表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~  作者: 月島 秀一
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/165

第十四話:切断

 帝国へ「軽い警告を出してほしい」とお願いしたところ、「皆殺しにしてきます」という答えが返ってきた。

 何を言っているのかわからないと思うが、ボクも何が起きているのかわからない。


 これは大至急、アクアに真意を問うべきだ。


(えっと……ボクの聞き間違いかな? 今なんか『皆殺し』とか、物騒な言葉が聞こえた気がするんだけど……)


(何を仰いますか、ボイド様が(あやま)ちを犯すことなどありません)


 やはり皆殺しにするらしい。


 さて、どうしよう。

 ボクは(うつろ)の統治者、臣下(アクア)の提案を頭ごなしに否定したくない。

 こういうときに大切なのは――『ヒアリング』だ。


(あの……どうして、そうなっちゃったのかな?)


(ボイド様に暗殺者を差し向けるなど、不敬にもほどがあります。そんな皇帝(ゴミ)は、それが治める国は、そこに住む害虫は、この(・・)『おいしい世界』に必要ないかと)


 淡々と(つむ)がれるその言葉には、凄まじい憎悪が籠っていた。


 アクアは昔から、ちょっと過激なんだよね……。

 普段は明るくて快活な子なんだけど、スイッチが入ると途端に()む。


(まずは『軽い警告』として、帝国の民を皆殺しにします。そうやって世界へ知らしめるのです、ボイド様に逆らうことが、どれだけ愚かな行為かを)


 そっかぁ、そういう(・・・・)理解(・・)になっちゃったかぁ……っ。


 ボクはアクアへ、『帝国に軽い警告を出して、ちょっと静かにさせてくれないかな?』と頼んだ。

 ボクの本意は、『軽い警告を出して、帝国を(・・・)静かにさせること』。

 アクアの理解は、『軽い警告として、帝国の民を皆殺しにし、世界を(・・・)静かにさせること』。


 言葉って難しいね。


 でもまぁ……彼女は人間と魔獣の混血だから、独特な理解や解釈になるのも、仕方のないところがある。


(アクア、一ついいかな?)


(はい、なんでしょう)


(皆殺しって、実はけっこう難しいんだ。無理なことをできると言い切るのは、ちょっとどうかなぁって思うよ?)


(恐れながら、『触手』を使えば問題ないかと)


(……だね!)


 どうしよう、できちゃうよ……。


 アクアが帝国の諜報(ちょうほう)に入ってから、既に一年以上が経過している。

 彼女の種族特性と固有魔法を使えば、それ(・・)は決して夢物語じゃない。

 ……いや、そんな夢は全くいらないんだけどね。


(もう率直に言っちゃうとさ、今ここで帝国を滅ぼされたら困るんだ。ボクの作った『攻略チャート』が崩れちゃう)


(ぼ、ボイド様が困る!?)


(そう、ボクが困る)


(う゛、ぐ……っ。それは……駄目です。ボイド様にご迷惑を掛けるわけにはいきません)


(ありがとう、それじゃ皆殺しは一旦ストップね)


(はい、わかりました)


 やっぱりアクアは、優しくて素直ないい子だ。

 なんだかんだで、ボクの言うことは、ちゃんと聞いてくれる。

 まぁ……ボクの言うこと以外は、ほとんど聞かないんだけど。


 さて、アクアは昔から独特な理解と解釈をしがちだから、いつもより細かく指示を出しておくとしよう。


(とりあえず……今回は軽い警告として、『帝国の城塞(じょうさい)』を一つ潰してもらえる? どうせ攻撃するなら、ちょっと大きめのやつがいいな。あまり小さいのを落としても、脅しにならないしね)


(帝国の城塞、ちょっと大きめのやつ……御命令、確かに承りました)


 念話に羽根ペンの走る音が乗った。

 アクアは真面目だから、きっとメモを取っているのだろう。


(後はそうそう、皇帝にも『面子(めんつ)』があるから、人死(ひとじ)には出しちゃダメだよ? 王として引っ込みがつかなくなるところまで追い詰めると、余計面倒なことになっちゃうかもだからね)


(かしこまりました)


(それじゃよろしく)


