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神々に見守られし男  作者: 宇井東吾
三章「魔の饗宴」
23/44

ウザさにもベクトルがある

「連合暦1444年亡者の月の22日現在、俺は『アスバル迷宮砦』の第74区画に居ます」

「違う、まだ21日だ。時刻は0時を回っていない」

「あれ、んじゃあ俺の時計ズレてんのか」


 エレナの持つ懐中時計と俺の腕時計とを照らし合わせると、なんと驚いたことに、4時間もずれていることが判明した。


「これは、ズレているというレベルではないだろう。壊れているのではないか?」

「それはない」


 この腕時計は、前の世界で有名だった某ブランド品の贋作と称して兄貴たちが作った代物だ。

 たとえ俺が全力で握り締めようが、叩き付けようが、傷ひとつ付かないし、機能が損なわれることもない。


「……あれだ、俺って度々【時間加速(タイム・アクセル)】使うから、その余波でズレが生じてんだろ」

「君は時属性も使えるのか。本当に何者なのだろうな」


 あっ、そう言えば言ってなかったか。ミスったな。


「無属性はまあいいとして、上級の火属性魔法に、さらには最低でも中級の空間属性と上級の時属性魔法を使いこなす。下手をすれば【特級魔術師ノーブル・ウィザード】レベルだ。それに加えて、接近、近接戦闘も可能と」


 最早疑いを隠そうともせずに、俺を見る。


「いい加減自分のレベルを始めとしたプロフィールを偽っていることを、認めたらどうだ?」

「いやいや、俺は嘘が大嫌いな男ですよ? その俺が、どうして嘘をつく必要が?」

「そういえば、上級相当の時属性魔法が使える者は、自分の肉体の老化を極端に遅くできるのだったな。実は君も、同じ事をしていたりするのか?」

「してないです」


 だって俺の不老は魔法的要素皆無の科学的要素満載の代物だ。嘘は言っていない。

 しかし俺の言い訳は完璧にスルーで、さらに新しい嫌疑まで掛けるか。いい加減対人恐怖症に陥りそうだ。


 まあそれはさておき、気を取り直しまして。


「連合暦1444年の亡者の月の21日現在、俺は『アスバル迷宮砦』の第74区画に居ます」

「いや、そもそも君は、さっきから誰に対して語っているのだ?」

「天に向かって。ある種の報告活動」

「傍に居て恥ずかしいのだが」

「【静寂(サイレンス)】使ってるから大丈夫」

「そういう問題ではないのだがな……」


 さりげなくエレナが俺から距離を置く。正しい判断だが、少しだけ悲しくなる。


 因みにいまさらの話だが、暦の数え方はニューアースと前の世界とでは、大きく異なる。

 この世界では最初の月である蒼穹の月から始まり、続いて繁栄、咆哮、炎天、残暑、亡者、荒野、枯木、寒冷の九つの月があり、一月当たりの日数は40日の年間360日。

 現在の亡者の月は、季節的には秋に当たる。時期的にアンデッド系のモンスターが出やすいのだそうだ。


 付け加えると、一日が24時間であることに変わりはない。地球よりもずっと大きいのにという疑問はあるが、そこらへんは兄貴たちの神パワーでどうにかしているのだろう。


 さて、閑話は休題するとして、現在俺は先ほども言ったとおり、第1区画から南方の第74区画に移動している。澱みの森側から見て直線で間に三つの区画を挟んだ位置の場所である。

 普通に歩いて移動したら、あんまりにも入り組んだ地形のおかげで一日足らずで移動できるはずもないのだが、そこらへんは各所に設置されている転移門という物を使って解決している。

 因みにその転移門は、敵側に利用されないかという疑問もあったが、北側から南側への一方通行なのでその心配はないそうだ。その為帰還する場合には、各集団に配布される転移魔法を封じた結晶を用いる必要があるとの事。


 一部の斥候部隊が帰還してきたのが、つい今朝方のこと。その者たちの報告と後の調査も踏まえた結果によると、すでに砦付近に敵の一部が接近しているという事が判明した。

 本隊の者たちが到着するにはあと数日が掛かる見込みで、このままでは敵の襲撃までに間に合わない可能性が高いと司令部の連中は判断し、結果として砦の南方の区画に先遣隊の各部隊を配置し、時間を稼ぐという結論を出した。


