エピローグ
頼みの三重結界を破られ、『チェック』を掛けられたラグナは、
「……てめぇらのせいで、俺の計画はもう滅茶苦茶だ。くだらねぇ真似しやがって、『世界最強の召喚獣』が、また遠のいちまったじゃねぇか……」
がっくりと頭を落とし、不気味で異様な『圧』を放つ。
(おっ、これは『イベントシーン』に入ったね。ということは、あの『最終攻撃』が来るな)
ラグナに一定のダメージを与えた状態で、<原初の巨釜・三重結界>を解くと、『とあるイベント』が発生する。
「もう『上』の命令なんざ、『勇者因子の捕獲』なんざ、どうでもいい……。糞ムカつくてめぇらを、今ここで皆殺しにしてやらぁッ!」
彼が右手をあげると同時、天に浮かぶ黄金の巨釜がゆっくりと傾いた。
三重結界で吸い上げた膨大な魔力が、トプトプトプと空中に注がれ――それはやがて『とある武器』を象る。
「――<原初の巨釜・神殺しの槍>!」
全長100メートルを超える深紅の槍が、レドリックの上空に出現した。
「おいおい、なんだよ、アレ……っ」
「と、とんでもねぇ魔力の塊だ……」
「あんなもん落とされたら、ひとたまりもねぇぞ……ッ」
周囲の学生たちが、恐怖に顔を引き攣らせる中、
「はっ、『独活』か『張り子』か、中身のない魔法だ」
ホロウだけは、不敵な笑みを浮かべた。
(さてさて、何で蹴散らそうかな?)
三重結界が解けたことで、『魔法』と『魔力強化』が解禁されたため、いくらでもやりようはある。
(――よし決めた、殴り飛ばそう!)
シンプル・イズ・ベスト。
ホロウの最も得意とする手段だ。
(念のため、魔力強化だけはしておこうかな。手がジーンとなっても嫌だし)
リスク管理に長けた彼は、右手に魔力強化を施し、『万全の迎撃態勢』を整える。
その直後、
「これで……終わりだァ!」
ラグナが両手を振り下ろし、<神殺しの槍>が放たれた。
(さて、やるか)
拳を固めたホロウが、足に力を込めたそのとき――『予想外の事態』が起こる。
「――ホロウくん、ここはボクに任せて」
なんと覚醒寸前の勇者が、最前線に躍り出たのだ。
「馬鹿お前、何を言っている!? 危険だ、下がれ!」
「ありがとう。でも、ボクは大丈夫だよ。なんだか今なら、やれそうな気がするんだ」
「違う、お前の心配など一ミリもしていないっ! とにかく、引っ込んでいろッ!(そんな気持ちは、すぐに捨ててきなさい! 絶対にやるなよ? フリじゃないぞ!?)」
深紅の槍が迫る中、アレンは真剣な眼で、ホロウの瞳を真っ直ぐ見つめた。
「ボクは――ホロウくんに憧れているんだ」
「……はっ……?」
「でも、今のままじゃ駄目なんだ。キミに守ってもらっていたら、その大きな背中に隠れていたら、ホロウ・フォン・ハイゼンベルクに追い付けない……いや、追い越せないッ!」
天高く跳び上がったアレン、その体から神聖な光が溢れ出す。
(や、やめろ……っ)
脳裏に浮かぶのは、ロンゾルキアのトラウマ。
(ボクはこれまで、何度も見て来た。アレンの特異な力を、勇者因子の覚醒を、主人公が悪役貴族を滅ぼすところを……ッ)
原作ホロウの死亡シーンが、走馬灯のように駆け巡る。
(やめろ、頼むから、やめてくれ……!)
悪役貴族の切なる願いも虚しく、
「――<魔法反射>ッ!」
『勇者因子』が覚醒し、進化した固有魔法が炸裂する。
(い、いぃぃぃぃやぁああああああああああああああああああああああああ……ッッッ!!!???)