交信(コール)>切断。


「ふぅ……」


 いつもよりかなり細かく指示を出したボクが、ちょっと長めのため息をつくと――エリザが小首を傾げた。


「<交信(コール)>を使っていたようだが、何かあったのか?」


「別に大したことはない。帝国の滅亡を防いできただけだ」


「……お前が言うと冗談に聞こえんぞ」


 二人でそんな話をしていると、


「……あ、れ……?」


 ティアラの催眠が解けた。

 さっきまで『とろん』としていた目には、元の鋭い眼光が戻っている。


(んー、かなり早いね)


 フィオナさんの話によれば、とろみちゃんの有効時間は『およそ一時間』。

 ティアラに薬を打ち込んでから、まだ十五分とかそれぐらいだ。


(これは多分……薬の効果に抵抗(レジスト)したんだろうな)


 確かとろみちゃんを注入したときも、ちょっと暴れていたっけか。

 やはり『中ボス』クラスにもなると、そこそこの精神力が備わっているらしい。


(でも、十五分もあればお釣りがくるね)


 既に尋問は終わっている、情報は全て聞き出せた。


 結論として『とろみちゃん』は、非常に便利な毒薬だ。

 今度フィオナさんには、金一封(ボーナス)を包んであげるとしよう。

 きっと「ばひひーん!」って喜ぶぞ。


「なん、で……私……っ」


 催眠状態の解けたティアラは、信じられないといった風に瞳を揺らす。

 とろみちゃんで正気を失っている間の記憶は、全てはっきりと残っている。

 彼女は今、自分がペラペラと情報を吐いた事実に打ちのめされているのだ。


「おやおや、薬一つで簡単に落ちてしまったな? 『暗殺者としての誇り』とやらは、いったいどこへ行ったんだ?」


「ち、違う! 違う違う違うっ! あんなのは私じゃないッ!」


「くくくっ、従順なお前は、とても可愛らしかったぞ?」


「う、五月蠅(うるさ)い、この悪魔め……ッ」


 羞恥(しゅうち)に頬を赤らめたティアラは、ポロポロと悔し涙を流す。

 いろいろな気持ちが溢れ出し、情緒(じょうちょ)が壊れてしまったらしい。


嗚呼(ああ)、気の強い女が崩れる様は、最高にゾクゾクする……って、落ち着け落ち着け……っ)


 今日は原作ホロウの邪悪な思考が、やけに意識の表層へあがってくる。

 どういう理屈かわからないけど、この子にはとてもよく反応してしまうのだ。

 もしかしたら原作ホロウは、こういう気の強い女性がタイプなのかもしれない。


「しかしティアラよ、随分と余裕そうだな」


「……どういう意味よ……?」


「お前は依頼主の情報を喋った。つまりは、あの(・・)皇帝を売ったのだ。これは紛れもなく帝国への背信。今すぐにでも、身の振り方を考えた方がよいと思うのだが……」


「……っ」


 ようやく状況を理解したのか、ティアラの顔が真っ青に染まる。


「い、嫌だ……ホロウ、助けて……っ」


「随分と弱気だな。『煮るなり焼くなり好きにしろ』と言っていたではないか」


「あの御方は、裏切り者に容赦しない。あらゆる責め苦を与えて、生きたまま(さら)しモノにする……っ」 


「ほぅ、それは興味深い。よし、皇帝(かいぬし)のもとへ送り届けてやろう」


「や、やめて……それだけは絶対に嫌……っ」


 ティアラは小動物のように震え、ボクの脚に(すが)り付いてきた。


「お願い、なんでもするから、あなたの傍において……っ」


「今、『なんでもする』と言ったか?」


「うんうんうん、なんでもするっ! だからお願い、あなたの――ハイゼンベルク家の庇護下(ひごか)に入れて!」


「そこまで()われては仕方あるまい。特別に――俺の『コレクション』へ加えてやろう」


「ありが……えっ?」


 一瞬だけ(はな)やいだティアラの顔が、氷のようにピシりと固まった。


「こう見えて俺は、『コレクター気質』なところがあってな。昔から、希少な魔法因子を集めているんだ。ティアラの<時の調停者(タイム・ルーラー)>は伝説級(レジェンドクラス)の固有魔法。正直に言うと、喉から手が出るほど欲しい」