 そんな訳で、俺はこの区画にいる。生憎最前線というわけではないが、敵の通ってくるルート次第では十分に戦闘の起こる可能性のある場所だ。

 その事は司令部も十分に分かっているのだろう、この場所には俺以外にも多数の騎士や冒険者たちが居た。


「さっきからシュウポンは、何をぶつぶつ言ったりキョロキョロしたりしてるのん?」

「周囲の連中を評価している」


 正確には、評価ではなく吟味だが。


 さすがの俺も、いくら最前線でないとはいえ、この区画が戦場にはならないと思うほど楽天的ではない。

 戦闘が起こる可能性は十分あるし、もしもの事態だってあるかもしれない。そういった有事の際に、上手く立ち回って手柄を押し付ける相手を見定めているのだ。


 しかしそんな俺の思考など知る由もないイレーゼは、


「ほえー、シュウポンはあれだね、勤勉とやらですなぁ」


 などと誤解していた。解くつもりもないが。


「………………」

「ん、どったのシュウポン? もしかして、見惚れちった?」


 しかし何故だろうか、こいつはどことなくアホっぽいニオイがする。


 個人的に立ち回る側としては、アホの方がやり易かったりもするので、候補の一人に加えておくのもいいかもしれない。

 形式上とはいえ、俺の奴隷扱いの奴に立ち回る必要があるのかどうかという疑問も出てくるが、それはそれだ。


 他に候補となりそうな奴は―――


「やあ、シュウヤ君! キミも来ていたのか!」

「………………」


 いきなりハキハキとした声で話し掛けてきたのは、いつぞやの金髪爽やかイケメンフェイスの近衛騎士団長。

 こいつの内心など知りたくもないが、よくもまあ、そんなに爽やかに俺に声を掛けられたものだ。


「先日はすまなかったね! ボクとした事が、キミにあらぬ疑いを掛けてしまったようだ! この通り謝罪する!」

「なにコイツ、メッチャイラッてするんだけど……」

「奇遇だな、俺もそう思ってたところだ」


 なんというか、話しかけて来るだけで本能的にイラッとする。別段悪意があるわけでもなんでもないのに、なんか無性にムカつくのだ。


「そっちのキミはシュウヤ君の知り合いかい? その節はシュウヤ君に迷惑を掛けてしまった。申し訳ない!」

「ウザい」

「はっはっはっ! どうやら嫌われてしまっているようだね! 無理もない!」


 あからさまに顔を歪めたイレーゼに対して、爽やかに笑って対応する。しかしその反応がイチイチうざい。

 というか、今始めて会ったような対応をしているけど、お前ら二人とも初対面じゃないだろう。一応は互いに顔を見ているはずだ。


「改めて自己紹介をしよう。ボクの名前はエリンズ=ブアデス・ノーディコン。不肖ながらソリティアの近衛騎士団の団長を務めている。気軽にエリンズと呼んでくれ!」

「知ってる」


 シオン第三王子から聞いたのと、ビーンの資料に載ってるのと、二重の意味でな。


「なんと、既に知っていたのか! ボクの知名度もそれなりに上がって来ているという事かな。嬉しい限りだ!」

「シュウポン、コイツ殺していい?」

「抑えろ、少なくとも本人に嫌味のつもりはない」


 気持ちは分かるがな。


