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神々に見守られし男  作者: 宇井東吾
三章「魔の饗宴」
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箱庭番外編① 箱庭のハロウィン

『トリック』

『オア』

『トルゥゥゥゥィィィィィィィィィィィトゥ!!』

『ヤッハーッ!』

「うるせええええええっ!!」


 天に向けて【破滅を齎せし滅槍(クルヌ・カプリコス)】を全力スパーキーング!

 天に届く前に落下が始まり、遥か彼方の地平線の景色が一部消失する。


「おい、兄貴たちのせいで景観が損なわれたろうが!」

『俺らのせいじゃなくない?』

『いきなり秀哉がブチ切れたせいよね。反抗期かしら?』

『かもしれないね。たかが半月程度徹夜したぐらいで、あそこまで怒る筈がないからね』

「半月ぶりの睡眠をものの一時間も経たずに邪魔されれば切れるわ誰だって!」

『それぐらい普通だよな?』

『ええ、普通ね』

『それで私たちが怒ったことなんて、一度もないわね』

『いやいやレディ達。僕の記憶が正しければ、君たちがそういう事態に遭遇した際には割と頻繁に寝起きの凄まじい形相のままで包丁を持ってぎゃあああああああっ!?』

『一度もないわよね、蛍?』

『お、おう……』


 おい兄貴、何脅しに屈してんだよ。いつもの「脅しには屈しない!」とかいう威勢はどこにいった。それともあれは俺限定か?


 まあどうでもいい。内輪揉めするってんだったら勝手にしてろってんだ。

 こちとら先日ようやく一月に渡る合成魔獣キメラとの死闘が終わって、心身ともに疲労困憊なんだ。ゆっくりと寝かせて欲しい。


『そういう訳で、仕切りなおそっか』

『そうだな。んじゃメロナ、またお前からな』

『トリック』

『オア』

「デストロォォォォイッ!!」


 全力の【雷神の撃滅爆雷禍(ノス・レストリオ)】を天に向けてスパーキーング!

 変な具合に天候が刺激され、瞬く間に暗雲が立ち込めて雷が落ち始める。

 俺が本気を出して神位級の魔法を使えば、このように天候を変動させる事だって容易なのだ。


『おいおい、情緒不安定者か?』

『とりあえず、話の邪魔だから元通りの快晴に戻そうか』


 まあ兄貴たちはそれを片手まで思い通りに操れる訳だが。

 俺が熟練の技術で攻略を目指すゲーマーだとすれば、兄貴たちはシステムに侵入してプログラムを書き換えるハッカーだ。そもそも勝負にすらならない。

 どっちもそのスキルの使いどころと理由が、恐ろしいまでにくだらないが。


「何なの!? 俺の安眠を妨害する価値がある程の用な訳!?」

『ないな。お前の安眠なんて、孫の手の反対側についている壁に掛ける用の紐程度の価値しかない。これからする話とは到底釣り合わない』

「微妙すぎて逆にショボい例えをすんな!」

『分かった分かった、そう怒るな。缶のプルタブを起こしやすくする凹凸ぐらいの価値はあったな』

「そういう事を言っているんじゃねえ!」


 そしてさらにショボくなったわ!


「結局何の用なんだよ! これで本当にくだらない話だったら、マジで怒るかんな! 本気で上層界に乗り込んでってやるからな!?」

『あー、だからカッカするなっての。あれだ、ハロウィンだよハロウィン。今日は旧暦で確か10月の末だったろ』

『あれ、11月の2日か3日くらいじゃなかったっけ?』

『違うわよ、何を言っているの。まだ10月の20日でしょ』

『やれやれ、君たちは日付すら覚えていないのかね? 今日は10月の21か2か3か4か5か6か―――」

「フワッフワ! 全員漏れなくフワッフワ!」


 誰も正確な日にちを覚えてねえじゃねえか! 俺も含めて!