ホロウが声にならない絶叫をあげ、
「な、なんだと!?」
ラグナは驚愕に目を見開いた。
(<神殺しの槍>が跳ね返された!? いや違う、これはただの反射じゃねぇ! 内包された魔力が桁違いだ……っ)
<魔法反射>は、前方のあらゆる魔法を二倍に増幅して跳ね返す。
(とにかく、このままじゃヤベェ……っ)
ラグナは咄嗟に固有を展開し、それを『盾』とした。
「の、呑み込んでやる! 全て! これしきの魔力! 俺の巨釜でぇええええええええッ!」
<原初の巨釜>の特性『吸収』を使い、なんとか急場を凌ごうとする。
しかし、これだけの大魔力を瞬時に吸収し切れるわけもなく、
「お、おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
ラグナは遥か上空へ打ち上げられ、星となって消えた。
「……か、勝った、のか……?」
誰かがポツリと呟き――歓喜の声が湧きあがる。
「ぃやったーっ!」
「アレンの野郎、やりやがった!」
「いや、普通にホロウだろ。アイツ、どんだけ強いんだよ……」
「ばっひひーん! 3000万っ! 3000万ッ!」
「はぁはぁ、『ホロウ×アレン』……キチャッ!」
「馬鹿、ホロウ様は『誘い受け』よ? そこはやっぱり『アレン×ホロウ』でしょ!」
混沌とした会話が飛び交う中、
(……だ、駄目だ主人公、早くなんとかしないと……っ)
ホロウは幽鬼のような足取りで、人目のないところへ移動し、<虚空渡り>を展開――静かにその場を離れた。
一方のアレンは、
(はぁはぁ……やった、ついにやったぞ! 勇者の力が覚醒したっ! <零相殺>が、<魔法反射>に進化したッ!)
強い充足感を覚えながら、グッと拳を握り締める。
「ホロウくん、今の見ててくれた……って、あれ?」
振り返るとそこに、『憧れの人』はいなかった。
そんな折、ニアとエリザが駆け付ける。
「凄いじゃないアレン、勇者の力が目覚めたのね?」
「魔法を反射する魔法、あれが勇者の固有なのか?」
「あっ、うん。それより二人とも、ホロウくんを見なかった?」
「ホロウならそっちに……あれ?」
「おかしいな。さっきまでそこにいたはずだが……」
周囲をグルリと見回すも、ホロウの姿はどこにもない。
「どうしたんだろう……何かあったのかな?」
「あのホロウに何かあるわけないじゃない。どうせまた悪巧みでしょ」
「あのホロウに何か起こるとは到底思えん。どうせまた悪巧みだろう」
臣下二人は、ホロウの『武力』と『謀略』に絶大な信頼を寄せていた。
そうしてレドリックが歓喜に沸く中――遥か北方の樹林より、『黄金の大魔力』が立ち昇る。
「「「なっ!?」」」
獰猛にして狂暴なそれは、『獣災』ラグナ・ラインのモノだ。
「そ、そんな……仕留め損なった……!?」
ラグナは<原初の巨釜>を以って、二倍に増幅反射された<神殺しの槍>を全て吸収し切ったのだ。
今や巨釜の中は金色に満たされており、彼の悲願である『世界最強の召喚獣』が、今ここに実を結ぼうとしていた。
未曽有の事態を受けて、レドリックは大パニックとなる。
「おいおいおい、どうすんだよこれ!?」
「ラグナの野郎、絶対にまた来るぞ……っ」
「しかもあの魔力、さっきよりも遥かにデカくなってねぇか!?」
学生たちが恐慌状態に陥る中、
「――みなさん、すぐにこの場を離れましょう! 慌てず落ち着いて、担任の先生ところへ移動してください!」
ニアは教師陣と連携して避難誘導を始め、
「聖騎士協会へ増援を要請しろ! それから王政府へ緊急の<交信>を飛ばせ!」
「「「はっ!」」」
エリザが配下の聖騎士たちへ指示を飛ばしたそのとき――『漆黒の大魔力』が天を貫く。
それと同時、
「「「……っ」」」
この場にいる全員が、恐怖のあまり動けなくなった。
心臓を鷲掴みにされたかのような感覚。
一挙一動が死に繋がる、そんな錯覚さえ覚えた。
