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わんことお嬢様と少年

ようやくタイトルらしくなってきた感じ?

 授業が終わり、二人で食堂に移動する。

 先に終わっていたリオが席を取ってくれていた。

「フェリクス~、こっちです~」

「おう。サンキューな、リオ」

「いえいえ~。これぐらい激安ご用ですぅ」

「激安なのかよ」

 嬉しそうにはしゃぐリオがちょっと可笑しかった。

「あれがリオさん?」

 俺の横でアリシャが呟く。

「そうだよ。ジェラルリオ・メディシスっていうんだけど」

「……毒の家系ですわね」

 アリシャが少しだけ不快そうに眉を顰める。

「やっぱり詳しいんだな」

「これは貴族社会に詳しいこととは別ですわ。メディシス家は貴族に対する暗殺も請け負っているんですのよ。警戒するのは当然です」

「なるほど……」

 こりゃあ失敗だったかな。

 リオ自身はとてもいい子なのだけど、それとこれとは別問題なのだろう。

 リオのこととは別に、メディシス家を警戒するのは貴族として当然のことだ。

 先に告げておくべきだったかな。

 これは俺の配慮が足りなかった。

「どうする? 関わりたくないならこのまま戻るか?」

「………………」

「アリシャ?」

「フェリクスはあの子と友達なのでしょう?」

「そうだけど?」

「あの子の正体を知った上で、それで友達になったんですの?」

「血液のことか?」

「ええ。致死の血液。それがメディシス家の忌々しいやり方ですわ」

「というか俺、一回触っちゃったし」

「っ!?」

 ぎょっとしてアリシャが俺を見る。

 その表情はどうして生きているのだ! という驚愕に満ちていた。

 ……得体の知れないモノを見るような目はやめてほしいんだけどなぁ。

「毒には耐性があるんだ。無効化出来るスキルもあるし」

「……なるほど。アストリアの加護ですか」

 おおー、やっぱり知識量が半端じゃないな、このお嬢様。

「そういうこと。だからリオは俺にとって危険でも何でもない」

「………………」

「でも確かにこれは俺が軽率だった。うっかり触れればアリシャが危険かもしれないし。無理そうならこのまま戻ってくれ」

「……いいえ。戻りません」

「へ?」

「戻りません。彼女と一緒に食事をしますわ」

「い、いいのか?」

「フェリクスは友達として彼女を信頼しているのでしょう?」

「もちろん」

「だったらわたくしもとりあえず彼女を信頼します。友達が信頼している相手を同じように信頼するのは最低限の礼儀だと思いますから」

「最低限どころか最高級だと思うよ」

 この誇り高さは本当に尊敬する。

 不快感も恐怖も消えた訳ではないだろうに、自らの矜持に従って行動する。

 なかなか出来ることじゃないよな。

 少なくとも普通の貴族には無理だ。

「さあ、行きましょう。あまり女の子を待たせるものではありませんわ」

「紳士だねぇ」

「淑女ですっ!」

「そうだった」

 あまりにも性格が男前なのでつい……

 いや、褒めてるよ?