『まあこういうのは、大体で良いんだよ、大体でね。僕のかつての祖国もそこら辺かなり大雑把だったしね』

『そうそう、俺たちの感覚で大体ハロウィンだなって思ったら、その日がもうハロウィンなんだよ』

『という訳で、秀哉。今から始めるわよ』

『第うんちゃら回、箱庭ハロウィンオールデイズフィーバーッ!』

『ヒャッハーッ!』

「ヴィスヒツさんまで!?」


 反対してくれとは言わないが、せめて普段通り寡黙なまま中立の立場を取っていて欲しかった。

 つーか、そんな事は後でいい。


「よし決めた決まった決まっちゃった! 上層界に殴り込みだぁ!」

『今日が終わったらいつでも来い。どんな展開になろうが、どっちにしろお前に来てもらうつもりだから』


 わざわざ門戸を開いてくれるとか、殊勝な心掛けだな。首洗って待ってろ。


『さーて、それじゃ早速ハロウィンイベントを始めようか! 今回のお題はズバリ「鬼ごっこ」だぁ!』

「んじゃあ俺が鬼ね。んで兄貴たちが追いかけられる側。捕まったら問答無用で【何も存在できぬ世界(クルヌ・ギア)】噛ますから。即ヌギャーだから」

『チッチッチッ、そうじゃないんだなぁ』

『人の話は最後まで聞くべきだぞ、秀哉君』


 うっぜぇ。マジでヌギャーしてやろうか。


『カモン終焉の使者たち! 「ジャック・オー・ランタン」!』


 ラバルさんのウザい掛け声とウザい指パッチンと共に、天から大量のジャック・オー・ランタンとやらが降って来る。

 大きさは子供くらいで、カボチャの頭にピエロの扮装という御伽噺のジャック・オー・ランタンそのままだ。数は軽く万を超えている。


「……こいつらを全員捕まえろって?」

『ノンノン、最後まで話しを聞きなさい』


 ウザい。すっごくウザい。ぶっ殺してやりたいぐらいにウザい。


『鬼は彼らジャック・オー・ランタン! 追いかけられる側はお前一人! それが今回の鬼ごっこの配役だ!』

「俺メチャクチャ不利じゃね!?」

『当然だ、ハロウィンだぞ? ハロウィンとは世の中の弟に位置する者を兄や姉、もしくはそれに類似する立場の者が徹底的に弄り倒すイベントだろうが!』

「俺の知ってるハロウィンと全然違う!」


 そんなイベント世界中のどこを探しても存在しねえよ!


『ルールは簡単、そいつらに一度でも捕まったらアウトだ。ただし、ハンデとして触れられた程度ならばセーフだ。尚追加ルールとして、

 ・わざと捕まる

 ・ジャック・オー・ランタンに対して攻撃する

 ・使い魔などの力を借りる

 などの行為は漏れなく反則と見做す。攻撃かどうかの判断はダメージの有無および行動の阻害だ。ただひたすらに無様に逃げ回るが良い!』

「何その小学生が考えたような馬鹿ルールは!?」

『あっ、ちなみに制限時間は今から二十四時間で、その間お前が逃げ切ればお前の勝ちだ。勝てばご褒美があるから頑張れよ』

『だ・け・ど、もし負けたらその時は―――』

『遡って一万年の間に生み出された龍に匹敵する失敗作を全部箱庭に放出しまーす!』

『全部で3万匹くらい居るから、嫌なら死ぬ気で頑張れよ』

「……え?」


 龍に匹敵するって、つまりさっきまで戦ってた合成魔獣キメラに匹敵するって事であって?

 それが全部で3万匹? それも段階的にではなく一斉に?


「デッド・オア・ダイじゃねえか」

『いやいや、全てはお前の頑張り次第だって』

『蛍、終焉の使者たちの放つダークネスオーラによる侵略は全て滞りなく完了した』

『オーケー、ならばそろそろショータイムのスタートと洒落込むか』

「待て、待って! 明らか無理ゲーだろ! 難易度調整して!」

『案ずるな、お前の言いたい事は分かっている。手近なランタンを【分析Ex】で見てみれば分かるとおり、彼らには例外なく【無敵】と【ダメージ全反射】と【リミッター解除】のスキルを付けてある』


 どれどれ……わー、本当だー。


『それが無ければ確かにお前の方が有利だったが、これで大体お前と互角ぐらいだろう!』

「そういう意味じゃない!」


 むしろさらに難易度が上がったよ!


『それじゃあ』

『ゲーム』

『スタート』

『イェーッ!!』


 そして二十四時間に渡る地獄の鬼ごっこが開始された。


 余談だが、俺の必死の逃走と限界を超えたパフォーマンスが功を奏したのかどうかは知らないが、このゲームには勝てた。

 その翌日に精も根も尽き果てて寝転がる俺に対して、兄貴たちがご褒美として天から落としたのは、小さな飴玉が一つだけだった。


 もう殺すとかそんな気も起きなくて、とりあえず気絶した七百年前の出来事である。




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