそこそこ上げてるけど、やっぱりローゼ仕込みの剣術が最も練度が高い。
「……あれだけ魔法を使いこなしておいて一番ではないというのが実に腹立たしいですわね」
「うわ。怒るなよっ! 魔法だって得意なんだからっ! ただこっちは優秀な師匠がいたってだけだよ!」
怒らせると厄介なアリシャをなんとか宥めようとする。
「……まあいいですけど。どっちみち負けませんし」
「なら怒るなよ……」
「同じ分野で競ってくれないとライバルとして張り合いがないんですのよ」
「どうどう、ちゃんと魔法でも頑張るからさ」
「その言葉、忘れませんわよ」
「へーい……」
やる気をみなぎらせているアリシャとは対照的に、俺は適当な返事を返しておく。
不真面目に見えるかもしれないけどこれは性分だから勘弁してほしい。
何事も本気で打ち込む主義だが、本気の態度を見せるのは躊躇われるのだ。
何故かと言われると何となくそうしたいから、としか言いようがないのが困るけど。
そして俺とヴァルは剣士、アリシャは魔法使い、リオは忍者のライセンスを取得するために受験の手続きを済ませる。
……しかしリオは忍者か。
隠密にいるんだから当然の選択かもしれないけど、あそこまでおどおどした忍者というのは珍しいかもしれない。
受かれば……って受かるに決まってるけど、なかなか面白い忍者になれると思うんだけど。
「終わったら黒兎亭で打ち上げしようぜ」
「いいな、それ。うまいものたっくさん食おうぜ!」
俺の提案にヴァルが真っ先に賛成した。
「まあ、構いませんわ」
アリシャも賛成。
「楽しみです~」
黒兎亭のミートパイが大好物のリオはテンションが上がったようだ。
もちろん全員ライセンス取得祝いという名目だ。
受かること前提だ。
黒兎亭はアカデミーアから少し離れた遊興地区にある食事処だ。
肉、魚、麺、野菜、酒と何でも出してくれるお店で、その味は絶品だ。
何でもとある国の宮廷料理長が国元を出奔してから開いたお店らしい。
見栄えのいい宮廷料理よりも、庶民が食べるようなごった煮や丸焼きなどの豪快な料理を作りたかったらしい。
そして宮廷料理長を勤めただけあってその腕は超一流。
舌の肥えたアリシャお嬢様も不承不承ながらごった煮や丸焼きの味を褒めるぐらいのレベルだ。
ちなみにアリシャの好物はギドニーパイだったりする。
お嬢様のくせに内臓料理が気に入ったらしい。
ああいう半ゲテモノ系はどうやっても実家で食べられないし、料理人も作ってくれないから逆に新鮮だったとかなんとか。
しかし獣の内臓を美味しそうに食べるお嬢様というのもなかなかシュールな図だった。
俺もヴァルも黒兎亭なら何でも好物だ。
お値段も庶民設定で大変リーズナブルだし、仲間内で打ち上げをするなら断然あそこだ。
「よし。じゃあ黒兎亭の打ち上げ目指してがんばるぞーっ!」
「おう」
拳を握るヴァル。
「もちろんですわ」
腕を組んでふふんと不敵に笑うアリシャ。
「頑張りますっ!」
両手をぐっと握りしめて意気込むリオ。
三者三様の気合いの入れ方だった。
そして俺とヴァルは試験会場に移動する。
訓練場と似たような場所だが、ここはもう少し狭い。
一度に利用する人数が少ない所為だろう。
壁際には試験管が一人立っている。
そして試験を開始する前に俺たちは持っていた木剣を回収され、真剣を手渡される。
「ワールド・エンドに潜るということは実戦に出るということを意味する。本物の剣で敵を斬るということに慣れておいた方がいいからな。試験では真剣を使うことになっている」
と、試験管が説明してくれた。
なるほど、一理ある。
「………………」
真剣を持ったのは初めてではないけど、これで戦う時はいつも緊張する。
うっかりしたことで大切な人や自分を傷つけてしまいそうで怖いのだ。
しかし俺に剣を教えてくれたローゼはその恐怖を忘れるなと言った。
それはとても大切なもので、それを忘れた時、戦士の魂が歪むのだと。
「……うん」
ヴァルも真剣をもって頷いている。
その表情はいつものお気楽で無鉄砲なものではない。
引き締まった戦士としての表情だ。
エーデルハイトも戦士の家系だ。
同じような心構えを教育されているのだろう。
そしていよいよ試験開始だ。
試験の対象はやはり最初の時と同じように、騎士の絵が書かれたカードの魔法具だった。
色は緑。
赤い騎士よりも更に大きな魔力を感じる。
「では始めようか」
試験管がカードを二枚破く。
すると緑の騎士が現れる。
「………………」
俺は剣を構えて気を引き締める。
自分から攻めるか、それとも相手の攻撃を受け流すか、どちらにしようか考える。
「………………」
しかし緑の騎士は動かない。
「む……」
こちらから攻めないと駄目なのか?
