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世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~  作者: 月島 秀一
第五章

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第三十八話:絶望のどん底

 闘技場の最上階『支配人室(マスタールーム)』へ飛んだボクは、


(午前11時50分、メインルートの進行的にそろ(・・)そろ(・・)来る(・・)はず(・・)……)


 黒い本革(ほんがわ)のソファに腰を下ろし、机に置かれた監視用の魔水晶を起動する。


(おぉ、めちゃくちゃ賑わっているね)


 正面ロビーのライブ映像は、大勢の人達でごった返していた。

 ちょっと耳を済ませれば、向こうの音声が聞こえてくる。


「次の演武(えんぶ)は、今日のメインカード――『闘技場の絶対王者』VS『謎の挑戦者V』!」


「現在のオッズは、『王者』が1.5倍、『挑戦者』が10倍、『引き分け』が4倍だァ!」


「はいはい、張った張った! 後10分で(しめ)ちゃうよー?」


 受付スタッフたちが(あお)ると、


「へへっ、1.5倍はめちゃくちゃ美味(うめ)ぇな! 王者に30万ゴルド!」


「ここは『鉄板』! 王者に50万ゴルドだっ!」


「今日の負け分、全て取り返してやる! 王者に100万ゴルドッ!」


『熱』に当てられたお客さんが、次々に大金をベットしていく。


(ふふっ、助かるよ)


 彼らの投げたお金は――闘技場での利益は、ボクの活動資金になる。


(こっちは(ふところ)ホクホクで幸せ、みんなは脳汁(のうじる)ブシャーで幸せ。まさに『理想的な関係』だね!)


『不労所得』という『最高の金策(きんさく)』に満足していると、


(おっ、来た来た!)


 映像の奥から、学生の集団が現れた。


「――みなさん、着きましたよ。ここが闘技場、帝国の誇る『武の祭典』です」


 先頭を歩く引率(いんそつ)の馬カス、その後ろに続くのは、


「へぇ、凄い人ね(せっかくの帝国観光なんだから、最終日ぐらいホロウも来ればいいのに……)」


「噂通り、活況だな(ホロウは今日も欠席、息災(そくさい)であればよいのだが……)」


「今日は『闘技場の絶対王者』、帝国最強の女魔剣士が戦うみたいだよ!(あれ、この魔力は……ホロウくん? もしかして、近くにいるのかな?)」


 ニア・エリザ・アレンをはじめとした、レドリック魔法学校と帝国魔法学院の生徒だ。


(人界交流プログラムの最終日は、闘技場の戦いをみんなで見学する。このとき『受付嬢A』がミスをして、主人公(アレン)を出場選手に登録、あっという間にトーナメントを勝ち上がり――『最終戦』へ突入してしまう)


 そんな最悪の事態を防ぐため、ボクは『二つの手』を打った。


 一つはシステムの変更。

 本来の『トーナメント制』から『マッチメイク方式』に変え、闘技場の王者VS謎の挑戦者Vの戦いを固定した。


 一つは従業員のシフト調整。

『世界の修正力』によって、問題の受付嬢Aは、きっとミスをする。だから彼女には、特別休暇を与え、自宅に待機させた。


(ここまですれば、絶対に大丈夫……なはず)


 大きな自信と僅かな不安を抱きながら、正面ロビーのライブ映像をジッと見つめる。


 その結果、


「ではこれから、闘技場の一般観覧席へ移動します。はぐれることのないよう、先生に付いて来てください」


 馬カスが教師のようなことを言うと、レドリック魔法学校+帝国魔法学院の面々は、大人しく指示に従った。


 アレンは選手に登録されず、ただの観客(モブ)となったのだ。


(ぃよしッ!)


 グッと拳を握り、会心のガッツポーズ。


(絶対に大丈夫だと思っていたけど、自分の策が上手くいくのは、やっぱり嬉しいね)


 それからほどなくして、賭けの受付が締め切られ、正面ロビーのお客たちは観覧席へ移動していく。


(さて、いよいよだ)


 いつもの仮面と漆黒のローブを(まと)ったボクは、支配人室(マスタールーム)の窓辺に立ち、眼下の闘技場を見下ろす。


「闘技場にお越しの皆々様、大変長らくお待たせいたしました! これより本日の大一番(おおいちばん)、『メインカード』の開幕ですッ!」


 実況解説の女性がお決まりの台詞を、『イベントテキスト』を口にすると、


「「「うぉおおおおおおおおおおおお……!」」」


 観客のボルテージが跳ね上がった。


「それでは早速、誇り高き二人の闘士に入場願いましょう!」


 次の瞬間、


「まずは東門っ! 帝国闘技場が誇る、最強の女魔剣士! 『絶対王者』イリス・エルフェリアアアアアアアアアッ!」


 東の白い門がゆっくりと開き、美しい銀髪のエルフが現れた。


今春(こんしゅん)突如として現れた彼女は、なんとこれまで99戦99勝! このカードでも勝利を収め、記念すべき100勝目を飾れるかぁ!?」


 実況解説がイリスの紹介をすれば、


「イリスー、今日も頼むぞーっ!」


「いつもみたく、一撃で終わらせてくれぇ!」


「お前に100万も賭けたんだ! 負けたら承知しねぇからなァ!」


 観客席からたくさんの声援が飛んだ。


「続いて西門っ! 世界中を騒がす、裏組織(うらそしき)首領(ドン)! 『謎の挑戦者V』改め――『(うつろ)の統治者』ボイドォオオオオオオオオッ!」


 西の青い門が開かれるタイミングで、


(よし、行くか)