「ボクの方もキミの事は知っているよ、シュウヤ君! キミのレベルはボクよりも上なのだそうじゃないか! 味方として、頼もしい限りだ!」

「現在進行形で敵に回りたくなってるよ」

「同じ区画の担当となったのも、何かの縁だ! 共に姫様の事を守ろうではないか!」

「駄目だよシュウポン、コイツ間違いなく人の話を聞かないタイプだ」

「奇遇だな、俺もそう思ってたところだ」

「そちらのお嬢さんのことは、残念ながら知らないな! よければ教えてくれないかい!?」

「現に目の前で行われている俺たちの会話を意に介した様子がない」


 テメーに名乗る名はねぇというニュアンスの言葉を、イレーゼが口にしてシッシッと手で追い払う。その反応に対しても、嫌われたものだと肩を竦めるのみ。

 無駄に爽やかなのが様になっていて、凄まじくムカつく。しかし繰り返すが、本人には一切の悪気の類がない。


「それじゃあ、ボクは部下たちを見回る必要があるから、これで失礼するよ。お互い生き残ろう!」

「おい馬鹿やめろ」


 本当に死ぬぞ、冗談抜きで。


「死んじゃえ♪」


 立ち去るエリンズの背中に、イレーゼは朗らかな笑顔で毒を吐く。この笑顔は多分本心だ。というか、こいつに表情を使い分けるような能力があるとは思えない。


「あれもある種のアホだな」


 シオン第三王子曰く「思い込みの激しいところがある」そうだから、仮に俺が立ち回って援護したとしても、自分がやったと都合良く思い込んでくれそうな気がする。


――――――――――――


 ステータス

 名前 エリンズ=ブアデス・ノーディコン

 種族 人類

 称号 武神の加護を受けし者

 年齢 そこまで若くないよ

 身長 184

 体重 80

 Lv 539

 HP 32000/32000

 MP 1000/1000

 筋力 636

 耐久 400

 敏捷 433

 器用 266

 知性 142

 精神 467

 《スキル》

【剣術SS+】【物理ダメージ軽減Ⅷ】【剣聖】【破烈斬】【滅烈斬】【外殻斬り】【浸透斬撃】【十二連斬り】【不惜身命】【ギャグ補正】【武神の加護】


――――――――――――


「……なんつーか、剣に身を捧げました的なステータスだな」


 【剣術SS+】とか、俺は手に入れるのにざっと一億年掛かったぞ。しかも【剣聖】とか、そんなの俺知らんぞ。

 破烈斬も上位互換の【滅烈斬】になってるし。あれ習得するの、めちゃくちゃ面倒なんだぜ? 途中でめんど過ぎて投げ出したくらいだ。


 因みに、レベルではエレナを上回るのに、殆どの数値がエレナよりも劣っているなどと思ってはいけない。

 エレナのあれは元々の種族や先祖返り云々が積み重なってああいうパラメータになっているのであって、ニューアースの同レベル帯の人間では高いほうだろう。

 俺の同レベル帯のステータス? あれはほら、何百年ものレベルアップに拠らないステータスアップのアドバンテージがあるから。


 まあそんな事よりも、だ。


 ・【ギャグ補正】

 自分に関わりのある悪い事態に遭遇した際、その結果を自分にとって都合の良いようにある程度緩和する。


 スキルの名前はあれだが、効果はかなり凄いんじゃないか、これ?