「ふうー……」
呼吸を整えてから身体に気を巡らせる。
俺もわずかだエクシードを扱えるので、こうすることで筋力以上の力を発揮できるのだ。
D級相手にそこまでする必要はないかもしれないが、俺だって修行の成果を発揮する機会は欲しい。
ここにやってきたばかりの頃はまだうまく扱えなかったエクシードだが、鍛錬を続けることにより、簡単な身体強化ぐらいなら出来るようになったのだ。
剣気を漲らせて、そして攻め込む。
「はあっ!」
まずは小手調べの三段突き。
もちろん全力ではない。
三つのうち一つは緑の剣に弾かれたが、二つは命中した。
確実にダメージは与えられた。
「くっ!」
しかし相手は人間ではないし、ましてや生物でもない。
ダメージを与えたからといって動きが鈍るような造りではないのだ。
なめらかな動きでこちらに斬り返してくる。
それを紙一重で避けてから、もう一度攻撃する。
避けた身体を反転させて剣を一閃。
逆袈裟斬りにすると、緑の甲冑がぱっくりと割れる。
中から緑の光がはらはらと漏れ出す。
緑の騎士を構成している魔力だろう。
ダメージは甚大。
もう少しで倒せる。
しかしここまでダメージを与えても、やはりふらつきもしない。
緑の光を撒き散らしながら攻め込んでくる緑の騎士。
その攻撃を受け止める。
「……さすがに赤いのよりは重いな」
試験用の騎士だけあって攻撃の重さはかなりのものだ。
もちろん受け止められないほどではないが、しかし油断も出来ない。
最低ランクだからといって、雑魚扱いは出来ない。
Dならそれなりに楽勝だろうと心のどこかで考えていた慢心を改めて恥じる。
楽勝なんてとんでもない。
どんな時でも真剣勝負の心構えを忘れるべきではなかったのだ。
それを思い出した俺は剣だけの勝負だと決めていた制限を外す。
全力で戦わなければ失礼だ。
それがたとえ意志を持たない道具の騎士であっても。
「そうだよな、ローゼ!」
身体強化で引き上げられた筋力を最大限に発揮して、剣を力ずくで押し返す。
わずかに緑の騎士の体勢が崩れたところで蹴りを入れる。
これも強化された攻撃なので緑の騎士が吹っ飛ぶ。
「炎熱剣!」
ごうっ!
剣に炎が巻き付く。
いや、剣が燃えているのだ。
剣に炎の攻撃力を上乗せした魔法剣。
これが魔法剣士の必殺技だ。
物理無効タイプにも剣での攻撃ができるという優れもの。
「はあああーーっ!!」
そして一気に緑の騎士へと肉薄して、炎熱剣を振り下ろす。
炎は緑の騎士をも包み込んで、そして消滅した。
「はあ……はあ……」
とりあえず倒せた。
これでD級ライセンスを取得できた。
喜ぶべきなのだが……
「げ……」
ぼろ……と手に持っていた剣が崩れる。
「うわあああ……」
どうやら俺の魔力に耐えられなかったらしい。
やばいって!
これ借り物の剣なのにっ!
しかしそんな俺の焦りなど知らんぷりで、乾燥した土のようにぼろぼろと崩れてしまう剣。
ついには原型を留めない程になってしまう。
「どどどど……どうしよう……」
怒られる……
借り物の剣を壊したとか、マジで最悪だ。
俺がビクビクしていると、試験管が複雑な表情で近づいてくる。
うわー、怒られるーっ!
「とりあえずおめでとう、合格だ」
「は、はひ……ありがとうございます……」
合格は嬉しいけど、とりあえずって……
「だが剣を壊されては困るな」
「す……すみません……」
本当に申し訳ないです。
マジで反省しています。
「魔法剣士か。しかし剣の耐久度を越える魔法を上乗せするとは、本当に一年生か?」
「い、一応……」
「まあいい。今回は大目に見よう。今後は試験で魔法剣の使用は控えるように。貸し出す剣はそこまで高価なものではないから、強力な魔法には耐えられない」
「そ、そうします。本当にすみませんでした」
「次にやったら弁償だからな」
「き、肝に銘じますっ!」
弁償は怖い。
真剣ってこう見えて結構高いし。
マジで気をつけますっ!
「しかし実力はかなりあるだろう? この調子でC級も受けてみたらどうだ?」
「い、いえ……まだ未熟者ですし……。それに一度ワールド・エンドを肌で感じ取ってから受けようと思います」
「そうか。確かにそれがいいな」
いくら実力があっても実戦を知らなければ戦力にはならない。
強引にライセンスのランクだけを引き上げても意味はないのだ。
「うあ~。強かった~。何とか合格したぜ」
そしてヴァルも合格したようだ。
しかし苦戦はしたようで、ちょっとふらふらだ。
身体のあちこちに傷をこさえてしまっている。
「回復してやろうか?」
大した傷ではないようだが、かといって放っておくのもよろしくない。
医務室に行けば回復してもらえるが、ここでやった方が手っ取り早いだろう。
「あー、頼むわ」
「おっけー。小回復!」
一番魔力消費の少ない基本的な回復魔法をかける。
大した傷ではないのでこれで十分だ。
ヴァルの傷がみるみるうちに消えていく。
血の跡だけが残る身体はすっかり回復していた。
「さんきゅ~」
「どういたしまして」
「二人ともおめでとう。これでD級ライセンス取得だ」
試験官が祝いの言葉をくれる。
初めての勲章に俺たちはうなずいた。
自爆話?