それは文字通り、『異次元の大魔力』。
おどろおどろしい闇が、汚泥のような黒が、金獅子の輝きを穢していく。
「こ、この邪悪な魔力は……っ」
「間違いない、あの男だ……ッ」
ニアとエリザが息を呑む中、
「さすがはホロウくん……ありがとう(ボクの失敗を見抜いて、ラグナを仕留めに行ってくれたんだね。やっぱり、まだまだ全然敵わないなぁ……っ)」
アレンはただ一人、『尊敬』と『憧憬』を深めていた。
■
レドリック魔法学校より、遥か北方に広がるアース樹林。
その最奥に、突如として漆黒の渦が生まれ、『虚空の王』がゆっくりと姿を現す。
一人になれる場所を求めたホロウが、<虚空渡り>の転移先として選んだのが、ここだった。
「……」
念のため周囲を見回し、誰もいないことを確認した彼は、ゆっくりと膝から崩れ落ち、
「――くそったれがぁああああああああッ!」
固く握った右拳を思い切り振り下ろした。
天変地異も斯くやという衝撃波が吹き荒れる中、ホロウはぐしゃぐしゃと深紅の髪を掻き毟る。
「はぁ、はぁ……。くそ、甘かった……っ」
やはり主人公は、どこまで行っても主人公だ。
アレン・フォルティスは、『超巻き込まれ体質』。
彼が何をせずとも、トラブルを引き寄せ、トラブルに引き寄せられ……いずれ覚醒を果たす。
(アレンを戦いから遠ざけるだけじゃ駄目だ。もはや手段を選ばず、葬り去るしかない……っ)
ホロウはバッと顔を上げ、大きく息を吸い込む。
そして次の瞬間、
「「……くそがぁああああああああ……ッ!」」
二つの叫びがシンクロする。
「「……あ゛……?」」
顔を上げるとそこには――『獣災』ラグナ・ラインがいた。
<神殺しの槍>に吹き飛ばされた彼は、偶然にも、このアース樹林へ落下していたのだ。
「「……ここで会ったが百年目、よくも『計画』の邪魔してくれたな」」
再びユニゾンを奏でる。
「「……あ゛……?」」
まるで合わせ鏡。
(なんだこいつ、ボクの真似ばかりしてくるな)
(なんだこいつ、俺の真似ばかりしてきやがる)
台詞どころか、思考まで同じだ。
つい先ほど殺し合いを演じた二人だが……今ここで『最も憎らしい敵』は、やはりあの男。
「アレン・フォルティス、まさかあんなタイミングで覚醒するとは……っ」
ラグナが憎々しげに呟き、
「全くもってその通りだ。なんなんだあのご都合主義的な展開は……虫唾が走るッ!」
ホロウはそれに強く同意する。
「「……」」
僅かな沈黙。
「「お前……話せばわかるな」」
再び言葉が重なった。
どういうわけか、二人は妙に馬が合った。
出会い方が違えば、いい友達になれたかもしれない。
(……いや、今からでも遅くない。人間、いつだってやり直せる。そう、理想郷ならね)
当初の目的――『ラグナ・ライン家族化計画」に立ち戻ったホロウは、嬉しそうに声を弾ませる。
「よく生きていたな、ラグナ。てっきり死んだかと思ったぞ?」
「くくっ、それも全てこいつのおかげだ」
ラグナが右手を伸ばせば、黄金に輝く<原初の巨釜>が出現した。
「アレンの野郎には、むしろ感謝しなくちゃいけねぇかもな。あいつが<神殺しの槍>を強化・反射してくれたおかげで、<原初の巨釜>はついに満たされた!」
「ほぅ(あの一撃を吸収し切ったのか……。さすがは起源級の固有、やっぱり基本性能がデタラメに高いね)」
ホロウは満足気に微笑み、スッと右手を伸ばす。
「ラグナ、俺の『家族』になれ。そうすれば、命だけは助けてやる」
「……はっ、まさかこんなところで『スカウト』を受けるとはな」
「悪い話ではないぞ? 今は街の開発もかなり進んでいてな。個性豊かな仲間たちが、お前を待っている」
「くくっ、いいぜ。てめぇの下にでもなんでも就いてやるよ」
意外にもすんなりと応じたラグナだが、その瞳の奥には猛々しい闘志が燃えている。
「もし万が一にも、『世界最強の召喚獣』に勝てればなァ!」