<虚空渡り>を使い、舞台の中央へ飛んだ。


「今回突如として出場の決まった彼は、あの(・・)『厄災』ゼノと同じ滅びの力、<虚空>を(つかさど)る闇の帝王! とんでもない大物が、殴り込みを掛けてきました!」


 実況解説がボイドの紹介を述べると、観客席に大きなざわめきが起こった。


「おいおい、ボイドって……マジもんか!?」


「大魔教団を狩って回る、戦闘狂共のトップだ……っ」


「鬼のように強いうえ、情け容赦の欠片もねぇらしい」


「でもよぉー、民間人には手を出さねぇって話だぜ?」


巨獣(きょじゅう)の軍勢から、リーザス村を救ってくれたんだってな!」


「俺の息子、銀影(ぎんえい)騎士団なんだけどさ。ここだけの話、ボイドと陛下は親友(マブ)みてぇだぞ?」


「きゃぁー! ボイド様、こっち向いてーっ!」


 凄まじい歓声が響く中、ボクはそれとなく周囲を見回す。


(……原作通り、みん(・・)な揃(・・)って(・・)いる(・・)()


 特別観覧席に座る、皇帝ルイン。


(な、何故、ここにボイドが……!?)


 銀影騎士団団長ダンケルと副団長のディル。


(自信と気品に満ちた威容(いよう)……間違いない、ボイド殿だ)


(虚の統治者が、なんの用だろうか?)


 皇護騎士ロイヤル・ガーディアン断剣(だんけん)のロディ・剛槍(ごうそう)のギオルグ・人形遣いのマーズ・叡智(えいち)のジェノン。


(相変わらず、(おぞ)ましい魔力をしている……)


(あの野郎、こんな目立つ場所で何をするつもりだ?)


(……ボイド、怖い……っ)


(陛下だけはお守りせねば)


 最前列には帝国の有力者、大貴族エドゥアル公爵・女帝ミランダ辺境伯・赤ちゃんプレイのゲール。


(あれが噂に聞く、虚の統治者か)


(あまり強そうには見えませんね)


(確か今日は、『夏物の新作(おしゃぶり)』の発売日だったな……)


 闘技場の観客席には、第五章のネームドキャラたちが、まるで示し合わせたかのように集まっていた。

 これは偶然ではなく必然、システム的に決められた状況、たとえどんな分岐(ルート)に進もうとも同じ結果になる。


(ボクの嫌いな『例のアレ』、主人公のご都合主義だね)


 そもそもこの第五章は、『アレン・フォルティスを世界にお披露目する回』、となっている。


(メインルートにおけるアレンは、闘技場でイリスに勝った後、色欲の魔女リゼと連戦を行い……激闘の末に敗北。彼の見事な戦いぶりは、観客たちの心を打ち、万雷(ばんらい)の拍手が送られる)


 結果、アレン・フォルティスの名は世界中に広まり、第六章以降の極めて厄介な展開に繋がってしまう――というわけだ。


(でも、そうはさせないよ!)


 ボクは闘技場の経営者、支配人の力をフルに使って、ボイドVSイリスの状況を作った。


(アレンのためにデザインされたこの舞台を、主人公に向けられるはずだった注目を奪い、ホロウルートの攻略に利用する! ふふっ、我ながら素晴らしい計画だね!)


 そんなことを考えていると、ニアとエリザの姿が目に入った。


(ど、どうしてホロウが闘技場にいるの!? しかも、ボイドの姿で……っ)


(ホロウは決して無駄なことをしない。十中八九、何か企んでいるな……ッ)


 二人が瞳を揺らす横で、馬カスが小刻みに震えていた。


(嘘、こんなこと、あり得ない……っ。なんでよりにもよって、ホロウ様が挑戦者なの!? 私、闘技場の絶対王者に――イリ(・・)スさ(・・)んの(・・)勝利(・・)に全(・・)財産(・・)30(・・)0万(・・)()賭け(・・)たの(・・)()……ッ)


 彼女は顔面蒼白で、『絶望のどん底』に沈んでいる。


(これは多分、イリスに賭けたっぽいな)


 でもまぁ、さすがに生活資金ぐらいは残している……よね?

【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】

「面白いかも!」

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「執筆、頑張れ!」

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ランキングが上がれば、作者の執筆意欲も上がります。

おそらく皆様が思う数千倍、めちゃくちゃに跳ね上がります!

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― 新着の感想 ―
取り敢えず、馬カスは内臓を売ろうか。天才学者の臓器だ、さぞ高く売れるだろう。
俺達の馬カスが生活資金なんか気にしてるわけないんだよなぁ
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