「あ、あたしに……何をするつもり……!?」


 彼女は両手で体を抱きながら、ゆっくりと立ち上がり、そのまま一歩二歩と後ずさる。


「案ずるな、大魔教団みたく因子のみを抽出するような真似はせん。()(てい)に言うならば、お前を『家族』にしてやる」


 ボクは本やゲームやCDの外装(カバー)を捨てず、きちんと保管しておくタイプだ。

 当然ティアラの外装(からだ)も、レアな魔法因子とセットで保管する――ボイドタウンという『巨大なガラスケース』でね。


(間違いない、ホロウは皇帝陛下と同じくらい――いや、もしかしたらそれ以上にイカれてる……っ。人を人とも思わない『鬼畜』、こんな奴に飼われたが最後、もう二度と人として扱われない……ッ)


 絶望に瞳を曇らせた彼女は、


「……っ」


 脱兎(だっと)の如く駆け出した。

 さすがはスピード特化の暗殺者ビルド、凄まじい逃げ足だね。


 でも、


「――どこへ行くつもりだ?」


 ボクの方が遥かに速い。


「ひぃっ!?」


 ヌポン。

 ティアラは、虚空に呑まれた。


(<時の調停者(タイム・ルーラー)>、ゲットだぜ!)


 貴重な伝説級(レジェンドクラス)の魔法因子をコレクションできたうえ、アルヴァラ帝国への牽制もできた。

 予定外のイベントだったけど、かなりおいしかったね!

 こういうのなら、いつでもウェルカムだよ。


 レアものを捕獲したボクは、エリザのもとへ戻る。


「さて、時間を取らせたな。早いところ、孤児院へ行こう」


「こんな大事件の直後に、よくそんな普通のテンションでいられるな……っ」


 その後、ダンダリア孤児院へエリザを送り届けたところ……ローレンス夫妻と子どもたちに死ぬほど歓迎された。

 ダンさんとダリアさんは涙を流して「うちのエリザをお願いします」とか言うし、エリザは顔を真っ赤にして「ま、まだお付き合いはしてない!」とか騒ぐし、子どもたちは超ハイテンションで「ホロウ様ありがとう!」って来るしで、一気にドッと疲れた。


 でもまぁ……人に感謝されて悪い気はしないね。



 迎えた翌朝、ボクは自室で『至福のひととき』を過ごす。


「――ホロウ様、どうぞこちらを」


 メイドのシスティが、コーヒーを()れてくれた。


「ありがとう(うーん、いいかおり……)」


 ボクはこの朝の時間が大好きだ。

 窓から吹き込む(さわ)やかな風・優しく柔らかな太陽の光・美しい小鳥のさえずり、とても平和で幸せな時間。  

 きっと死の運命を乗り越えたら、こういう穏やかな毎日が待っているのだろう。


(ふふっ、今日も最高の始まりだ)


 ご機嫌なボクは、手元の朝刊を開き――自分の目を疑う。


『帝国最大の城塞都市、一夜にして陥落』


「ぶほっ!?」


 思わず、口に含んだコーヒーを吹き出してしまった。


「ほ、ホロウ様、如何(いかが)なされましたか!?」


「いや、大丈夫だ……問題ない」


 システィからハンカチを受け取り、汚れた口元と紙面を急いで拭く。


「ふぅー……」


 呼吸を整えて心を落ち着かせて、問題の記事に目を通していく。


 帝国最大の城塞都市レバンテが壊滅。

 昨夜未明、『青の触手』が出現し、破壊の限りを尽くした。

 帝国軍が迎撃に当たるも、まるで歯が立たずに敗走し、1000人あまりが負傷。

 皇帝は『国家非常事態宣言』を発令し、問題の究明および都市の復興に乗り出した。

 これほどの大事件でありながら、死者がゼロであったのは、『奇跡』というほかない。


(……あぁ、もうめちゃくちゃだよ……っ)


『帝国の城塞(・・)』を潰してとお願いしたら、『帝国の城塞都市(・・・・)』を落としてきた。


(確かにボクは言ったよ? 『どうせ攻撃するなら、ちょっと大きめのやつがいいな』って)


 でもさ、『城塞』と『城塞都市』は違うんだよ。

 似ているけれど、けっこう違うんだよ。


(よりにもよって帝国最大の城塞都市を、『守りの(かなめ)』たるレバンテを攻め落とすなんて……。こんなの軽い警告じゃない、どう考えても宣戦布告だ……っ)