凶暴な笑みを浮かべた彼は、両手をパンと打ち鳴らす。
「見せてやる! 俺が長い修業の果てに辿り着いた『究極の秘術』をッ!」
次の瞬間、
「――<原初召喚・熾天使グラディア>!」
<原初の巨釜>が眩い光を放ち、その内部に貯蔵した莫大な魔力を湯水の如く吐き出す。
大瀑布と見紛うばかりのそれは、輝く黄金の奔流は、やがて一つの『生命』を紡いだ。
「ふ、はは……ふはははははははは! やった、やったぞ、俺はついに成し遂げたんだ! 遥か原初の時代から、『伝説の熾天使』を! 『グラディアの魂』を呼び戻したッ!」
宙空に浮かぶ全長30メートルの純白――それこそが、熾天使グラディアだ。
神に創造された熾天使の一柱であり、『剣の理』を司る化物。
神聖な輝きを放つ威容・羽毛のようなシルクのような純白の体表・背中に生えた六本の巨大な翼、その姿はまさに『天使』。
両手で握る巨大なメイスは、森羅万象を断ち切る、『剣の理』を秘めた究極の一振りだ。
「ほぅ……見事なものだな」
ホロウの口から零れたのは――純粋な称賛。
彼にしては珍しく、皮肉や嫌味の籠っていない、心からの言葉だ。
(いや驚いた。まさかこんな序盤も序盤で、熾天使を拝めるとは……)
眼前のグラディアは、これまでホロウが戦ってきた中でも『最強の敵』であり、決して第三章で登場していいレベルの存在じゃない。
もしもこれが『怠惰傲慢ルート』だったならば、『即BadEnd』となっていただろう。
(やっぱり召喚士と<原初の巨釜>の組み合わせは、めちゃくちゃバケるね。まさに『要は使いよう』だ)
ホロウが感心していると、興奮した様子のラグナがバッと両手を広げる。
「俺はこの最強の力で、熾天使グラディアの剣で、世界を統べる『王』となる! さぁホロウ、始めようか! いや、もう終わりにしようか!」
「あぁ、これでお前も家族だ」
『謙虚堅実な極悪貴族』が、飛び切り邪悪な笑みを浮かべた次の瞬間、
「……あ゛っ……?」
世界が斜めにズレた。
広大なアース樹林が、巨釜とラグナが、熾天使グラディアが、真っ二つに両断されたのだ。
黄金の釜は大地の上を転がり、熾天使グラディアは霧散する。
「て、てめぇ……何を、しやがった……ッ!?」
「――<虚空斬>」
ホロウは虚空の魔力を宿す、不可視の刃を飛ばしたのだ。
それは『神速』・『不可視』・『防御不能』、三拍子揃った凶悪な性能を誇り、初見での回避はまず不可能。
原初の時代を生きた『剣を司る熾天使』でさえ反応できない、『厄災ゼノの斬撃』だ。
「<虚空>……なるほど、そういうことか。道理でクソ強ぇわけだ……ッ」
ラグナの口から血が溢れ、斜めに断たれた胴体が、ゆっくりズレ始めたそのとき、
「さぁ、約束だ。俺の下に就け」
ホロウは回復魔法を使い、泣き分かれたラグザの胴体を原子レベルで結び付けた。
「……お、おいおい、こりゃなんの冗談だ……っ(切断された胴体を、一瞬で繋げた? もはや回復魔法とかそんなレベルじゃねぇぞ!? 天魔十傑の誰にも、あのボスにもできねぇ『神業』だ……ッ)」
虎の子の熾天使グラディアを破られ、神域の回復魔法を魅せられたラグナは、
「――はっ、完敗だ。てめぇには負けたぜ、ボイド」
まるで憑き物が落ちたように清々しい笑みを浮かべた。
「約束は約束だ。俺はてめぇの下に就く。どうせ子分をやんなら、ド派手にやってやらぁ! この力を使って、ボイドを『王』にしてやるよ!」
「ふっ、こんなに活きのいい家族は、お前が初めてだぞ」
お互いに握手を結び、和やかな空気が流れた。
無理矢理に拉致するのではなく、相手から了承を取って家族へ迎える。
今回の事例は、非常にレアなケースだ。
「つーかよぉ、さっきからずっと気になってたんだが、『家族』ってのはどういう意味――」
ヌポン。
ラグナは漆黒の渦に呑まれ、ボイドタウンへ飛ばされた。
(ラグナ・ライン――ゲットだぜ!)