 このスキルはかなり有用だろう。多少の無茶をしたところで、死にそうにない。


「使えるな……」

「何が使えるのだ?」

「うおわっ!?」


 いつの間にか側にエレナが戻って来ていた。


「そこまで驚く事はないだろう」

「背後から近づかれて声を掛けられれば、誰だって驚くっての」

「そうか、それはすまなかったな」


 あっさりと認めた。


「それで、一体何が使えると言うのだ?」

「別に、何でもない」

「何でもない訳がないだろう。誤魔化す必要はないぞ?」

「……忘れない?」

「さすがにそこまで記憶力は悪くはない」

「………………」


 なんで今日に限って、こんなに突っ込んでくるんだよ。


「例えば、自分は目立ちたくないから、上手いこと立ち回り周囲の優秀な者に手柄を立てさせ、自分は無難な結果に落ち着く、とか?」


 勘が良いどころの騒ぎじゃない。そのくせ何もスキルは使ってないんだよ。


 チラリとイレーゼの方を見る。俺の視線に気づいたのか、手を振ってくる。そうじゃねえ。

 こいつは頼りにならないと判断する。他に周囲に人は居ない。詰んだ。


「いやいや、そんなんじゃないよ。そうじゃなくって、その……オカズに使えるってね」

「………………」


 今まで見てきた中で、一番最低な存在を見る眼で見られる。

 もう軽蔑だとか、ゴミを見る眼だとか、そんなレベルじゃない。形容する言葉が見付からないほどの、とにかく酷い眼で見られた。


 いやね、俺も思ったよ。一体お前は何を言っているんだ、ってね。

 さすがにこの言い訳はないなと思ったよ。思ったけど、もう既に時は遅いんだな。


 エレナがとにかく酷い眼で俺を見ながら立ち去り―――って、いま唾吐くジェスチャーしたよ。王族の、王女のして良い仕草じゃないだろそれ。


「シュウポン、オカズ足りてないの? 協力してあげよっか?」

「いや、ほっといてくれ。つか、殺せ。いっそ殺せ」


 心底死にたいって思った。いや、思ってる。

 これだけ死を望んだ事なんて、中学のとき以来―――じゃなくて、初めてなんじゃないか?


「シュウポン、世の中悪い事だらけじゃないよ? 良い事だって必ずあるんだからさ、前向きに生きようよ」


 慰められて、ますます自分が惨めに思えてきた。

 行動を共にして数日の相手に、何を慰められているんだと、自分で自分に言いたい。


「……いいや、次。次行こう」

「おっけーおっけー、手伝うよん♪」


 一体なにを? と思ったが、言わない事にした。

 こいつも純粋な好意で言っているんだろう……多分。



――――――――――――



 この区画に移動する際にエレナから渡された、担当する面々の目録(の写し書き)とビーンから渡された資料とを照らし合わせる。


 この区画に配属されたのは、ソリティアとバルスクライの二ヶ国。それとフリーの冒険者。

 【ソローリン商人組合】が裏でエスト教と繋がっているという話を聞いている俺としては、バルスクライ自体にはあまり良い印象は抱いていない。だから仮に何かあったとしても手柄を譲るつもりはないとして、残るは二つの勢力。


 ソリティア所属でこの場に居るのは、第一王女であるエレナを筆頭に、近衛騎士団長であるエリンズ率いる近衛騎士25名。

 近衛騎士といってもピンからキリまでだが、この場に居る面々は総じて300以上のレベルがある。団長であるエリンズが居る事といい、配属された近衛騎士の質といい、エレナ曰くシオン第三王子が何かしらの便宜を図ったのは間違いないとの事。

 エレナはいい迷惑だと言っていたが、俺としては好都合。精々存分に利用させてもらうとしよう。

 それと伝令や給仕などの雑用のための雑兵がおよそ30前後。これがソリティア側の戦力だ。


 残る冒険者サイドのメンバーは、四つの部隊を含める57名がこの場に集結している。やはり最前線ではない分そこまでの人数は割かれていないようだが、それでも多少の骨のある者が混じっている。

 その中でも、とりわけ突出した実力者は二名。そのうちの一人目が、


「……日凪出身の冒険者が、何の用ですの?」


 エミリー・バロバクト、あの狸爺の孫娘とやらだ。


『エミリー・バロバクト。現在のレベルは不明。

 現在S1の冒険者であり、【紫迅妃】の二つ名を持つ。

 主に雷属性の魔法を扱い、また雷属性魔法の威力を増大させる能力を持つ『魔尖剣シエレナ』を振るう、遠近共に隙のないスタイルを得意とする。

 S1ランクの昇格の切っ掛けとなった30以上の火竜の殲滅は本人を語るのに欠かせない武勇伝となっている。

 父親は冒険者ギルドソリティア支部長のタードレイ・バロバクト。母親はソリティアの地方領主の傍系の家系であるミシュリン準爵家の三女であるニフォベル・ミシュリン。継承権は限りなく低いとはいえ、一応は貴族の血を引いている人物でもある』


