表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々に見守られし男  作者: 宇井東吾
一章「箱庭にて」
4/44

ちょっと素直になってみる

秀哉が頑張る動悸を書いてみました。

ちょっと弱い気がしないでもなかったり。


 ショートソード

 品質 最悪

 鉱鎧羊の外殻を鍛えて作られた剣だが、こんな粗悪品はゴブリンでも使わない。


「馬鹿にしてんのかよクソ兄貴!」


 天に向けて咆哮するが、返答はない。会話の成立も向こうの気分次第とは、非常に腹立たしい限りだ。


 手に持った剣を見てみる。

 ティアマントに踏み潰された憐れな鉱鎧羊の外殻を、兄貴に頼んで貰った不思議な石窯(正式名称)という場合によっては鈍器にもなる、着火して中に素材を放り込めばどんなものでも焼いたり熱したり溶かしたりできる石窯で熱してハンマーで叩いて、かろうじて形だけ整えた物を研いで革を巻き付けて柄を作っただけの物。確かに素人目に見ても、ナマクラ同然だろう。

 だがしかし、【分析Ex】で見た時の解説はいくらなんでも酷いだろう。人の恐怖と戦いながらの半年間の成果を、一体なんだと思っているのか。


 ちなみに、ティアマントは俺がこそこそと隠れながら剣を鍛造している間に、箱庭の生態系をこれでもかと言わんばかりに滅茶苦茶にした挙げ句、前と同じように隔離された。

 だが、兄貴の発言からも、そのうち再び出てくるのは明白だ。そうなれば、あの恐怖に苛まれる日々が、再び蘇る事になる。


 想像してみて欲しい。昼夜を問わずに地響きを伴う巨体がうろつき、不意打ちのように衝撃波を伴う咆哮を撒き散らし、様々なブレスが飛び交う様を。


 僅かばかりの睡眠の最中に、突如として轟音と共に撥ね飛ばされ、追い討ちのように極太の雷撃が放たれた時は死を覚悟した。

 広範囲を燃やし尽くす灼熱の炎の噴射は、範囲外にいたはずの俺を輻射熱で炙り、容赦なく酸素を奪って酸欠にした。

 絶対零度の息吹きの余波は俺の体温とHPを掘削機もかくやという勢いで削っていき、兄貴の介入があと一歩遅ければ凍死しており、今ごろは無様な氷像となっていただろう。おまけにその息吹きを受けた地は、箱庭共通の過ごしやすい温暖な気候から独立し、極寒の吹雪吹き荒れる地となっている。

 猛毒のブレスを吐きつけられた地からは未だに異臭が漂い、生命一つ存在できない猛毒の沼地と化した。

 黄緑色の見るからにやばさ気な見た目をした強酸をも越えた超酸の液体は、たった一滴で木を一本丸々溶かしきり、緑溢れる土地をペンペン草一本生えない荒野に変えた。

 そしてそれらのブレスとは溜め時間も予備動作も一線を画して放たれたブレスは、それがなんなのかも理解させてもらえずに、全てを無に帰した。文字通りに。


 それらを抜きにしても、あの巨龍が一歩を踏み出す度に地を穿ち、気まぐれに振るわれる尻尾は鞭のように撓りながら地を割り、羽ばたきは巨大な竜巻を引き起こす。


 まさに歩く天災で、意思を持った災害そのものだった。

 いや、そんな言葉でもまだ生温い。

 地形を変え、天候すらも変動させる。それも科学も用いていない、一生命体がだ。


 最先端の科学技術を用いたとしても、それを個人で実行するには大規模な設備と多大な準備を必要とする。にも関わらず、まさしく息をするようにそれを実行できる存在。

 それこそが、まさに神か魔神と呼ぶべきものだろう。


 その光景を初めて目の当たりにした時、俺は我知らず絶叫してしまった。


「ふざけんな! ゲームバランス狂ってんだろうが! クソゲーでももう少し上手くできてるわ!」


 それに対して兄貴は、


『ち、違う! あれを作ったのはラバルだし!』


 などと責任転嫁する始末。

 ならばとラバルさんを問い詰めてみれば、


『ふむぅ、どうやらダークネスオーラがファントムオーラと反発し合い、予想以上の結果をもたらしたようだ。あれに対抗するには、ホーリーブラッドの力を用いて大いなる神々の力を自らに下ろす必要があるな』


 とか訳の分からない事をのたまう始末。神はあんただろとか突っ込む気力も沸かなかった。


 なんか箱庭に来てから、五人の天才の知らなくても良い一面を次々と知ってしまっている気がする。

 信じられるか? あれ、一応一人は俺の兄貴で、全員が俺の憧れで誇りだったんだぜ?