起源級の固有魔法<原初の巨釜>を手に入れたホロウは、グッと拳を握り締める。
(ふふっ、ラグナの召喚士としての技量は確かなものだったし、低位の魔獣なら相当な数を操れるはず。これでボイドタウンは、一気に発展するぞっ!)
こうして目標の大ボスを――『無限の労働力』を確保したホロウは、ハイゼンベルクの屋敷へ飛ぶのだった。
■
ハイゼンベルクの屋敷に戻り、自室の椅子に腰掛けたボクは、長く深く息を吐く。
(ふぅー……さて、始めるか)
もはや恒例となった『章の振り返りタイム』だ。
(予想していたことだけど、この第三章は本当に忙しかったね)
メインどころは、だいたい三つかな?
・ボイドタウンで二つの巨大事業、武器の超大量産とニュータウンの設立を開始。
・リンとセレスさん、天才魔法研究者ケルビー母娘の確保。
・第三章の大ボス『獣災』ラグナを家族に迎え入れ、『無限の労働力』をゲット。
他にも帝国へ軽い警告を入れたり、魔法炉の調整を進めたり、チェスのイベントで箔を付けたり、カーラ先生を二重スパイにしたり……超大量のサブイベントをこなし、『将来の準備』を済ませた。
大切なところをしっかりと押さえ、細かい要素も完璧に拾い上げている。
(第三章の出来は――満点越えの120点……いや、150点だね!)
自分で言うのもなんだけど、本当に上手くやれたと思う。
冒頭に作った『攻略チャート』、アレがけっこう効いたかもしれないな。
(ただ最後に一つ、大きな問題が起きてしまった……)
そう、主人公アレン・フォルティスの『覚醒』だ。
彼の中に眠る勇者因子が、ついに目覚めてしまった。
(でも、よくよく考えれば、そこまで慌てふためくことはない)
勇者の固有魔法は、原作ロンゾルキアで唯一の『進化する固有魔法』。
今は最弱の<零相殺>から、二番目に弱い<魔法反射>へ進化しただけ。
本来ならこの覚醒は、第一章の途中で起きるはずだった。
しかし、ボクの企てた『主人公モブ化計画』によって、アレンは著しく弱体化し……今やもう第三章の終着点。
単純計算、彼のレベリングは、二回り以上も遅れている。
(だから、そんなに慌てる必要はない)
ボクは依然として、『絶対的な有利盤面』を築いている。
(でも、それに胡坐を掻いて、なんの対策も練らないのは――『怠惰傲慢』な行いだ)
その油断と慢心こそが、原作ホロウを何度も破滅へ導いてきた。
ここは『謙虚堅実』に襟を正し、なんらかの手立てを講じるべきだろう。
(実際のところ、今のアレンはまだかなり弱いけど……。この調子でひょいひょいと覚醒を続けられるのは、原作と同じ水準まで強化されるのは、さすがにちょっとマズい)
勇者因子のさらなる覚醒を防ぐためには、アレンの覚醒条件を知っておく必要がある。
(勇者因子の覚醒条件は、『一定以上の経験値を獲得した状態で、とある情動を激しく揺さぶられること』)
前者の経験値については、先々代勇者ラウル・フォルティスとの修業によって満たされた。
そこはもう仕方がない。
(今ここで考えるべきは後者、『とある情動とは、いったいなんなのか?』だ)
あのときアレンは、ラグナの放った<神殺しの槍>に晒され、絶体絶命の危機に瀕し――そこで勇者の力が目覚めた。
(当時の状況から考えて、引き金となったのは、焦燥・絶望・苦悩……。なんらかの『負の感情』であることは間違いない)