 資料に書かれている説明は、以上だった。

 なるほど、確かに貴族の血を引いていると書いてある通り、見掛けの容姿は目を見張るものがある。


 あの金髪爽やかイケメンフェイスの近衛騎士団長エリンズとはまた違った色合いの、金色の髪を後ろで束ねており、顔立ちは貴族だと言われれば納得できるほどに整っている。

 腰におそらくは『魔尖剣シエレナ』と呼ばれている剣を下げて悠然と立つその姿からは、その手の者特有の気品ある気配というのが漂っていた。


「一応、挨拶くらいはしておこうと思って。あんたがこの場で一番ランクが高いからな」

「そう、それは殊勝な心掛けですわね。ですが、わたくしは貴方と馴れ合うつもりは毛頭ありませんので」


 挨拶をした矢先に、何故か初っ端から、敵意満々の視線を向けられる。


「大体、日凪出身などとのたまうなど、胡散臭いにも程がありますわ。『ジャッジメント・トード』の審査はパスしたようですが、あんなもの、いくらでも抜け道はございます。精々ぼろを出さないよう、気をつけて下さいまし。まったく、お爺様もどうしてこんな輩を気に掛けるのか、理解に苦しみますわ。ましてや……」


 ギロリと、孫娘の視線がイレーゼに対して向けられる。


「王女暗殺未遂を犯した低俗な輩を隷属する、同じ穴の狢などを」

「あ゛あ゛!?」


 イレーゼがドスの利いた声を出す。中々迫力があった。


「お前さー、殺すよ? 百歩譲ってイレーゼ馬鹿にするのは良いとして、なにシュウポンまで貶めてんだよ。イレーゼよりも弱いくせに」

「弱い? 聞き捨てなりませんわね。そこの男のレベルは579。まあ確かにこの大陸で見れば高いと言えますが、わたくしには遠く及びませんわ。ましてや、その男に二人掛かりで返り討ちにされた貴女は、尚更のことですわ」


 いやに事情に詳しいな。俺の素性についてといい、イレーゼの素性についてといい。どうせあの狸爺繋がりなんだろうけど。


「はっ、笑わせるね。イレーゼは自分のレベルなんて知らないけど、少なくともお前よりも強いって事ぐらいは分かるよ。相手の正確な実力も測れないような小物が、自分をシュウポンよりも上に見てんじゃねぇよ」


 相手の正確な実力も測れないって、それ俺も含まれるからね。別に小物を自称した覚えはないけど、俺も含まれちゃうからね。

 俺からすれば周辺の奴らのレベルの違いなんて、誤差みたいなものだから。正確な実力なんて、測りようがないから。【分析Ex】を使わない限り。


「測るまでもないというだけの事です。大体、なんですかその『シュウポン』というのは。貴女は一応は隷属化されているのでしょう? 主人に対する口の利き方がなっていないのではなくて?

 いえ、もしかしたらお似合いなのかもしれませんわね。元々が低俗な身の者が、さらに奴隷に身を堕としたのです。同じ卑しい者として、傷を舐めあうのも良いかもしれませんわね」


 ……うん、俺の言いたい事はひとつだけだ。

 こいつ、メチャクチャうぜえ。


 身分の高い者によくある、高慢を服として纏っているような態度そのまんま。ひょっとしたら、本職の連中よりも上手いんじゃないのか? この態度。


 つか、なんなの? さっきの近衛騎士団長といい、この孫娘といい、方向性こそ違えど、この大陸で金髪の奴がウザいのって、デフォなの?


「……殺すぞアバズレ」


 イレーゼが全身から魔力を漂わせる。完全に臨戦態勢に入っていた。


「シュウポンは―――シュウヤはさ、無理矢理隷属されていたイレーゼ達を解放してくれた訳。自分を殺そうとした相手を、殺さずに生かしてくれたんだよ。それどころか、自由になれるチャンスまでくれている訳。