 めっちゃ褒めてるよ。


「あう……あうぅ……」

 そして顔を合わせる俺たち。

 リオの方はビクビクしている。

 小動物めいていて可愛いのだが、いつまでも怯えさせておく訳にはいかないだろう。

「あー、リオ」

「はいぃ」

「こちらはアリシャ・フォンカーベルさん。魔法と体術の授業で一緒になってるんだ。俺の友達」

「よろしくお願いしますわ」

 優雅に一礼するアリシャ。

 うーん、様になってるなぁ。

 今は制服だけど、ドレスとか超似合いそう。

「で、こっちはジェラルリオ・メディシスさん。隠密の授業で一緒になっている俺の友達」

「はうぅ。よよよよよろしししくお願いしししますぅぅ~」

 びくびくおどおど。

 プルプル震えているリオ。

「そんなに怯えなくても噛みつかれたりしないよ」

 そんなリオを宥めようとするのだが、

「噛みついたりするわけないでしょうっ!」

「うわっ!」

「ひいっ!」

 ……俺が噛みつかれてしまった。

 迂闊なことを言うとすぐに怒ってしまうから怖い。

「あー、リオ。落ち着け。大丈夫だから」

「あうあうあうぅ~」

 俺にしがみついて涙目になっているリオ。

 可哀想に。

 すっかり怯えてしまっている。

「よしよし。大丈夫大丈夫」

「はう~」

 なでなで、と頭を撫でてやるとようやく落ち着いたようだ。

「む……」

 そして何故かアリシャがむくれている。

 何で?

「いつまで人をのけ者にしていちゃついていますの?」

 じとーっとしたアリシャの視線が怖いよ。

「いちゃついているように見えるのか?」

「違うとでも?」

「どちらかというと泣いている子供を宥めているつもりなんだけど」

「………………」

 リオはビクビクしながらもこくこくと頷いている。

「まあいいですわ。それよりも食事にしましょう」

「そうだな。大丈夫か? リオ」

「はいぃ。大丈夫ですぅ」

「敬語禁止だって言っただろ?」

「あう……」

 さっきから敬語になってるのが気になっているけど、言い出せる雰囲気ではなかったので我慢していた。

 名前は呼び捨てにしてもらえるようになったけど、まだまだ壁があるように思える。

 ちょっと寂しいぞ。

「フェリクス」

 しかしそんな俺たちに少しだけ厳しい声がかけられる。

「女の子に無理強いをするものではありませんわよ」

「別に無理強いはしていないぞ。友達なのに敬語でしゃべられるのは寂しいじゃないか」

「その言い分は認めますけれど、ジェラルリオさんは遠慮して敬語になっているというよりは、そのしゃべり方が一番馴染むからこそそうなっているのではありませんか? だったらそれは彼女の個性です。貴方がとやかく言う問題ではありませんわ。譲歩するべきではなくて?」

「むぅ……」

 確かにそれはその通りだ。

 リオの場合はついつい敬語になっている、という感じでもある。

 だったらリオが一番しゃべりやすい方にしてもらうのが最善なのかもしれない。

「リオはその方がいいのか? 遠慮とかしてないか?」

「しししししてません。このしゃべり方が一番しっくり来るんです。その、駄目ですか?」

「うっ」

 うるうる涙目で見上げるのは卑怯だよっ!

 小動物系の女の子にそんなことされたら逆らえないよっ!