 それはさて置き、再びあいつが出てきた時のための準備をする必要がある。

 理想的なのは二度と出さないことなのだが、俺にはそれが不可能であると割り切る。


 準備と言っても、あくまで対策であり、なにも対抗策というわけではない。というか、十年たっても張り合える気がしない。

 俺がするべきなのは、生存確率の向上は勿論、受ける被害の軽減だ。

 今回は兄貴の守りもあって死ななかったが、次回もそうであるという保証はどこにもない。それに、死なないにしても痛いものは痛いし、苦しいものは苦しい。だからこその対策だ。


 そして肝心の具体的な内容だが、やることは単純で、自己の強化に尽きる。

 レベルを始めとした数値的強化は勿論、スキルの取得や強化、装備の充実、そして経験の積み重ねだ。


 それらは今までもやっていたが、たった今から、それまでのそれとなくによるものではなく、明確な意識と目標を持ってやる事にするのだ。


 明確な意識とは当然、自己の強化自体の事だ。

 ただし、強くなるという事にはとことん貪欲になる必要がある。地を這い、石にかじりつく事になっても自分を強くすると、はっきりと覚悟するのだ。


 そして明確な目標。それは即ち、ティアマントの討滅である。

 理想的なのは二度と出さないことではある。たがそれは、先程も言った通りほぼ不可能だ。自分がいくら強くなったと仮定しても、広大な箱庭全体の生命を間引くなど、一人では無理がある。

 なら兄貴を説得すれば良いのではという話になるが、そもそも兄貴がティアマントを解放した理由が、箱庭の生命の間引きなのだ。そしてそれをわざわざやるという事は、箱庭が飽和状態になると困る理由があるのだろう。俺に俺の事情があるように、向こうにも向こうの事情というものがある。

 それを踏まえれば、最も現実的なのがティアマントの討滅―――より厳密には、ティアマントよりもずっと強くなることだ。

 ティアマントを仮に倒したとしても、同じような存在が投入されるのは目に見えている。そもそもの目的が間引きで、俺には不可能なのだから。ならは俺は、そういった存在が送り込まれても問題ないように強くなればいいのだ。


 はっきり言ってしまえば、俺がそこまでする必要はないのかもしれない。だって俺は、謂わば兄貴たちの勝手な都合に巻き込まれた側なのだから。

 だけど俺には、その事を不思議と怒る気にはなれなかった。


 いや、不思議となんてのは嘘だ。本当は、よく理解している。


 そもそも、なんで兄貴たちがこんな事をしているのか?

 元の地球が、行きすぎた科学によって破滅したから―――無論、その通りだ。


 だが、そもそもの原点に立ち返ってみよう。どうして兄貴たちが、そこまでしなければならないのか。

 破滅した原因が、兄貴たちが神の不在を証明した為だから―――ではない。それは所詮切っ掛けに過ぎないと、とっくに結論が出ている。だからこそ、兄貴たちは途中まで進めていた『人工的に神を創造する研究』をシフトしたのだ。


 神を人工的に創造したところで、望んだ結果は得られなかっただろう。それは確かなはずだ。だがそれなら、一切合切を放り出すという選択肢だってあったのだ。

 だが兄貴たちはそれを選択せずに、今の結果を望んだ。それはなぜか?


 要は、純粋に兄貴たちは楽しんでいるのだ。今の結果を。

 自分たちが神になって、一から世界を作り直す。それを心から楽しんでいる。そしてそれは、俺も同じだ。


 兄貴たちには散々世話になったから、その恩返しとして付き合うとか尤もらしい理由を後付けして。でも実際には、兄貴たちと同じように楽しんでいる。

 最初自分の置かれた状況に、戸惑いはした。だが兄貴の説明を聞くにつれて、胸を踊らせている自分がいるのに気付いて。

 そしてそんな結果に自分を迎え会わせてくれたことに、感謝すらした。楽しんだのだ。


 言ってしまえば、同じ穴の狢なのだ。俺とあの五人は。ただ楽しむ場面が違うだけで、状況を楽しんでいる。

 その事に素直になって、真剣に向き合うのだ。どうしたら存分に楽しめるのかを。


 痛くて苦しいのは嫌だ。だって死んでしまうかもしれないから。

 死ぬのは嫌だ。だって死んだら楽しめなくなるから。


 単純なことだ。ただ自分がひねくれて向き合わなかっただけで、素直に受け止めれば恐ろしく単純になるのだ。


「っし! そうと決まったら、一丁やってやるか!」


 まずはレベル上げてだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