うーん……厄介だね。
アレンは『超巻き込まれ体質』、あらゆるトラブルに吸い寄せられ、一人で勝手に窮地へ陥る『典型的な主人公』だ。
このままじゃ、いつどんなイベントに巻き込まれて、何がきっかけで覚醒するかわかったもんじゃない。
(最も確実な手段は、主人公を屠ることなんだけど……。ボクがこの手で始末するのは、さすがにちょっと危険過ぎる)
今のアレンと戦った場合、ボクの勝率は99.9%。
十中八九、瞬殺だね。
(ただ……あの『呪われた勇者因子』は、千年前に非業の死を遂げた、『初代勇者』の怨讐――憎悪に満ちた煮凝りだ)
『虚空因子』を宿すボクが、ゼノの力を持つボクが、アレンを手に掛けた場合……どんな『暴走』が起こるかわからない。
殺るならばこの手を汚さず、他の第三者に殺ってもらうべきだ。
「……主人公をいい感じに始末できるような『超ビッグイベント』があれば、この先いろいろ楽になるんだけどなぁ……」
まっ、そんな都合のいい話はないよね。
(――さて、第四章はなんだったかな?)
第三章の振り返りもそこそこにして、次の章について思考を巡らせたそのとき――自室の扉が勢いよく開け放たれ、オルヴィンさんが駆け込んできた。
「ほ、ホロウ様、大変なことが……!」
「どうした、何があった?」
礼節を重んじる彼が、ノックもなしに入ってくるなんて、よほどの事態だろう。
「王国西部に……あの憎き『天喰』が観測されましたッ!」
「天喰ぃ……?」
あぁ、そうだったそうだった。
(次の第四章は、『四災獣天喰編』だ)
ここはかなり大変だ。
何せ原作ロンゾキルア『前編』の締め括り、第一章・第二章・第三章の『総決算』にあたる、とても大切な章だからね。
(ボクはそこでハイゼンベルク家の力を……否、『極悪貴族』ホロウ・フォン・ハイゼンベルクの力を見せ付ける。父ダフネスへ、四大貴族の当主たちへ、そして何よりクライン王国の王族たちへ!)
そのためにこの第三章で、いろいろと『仕込み』を済ませ――。
(……いや、待てよ)
このとき、ホロウ脳がかつてないほどに回転し――『悪魔のルート』を構築した。
「く、くくくっ……ふははははははははッ! そうか、来たか、来てくれたか!」
「ぼ、坊ちゃま……?」
『四災獣』天喰を利用して、主人公アレン・フォルティスを葬り去る!
そのための方程式が、今ここに導き出された!
(くくくっ、覚悟しておいてねアレン?)
次の第四章が、キミの『エンディング』だ!
【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】
「面白いかも!」
「早く続きが読みたい!」
「執筆、頑張れ!」
ほんの少しでもそう思ってくれた方は、本作をランキング上位に押し上げるため、
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この二つを行い、本作を応援していただけないでしょうか?
ランキングが上がれば、作者の執筆意欲も上がります。
おそらく皆様が思う数千倍、めちゃくちゃに跳ね上がります!
ですので、どうか何卒よろしくお願いいたします。
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