「うん……まあ、リオがそうしたいって言うんなら……」

「はいっ!」

「あ、でも名前は呼び捨てにしてくれよな。友達なんだから」

「はい! フェリクス!」

「うん」

 おー、ぶんぶん振られている尻尾の幻覚が見えるようだ。

 子犬系だよな、リオは。

 血液は毒蛇だけど。

 ……よく考えたら凄い組み合わせだな。


 そして食事たーいむ。

 俺は唐揚げ定食、リオはラーメン、そして驚いたことにアリシャはハンバーガーセットだった。

 まさかお嬢様がこんなジャンクフードを召し上がるとは……

「何ですの?」

 じとーっとしたままアリシャが睨みつけてくる。

 なんだかさっきから機嫌が悪いんだよなぁ。

 何かしたっけ、俺。

「いや、ちょっと意外だっただけ」

「好き嫌いはありませんわ。それに庶民の食事というのもたまには面白いですし」

「庶民って……」

 さすがお嬢様。

 庶民の、という言葉が普通に似合うよ。

 傲慢というよりは自然なのが恐ろしい。

 ハンバーガーを食べているのに、その仕草も上品だ。

 小さな口ではむ、はむ、とかじっている。

 決して下品にはならないし、大口も開けない。

 こんなに上品にハンバーガーを食べられる人間がいるなんて思わなかったよ。

 ポテトを摘む手すら気品に溢れている。

 これが本物の貴族様か。

 ローゼも同じ貴族なのだが、彼女はもう少しアバウトだ。

 上品に振る舞うことも出来るが、人目を気にしないときは豪快にかぶりついたりもする。

 骨付き肉に牙を突き立てて肉汁をしたたらせているような姿は実にローゼらしいと思うけど、さすがに他の人には見せられない。

「このような姿、さすがに一族の人間には見せられませんけどね」

 やれやれと肩をすくめながらぼやくアリシャ。

「そうか? 十分に気品があると思うけど?」

「こんなものを食べている姿を、ということですわ」

「やっぱり不味いのか?」

「専用のコックをこちらに送り込んでくるぐらいですからね。食事の管理までされているのが現状ですわ」

「誘っておいてなんだけど、いいのかよ?」

「構いませんわ。彼らは料理をするだけではなく、わたくしの命令に従うのも仕事ですからね」

「うーわー。貴族系発言だなあ」

「貴族ですから」

 ふふん、と優雅に紅茶を飲むアリシャ。

「ジェラルリオさんだって一応は貴族でしょう?」

「へうっ!」

 いきなりリオに水を向けるアリシャ。

 まだこの中に馴染めないリオはビクビクしている。

「そんなに怯えられる筋合いはありませんわよ。貴女はフェリクスの友達なのでしょう? わたくしも同様ですわよ。そのわたくしを信用できませんの?」

「そ、そそそそそんなことはないですぅ……」

 信用していないのではなく、やっぱり毒してしまうのが恐ろしいのだろう。

 アリシャはリオの正体を知っているし、迂闊なことはしないと分かっていると思うのだが。

「わたくしは歩み寄っているつもりですわよ。だから貴女も歩み寄ってくれると嬉しいですわ」

「あの……」

「何ですの?」

「ええと、私のところも一応貴族ですけど……でも……あんまり貴族って感じじゃないというか……その……請負人みたいなところがあるので……貴族の振るまいなどはあんまり学んでいないんです……」

 たどたどしいながらもリオが答えた。

「なるほどね。立場だけ、ということですか。そういう家もあることは知っていますが」

 優雅に紅茶を飲むアリシャ。

 様になってるなぁ。

「あう~」

「まあいいですわ。友達に貴族としての振る舞いを求めたりはしませんもの」

「はう~」

「ところで」

「はひ!?」

「わたくしと友達になるつもりはありますか? ジェラルリオさん」

「えっと……えっと……その……私なんかで……あうっ! ごめんなさいっ!」

 また自分を卑下するようなことを言おうとしていたので軽く睨みつけておく。

「その……私でよければ……」

 戸惑いながらも嬉しそうにはにかむリオ。

 少しずつだけど、リオも変わってきている。

 前に踏み出そうとする勇気を出せるようになってきたのは大きな進歩だと思う。

「それではわたくしたちは友達ですわ」

 そう言ってアリシャは右手を差し出す。

「はい。よ、よろしくです」

 おずおずしながらも同じように手を伸ばすリオ。

 毒の手であると分かっていても、アリシャは一瞬たりとも躊躇わなかった。

 しっかりとリオの手を握る。

「………………」

 その力強さに、リオが涙ぐむ。

 嬉しそうなのでこれはきっといい涙だ。

「よろしくね、ジェラルリオ」

 友達になったからには呼び捨てにするのが流儀なのだろう。

 アリシャの言葉が少し気安いものになる。

「よかったらリオって呼んでください」

「ではリオ。わたくしのこともアリシャでいいですわよ」

「はい、アリシャさん」

「おー、よかったよかった。これで友達の輪が広がったな」

「それには少しばかり疑問が残りますが……」

「へ?」

 何故かジト目で俺を見るアリシャ。

 どうしてそんな目で見るんだ?

 っていうか俺が一体何をした?