 イレーゼ達からすれば、一生掛かっても返しきれない恩がある恩人なんだよ。その恩人を貶めるなんてさぁ―――」


 イレーゼの周囲に、八つ宝玉が出現する。黒と紫の二色の色を発するその宝玉の正体は、俺がイレーゼに与えた『魂喰ミノ魔珠』だ。


「殺すよ殺す。まじ殺す。ぐっちゃぐちゃのぐちゅぐちゅのミンチにして、その醜い顔をさらに直視できなくなるまで掻き回して掻き乱して掻き混ぜて殺し―――」

「ストップ」


 手刀をイレーゼの頭に落とす。

 力は大して入れておらず、軽い衝撃を受ける程度のなんて事のない一撃を受けてイレーゼは地面に倒れて、そして動かなくなる。


「まったく、ご自分の飼うペットの躾ぐらい、きちんとなさんなさいな」

「申し訳ない」


 頭を下げて謝罪すると、どうや相手はそれで満足したのか、くるりと踵を返す。


「今回は特別に見逃して差し上げます。精々無様な姿を晒さぬよう、気をつける事ですわ」

「……ほざいてろ」


 聞こえないように呟き、地面に倒れたままのイレーゼを起こす。


「……世話を掛けるな」

「…………」


 イレーゼではなく、背後に立っていたヴェクターに、謝意を述べる。


 イレーゼが下手に暴れぬよう、ヴェクターは先ほど俺が手刀を叩き込んだ直後に彼女に対して、上級疫病属性【弛緩する疾患(ルトレーム)】という魔法を掛けていた。

 短時間で効果は切れるが、発動後即座に対象の筋肉を弛緩させる魔法のお陰で、イレーゼが下手に牙をむく事を防ぐ事ができた。


「お前な、問題を起こすなよ、頼むから。俺にも責任が降り掛かるし、なによりお前らの自由云々の話がパーになるんだぞ?」

「……シュウポンが馬鹿にされるより、そっちの方がマシ」


 なんか、俺の知らないところでこいつに随分と感謝されているらしい。だからこそ俺も強くは言えないのだが、しかし限度と言うものだってあるだろう。


「確かにな、あいつの態度はムカついたよ。だけどな、それに対して何かをするのは俺の権利だ。お前の権利じゃない。もう勝手な行動はするな」

「……ん」


 明らかにしぶしぶと頷く。だがまあ、今回はこれぐらいで良いだろう。

 それよりも、やる事がある。


「それにな、俺的にもやられっぱなしってのは腹が立つんだよ」


 エミリー・バロバクトの後姿は、まだ視界に入っている。見失わないうちに、やるべき事を済ます。


「上から順に80:56:82のB! 詰め物をしてサイズを三つも偽っている!」


 案の定、孫娘様が振り向いて俺の方を凝視している。その表情は遠目に見ても分かるくらいに赤く染まっている。

 それに対して、俺は馬鹿にしたように笑ってやる。


「シュウポン……ナイス」

「ありがとよ」


 ゴツンと、拳と拳とを打ち鳴らす。


 孫娘様は俺の方を見て口をパクパクとさせていたが、すごすごと引き下がる。

 さすがにこの場で暴れれば、今しがたの俺の発言を肯定する事になると理解していたらしい。


「……なあ、お前ら」

「なになに?」

「…………」


 ついでに言えば、俺の意趣返しはこれで終わるつもりもない。


「あの高慢な女に、意趣返ししたくないか?」

「したい」

「…………」

「ヴェクター、お前は頷くだけじゃなくて喋れ」


 喋れんだろうが、お前は。


 とにかく、本人たちの意思は確認できた。

 こちらとしては、手柄を押し付ける候補筆頭があんまりにもあんまりだったので、ちょうど良い機会だった。


――――――――――――


 ステータス

 名前 ヴェクター

 種族 混ぜ物

 称号 存在シ得ヌ者

 年齢 人間換算で20代半ばから後半くらい

 身長 191

 体重 82

 Lv 709

 HP 120800/120800

 MP 82000/82000

 筋力 1320

 耐久 1603

 敏捷 954

 器用 2308

 知性 1412

 精神 1525

 《スキル》

【体術C】【超級無属性魔法適性】【古代級毒属性魔法適性】【神位級疫病属性魔法適性】【薬草知識】【調合Ⅷ】【自動治癒Ⅷ】


 装備

 首 ガリストムスのアミュレット

 肩 隠れ身のローブ

 指 魔法封じの指輪

 足 反水のグリーヴ


――――――――――――


 ステータス

 名前 イレーゼ

 種族 混ぜ物

 称号 存在シ得ヌ者

 年齢 人間換算でギリセーフ

 身長 148

 体重 40

 B: 70

 W: 49

 H: 73

 Lv 695

 HP 54000/54000

 MP 7900/7900

 筋力 900

 耐久 674

 敏捷 1002

 器用 1104

 知性 1820

 精神 716

 《スキル》

【投擲C】【体術A】【ナイフ捌きC】【臥震掌鍛】【徹甲崩拳・砕】【徹甲崩拳・烈】【踏襲脚】【超級火属性魔法適性】【超級雷属性魔法適性】【古代級闇属性魔法適性】【古代級滅属性魔法適性】【神位級空間属性魔法適性】【神位級重力属性魔法適性】【野生の勘】【鑑定Ⅹ】【自動治癒Ⅴ】