 ボクは長く重く大きく息を吐き出し、ホロウ(ブレイン)を起動する。


 原作知識が脳内を駆け巡り、最適なルートが再構築され――結論が出た。


(――大丈夫だ、万事問題ない)


 後で本人にも確認するけど、幸いにも今回、アクア本体は出ていない。

 この一件は、彼女が『触手』を使っただけ。

 帝国サイドからは、『謎の大魔獣に襲われた』と見えるはずだ。


(まぁ、皇帝は極めて優秀だから、おそらく『違和感』を覚えるだろう)


 何せボクに暗殺者(ティアラ)を差し向けてすぐ、謎の大魔獣に襲われたんだからね。


 それでも、すぐには動けない。

 あっちはあっちで、王国との火種(ひだね)を抱えている。

 守りの要たるレバンテが落とされたままじゃ、王国軍に「攻めてください」と言っているようなものだ。


 たとえどれだけボクのことが気に掛かろうとも、最優先事項はあくまで『城塞都市の復興』。

 時間も資源も、惜しみなくそこへ投じるだろう。

 もしかしたら、皇帝本人が陣頭指揮を()るかもしれないね。


(それに何より、『死者ゼロ』というのがデカい)


 帝国民の感情を刺激し過ぎず、『未知の恐怖』をしっかりと植え付けた。

 これだけ大規模な襲撃を受けながら、死者が一人もいないというのは、はっきり言って異常だ。

 どんな馬鹿であれ、そこに『なんらかの意図』を感じるだろう。


 ()しくもこの一件は、『帝国全体への強烈な警告』となったのだ。


(……でもこれアクア、めちゃくちゃ大変だっただろうなぁ……)


 触手を使って、たったの一人も殺さず、城塞都市を攻め落とす。

 いったいどれだけ精密な魔力操作が必要か……想像するだけで、神経が()り減る。


(多分、ボクの命令――「人死(ひとじ)には出しちゃダメ」を愚直に守ったんだろうな)


 あの子は昔から、凄く真面目で頑張り屋さんだ。

 もしかしたら今頃は、疲れ切って爆睡しているかもしれない。


 今度、彼女の好きなお菓子でも買って行ってあげよう。


(とにもかくにも、アクアのおかげで帝国の脚は止まった)


 ボクはこの間に第三章を攻略し、メインルートを押し進め、『王選』にまで辿り着く。

 そうしてこちらの準備が整った段階で、帝国との――皇帝との会談に臨むのだ。

 そのときに今回の一件は、凄まじい威力を発揮するだろう、もちろん『脅しの道具』としてね。


(ふふっ、我ながら完璧な『軌道修正』だ!)


 さすがはホロウ(ブレイン)、悪巧みをさせたら天下一だね。


(さて、残りのコーヒーをいただくとしよう)


 至福のひとときへ戻ろうとしたそのとき、突如として<交信(コール)>が飛んでくる。


(私、『知欲の魔女』エンティアよ。実はホロウにお願いが――)


 ボクは無言で切断した。

【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】

「面白いかも!」

「早く続きが読みたい!」

「執筆、頑張れ!」

ほんの少しでもそう思ってくれた方は、本作をランキング上位に押し上げるため、


・下のポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にする


・ブックマークに追加


この二つを行い、本作を応援していただけないでしょうか?

ランキングが上がれば、作者の執筆意欲も上がります。

おそらく皆様が思う数千倍、めちゃくちゃに跳ね上がります!

ですので、どうか何卒よろしくお願いいたします。


↓この下に【☆☆☆☆☆】欄があります↓

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

カクヨム版の応援もお願いします!


↓下のタイトルを押すとカクヨム版に飛びます↓


カクヨム版:世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する



― 新着の感想 ―
「大きめの城塞」という条件で「最大の城塞」である「皇城」を落としたりするかと思ったw
フィオナの鳴き声が最早馬そのものに・・・w
ティアラも洗脳されちゃうのかな… 今後がかなり見たいキャラではある てか<時の調停者>で止まった時の中で動けるなら、停止中に<虚空>使って家族増やしたら最強では?証拠残らないし
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