箱庭番外編② 二億年前の夢
秀哉の実力を隠す理由がイマイチ納得できないと言われたので衝動的に書いてみた。反省はしていない。
受験生の人は読まないほうが良いです。
「おい、起きろ」
「ふがっ!?」
後頭部を殴られて目が覚める。凄く痛い。
……目が覚める?
「俺、寝てた?」
「二時間ぐらいな」
「……そっか、ごめん。次は何をすれば良い?」
「あーあー、もう良い、終わった」
「終わった?」
「五分前にな。で、お前が寝てるのに気付いて起こした次第だ」
兄貴がそう言って分厚いどこかの国の言語で書かれた本を見せてくる。それで殴ったのかよ、クソが。
「……そっか、終わったんだ。睡眠時間を削って手伝う事も、徹夜をして手伝う事も終わりか」
「おう、悪いな付き合わせて」
兄貴が、不健康な生活で痩せて青白くなった顔で、満足そうに笑う。
その周りでは、ラバルさんもヴィスヒツさんもメロナさんもエルナさんも、似たり寄ったりの健康状態で、それでも笑っていた。
「一年近く掛かったが、神の不在は証明できた。これで戦争は無くなる」
「良かったね」
心からそう言う。
いつもの俺には理解できない研究じゃなくて、俺でも分かりやすい目的の研究の達成は、内容が分からないなりにも手伝った事も相まり、胸のうちに誇らしいものが満ちていく。
「まっ、この後研究した成果を論文に纏めて学会に発表する面倒な作業が残っているが、そこはお前に手伝える事はないからな」
「思う存分に休むといいわ。何だったら、どこか長閑な場所で長期間の休養を取るのも良いかもしれないわね。お金は気にしなくていいわよ」
「メロナ、駄目よそんな事をいっちゃ。その前に受験があるんだから」
「ああ、そういえば日本にはセンター試験なる制度が存在するんだったね。休んだら、その勉強を始めないといけない。蛍、その試験日はいつなんだい?」
「俺に聞くなよ。確か1月の13日以降の土日だったな」
つまり今年は20日と21日という事だ。
そして今日の日付は携帯で確認してみると、1月の20日。
あと残すところ一ヶ月しか猶予は……猶予は……
「……兄貴、今何時?」
「……10時ちょっと過ぎだな。お前理系だっけ?」
「うん、理系」
「なら試験開始まであと三十分あるな」
「ここから会場までどんなに急いでも一時間掛かるけどね」
「「「「…………」」」」
うん、まあ、あれだ。
「あ、もしもし、首相さん? ちょっと近隣の警察か病院にヘリを回すよう要請してくれない?」
「いいよそこまでしなくて! つか逆に迷惑なんだけど!?」
「何、三十分掛かる? 舐めてんのか、二十分でやれよ!」
「だからいいって!」
俺の反論は実に虚しく、屈強な警察官の方々に拘束されてヘリに乗せられて運ばれ、何とか試験開始前に会場に到着する事ができた。
「入室時間はとっくに過ぎてるぞ」
間に合ってなかった。
「……何も持ってきてねえ」
研究室に一緒に篭ってたから当たり前だ。受験票も筆箱もない。
というか、届いた受験票に目を通した覚えすらない。
とりあえず筆記具を借りて係員の人に相談して受験番号を特定し、試験開始から15分遅れて受ける事になった。
とにかく焦燥感と不安に押し潰されそうになりながら社会科目の問題を解く。
半分ぐらいしか目を通せず後半は適当に塗りつぶす。
「……眠い」
次の科目の国語の試験が始まって、思い出したように眠気が襲ってくる。
「国語は、得意科目だ。一時間もあれば、解ける。十分だけ……」
ちょっと居眠りする。
目が覚めたら終了十分前だった。
「……理系だし使わないよな」
英語に望みを掛ける。
真剣に取り組む。
問題全てに目を通し、勘などという曖昧なものではなく確信を持った答えのみを塗りつぶす。
全部の問題に取り組み終えたら、見直しもする。
それで三十分時間が余った。
マークシートで埋まってるのは半分ほどだった。
「…………」
帰宅。兄貴の声も遠くに今更のように翌日の試験科目の勉強に取り組む。
結果徹夜。
一夜漬けをした状態で翌日は余裕を持って会場に足を運び、理科の問題に取り組む。
寝落ち、爆睡のコンボ。
もう一つの理科の科目を半泣きで解く。涙で霞んで問題がよく読めなかった。
それでも会心の出来で多少余裕を取り戻すも、仮に満点を取っていたとしても既に手遅れである事に気付いて再び涙目。
最悪のコンディションのまま一番の鬼門である数学に取り掛かる。
「……リバースカードオープン。ブランクペーパー。白紙のまま提出してターンエンドだ」
隣の奴が吹き出して注意されていた。
その後憎しみの篭った視線で睨んで来る。俺じゃなくて問題用紙を見ていろ。
帰宅。翌日に新聞を広げて、したくはないが自己採点をする。
「……私立、私立はセンター試験必要ない」
兄貴に頭を下げて私立志望にする事を伝える。
「浪人しとけ、悪い事は言わないから。付き合わせた俺も悪かったし、それぐらいの一年分の学費なんて余裕だぞ?」
その後の入試も勿論全落ちした。
目の前が真っ暗になった。
――――――――――――
「おい、起きろ」
「ふがっ!?」
コタツに突っ伏した状態で目が覚める。
「……物凄いデジャヴ」
「何がだ?」
「何でも」
あの頃はマジで隕石降って世界滅びろとか思ったな。
大体その半年後にマジで滅びるとは思わなかったが。
「おら、打ち合わせを始めんぞ」
「……打ち合わせ?」
「まだ寝ぼけてるのか? 向こうに下りた時に、怪しまれたり面倒な事にならないように設定を作るって話をしてただろう」
「……ああ、そうだったね」
それをしないとニューアースには行かせてもらえないんだったっけ。
「……俺的には普通に正直に話しても良いと思うんだけどね」
「やめとけ、ガチで」
物凄く真剣な表情で兄貴が言う。
「何で?」
「じゃあお前、まさかこの世界は旧世界の者が創った世界で、貴方たちは旧世界の者が生み出した存在です。そして俺はその旧世界の人間ですとか馬鹿正直に言うのか? やめとけ、本当に。言ったらとんでもない事になるぞ?」
「……具体的には?」
その真剣な表情に俺も飲まれ、緊迫した空気の中答えを待つ。
「イタい奴だと思われて白い目を向けられるぞ」
「そのとおりだね!」
設定はできる限り綿密に練るとしよう。