 装備

 武器 魂喰ミノ魔珠

    始原魔のナイフ

 頭 始原魔の帽子

 首 魔法封じの首飾り

 肩 隠れ身のローブ

 胴 始原魔の服

 腰 始原魔のベルト

 指 魔法封じの指輪

 足 始原魔のブーツ


――――――――――――


 ステータス的にもレベル的にも、功績を立ててもまったく不思議じゃない。それに二人ならば、俺が立ち回りに気を使う必要もない。

 そしてなにより、あの女に対して手柄を立てさせずに済む。


「そん時が来たら、お前らは存分に戦え。俺が全力でバックアップする」

「なるほど、おっけーだよ」

「…………」

「だから喋れよお前は!」


 一応隷属状態だろ。反逆するなよ、そこまで喋りたくないか。


「なあ、あんたら……」


 そんなやり取りをしていると、横手から苦笑いしているような、呆れているような、どっちとも付かない表情をした男が声を掛けてくる。


「さっき叫んだのって、もしかしなくともそうか?」

「あんたが想像しているので合ってるよ」


――――――――――――


 ステータス

 名前 エミリー・バロバクト

 種族 人類

 称号 雷雲神の加護を受けし者

 年齢 公開不可能

 身長 168

 体重 軽いよ

 B: 80(詰め物+3サイズ)

 W: 56

 H: 82

 Lv 734

 HP 56900/56900

 MP 133000/133000

 筋力 856

 耐久 753

 敏捷 890

 器用 835

 知性 1644

 精神 800

 《スキル》

【尖剣術A-】【乱蝶刺突】【超級雷属性魔法適正】【雷属性魔法耐性】【詠唱省略】【自然魔力回復速度上昇Ⅶ】【雷雲神の加護】


――――――――――――


 俺の【分析Ex】は、相手が詰め物をしていた場合、その際にどの程度誇張しているのかも教えてくれる事が判明した。物凄くくだらない。


「なら、尚更まずいぞ。彼女はSランクの冒険者で、しかも―――」

「ギルドの支部長の孫娘、だろ? それぐらい知っているし、理解している上でさっきのは言ったんだ」

「……そうか。それならいいが」


 純粋に俺の事を心配しての事なのだろうが、大きなお世話というものだ。


「ま、忠告感謝するよ。俺はシュウヤ・アマガミだ」

「……ソレーフィンだ」


 差し出された手を、全力で感謝の気持ちを込めて握り返す。


「ありがとう」

「……は?」


 相手―――ソレーフィンは急に礼を言われた事に戸惑っていたが、そんなの関係ない。


「本当にありがとう」


 どこか疲れたような表情に、血色が良いとは言えない顔色。パッと見、体調が悪いのではないかと思ってしまう外見。

 健康そうには見えない見た目だったが、それでも残る最後の一人である目ぼしい人材は、素晴らしい事にまともでした。



――――――――――――



 彼らの進行も、まもなく終わりを迎える。

 目的地はもはや目前で、すぐにでも到達できるだろう。


 仲間の数も大分増えた。到達してすぐに目的を達成できるだけの数まで彼らは増えていた。


 さて、あともう少しだ。気合を入れて進もう。

 進んで進んで、そして始めるんだ。楽しい楽しい宴を。

 ぞろぞろ、ぞろぞろと。



 称号解説

・武神の加護を受けし者 武神から加護を受けた証。特定条件下でステータス上昇。

・雷雲神の加護を受けし者 雷雲神から加護を受けた証。特定条件下でステータス上昇。

・存在シ得ヌ者 イレギュラーである証。一部のシステムに囚われない。

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