 いざ仲良くなってみるとリオとアリシャは気が合うようだった。

「だから香水はセルリア商会のものがいいのですわ。あそこの商品は自然素材を使っていますし、香りも爽やかなものが多いでしょう? どの場合でも無理なく使える無難なものが多く手に入りますし」

「それはそうかもしれませんけど、でもセルリア商会さんの商品ってすっごく高いじゃないですかぁ」

「メディシス家の財力で買えない値段ではないでしょう?」

「私に動かせるお金はほとんどないので無理ですよぅ」

「家からの支援は?」

「家出同然でここに来たのでないですぅ。学費と最低限の生活費だけはもらってきましたけど、一年が限界っぽいです。もう少し実力がついたらライセンスを取ってワールド・エンドに潜ろうかと思っていますけど」

「確かに稼ぐならそれが手っ取り早いですわね」

「ですよね。だから頑張ってます」

「ではその時は一緒に行きましょう。香水ゲットの為にバリバリ稼ぎますわよ」

「えっと、でもアリシャさんはお金には困ってないでしょ?」

「困ってはいませんけど、友達の力になるのは当然でしょう? わたくしがリオに施すのはお互いの為になりませんし。だったら自分にもリオにも利益のある形で力になるのが無難だと思いますわ。成長にも繋がりますしね」

「で、でも私、香水とかはあんまり……」

 あまり興味がないらしい。

 というか女の子って……

 女の子って話題が尽きるっていう単語が存在しないんだろうか。

 さっきから俺のことを置いてけぼりでしゃべり通しだぞ……

「あら、女の子がお洒落に興味が薄いのは感心しませんわよ」

「え?」

「だって、ねえ……」

「へう?」

 アリシャがリオの耳に顔を寄せて何かを囁く。

「ね?」

 そしてウインクしながら笑う。

「はうっ! べべべべべつにわたわたわわわ私……そそそそんなんじゃ……」

「真っ赤ですわよ?」

「あう~」

「というわけで少しぐらいは興味を持っておいた方がいいと思いますわ」

「や、やっぱりその……なんでしょうか……?」

「?」

 何故そこで俺を見る?

「一概にそうとは言えないかもしれませんけど、でも自分を磨くことを怠るべきではありませんわ」

「た、確かに……」

「リオはわかりやすいので面白いですわ」

「あう……アリシャさんはどうなんですか?」

「わたくしはまだそういうのではないですわね。面白いとは思いますけど」

「そうなんですか」

 ほっとするリオ。

 だがアリシャがすぐに意味深な笑みを浮かべる。

「今後はどうなるか分かりませんけどね」

「うぅ……アリシャさん相手だと敵わないですよぅ」

「あら、そんなことはありませんわ。その小動物めいた臆病さとか、殿方の保護欲をかき立てるには十分な魅力がありますわよ」

「小動物って……」

「お手」

「へう?」

 きょとんとしながら差し出された手にぽんと自分お手を乗せるリオ。

 そしてはっとする。

「い、犬じゃないですーっ!」

「ふふふ。やっぱりからかうと面白いですわね」

「おもちゃにしないでくださいっ!」

「されたくなければもう少ししっかりすることですわ」

「あう。頑張りますぅ」

「まあそのどじっぷりが可愛いという殿方もいるかもしれませんが」

「うぐ……ど、どうすれば……」

「それは自分で考えることですわね」

「はう~」

「まあその小動物属性は改善しようと思って出来るものでもないでしょうけど」

 ふふん、と意地悪く口元をつり上げるアリシャ。

 悪女笑いがとても似合うよお嬢様。

「ひ、ひどいですよ~っ!」

 ぷんすかと頬を膨らませるリオ。

 うん。

 気を許しているようで何よりだ。

「それにしても、やっぱり俺だけ置いてけぼりだなぁ……」

 女の子が楽しそうにしているのを見るのはこちらも楽しいけど、でもちょっとだけ寂しいぞ。

フラグ立てまくってるなぁ、少年。

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