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世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~  作者: 月島 秀一
第五章

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第十八話:因果応報

 ――高級Barバッカスで発生したサブイベント。

 ボクは右手でグラスを弄びながら、その騒動をこっそりと横目に観察する。


「リットさん……『借りた金を返す』ってのは、極々当たり前のことだよなぁ゛?」


「は、はい、モレーノ様の仰る通りです。しかし、もう『元金(がんきん)』は返済して――」


「――馬鹿野郎、世の中には『金利』ってもんがあんだよ! うちは『十日で一割(トイチ)』でやってんだ! 300万借りて300万返して、それで終わりなわけねぇだろ!?」


「御言葉ですが、既に支払総額は500万を超えております。それに何より、そちらが一方的に契約内容を変えたんじゃないですか!」


「うるせぇ! 男の癖にぐだぐだ言ってんじゃねぇよ!」


 性質(たち)の悪い中堅貴族モレーノ、そこから金を借りてしまった弱小貴族リット、だったかな?

 ロンゾルキアの世界なら、どこにでもある悲しい話だね。


「とにかく、明日の夜までに100万持って来い。それで全部チャラにしてやらぁ」


「そんな……前回『これが最後だ』と仰ったから、50万お渡ししたんですよ!?」


「だから、これが本当の本当に最後だって……んっ?」


 モレーノはその欲深い目を光らせ、


「おいおい、『イイモン』付けてんじゃねぇか!」


 リットの首元から、ネックレスを()ぎ取った。


「チェーンは安物だが、ペンダントは銀製だな! へへっ、こいつはそれなりに値が付くぞ!」


「お、お願いします。それだけは返してください。戦死した息子の形見(かたみ)なんです……っ」


 リットは必死に(すが)り付き、


「んなこと知るか、よッ!」


 モレーノはそれを痛烈に蹴飛ばした。

 なんともまぁ胸糞悪い、典型的な『悪役キャラ』だね。


「ちょっと、あなたねぇ!」


 善性(ぜんせい)の高いニアが、我慢ならずに立ち上がったので、ボクはそれを制するようにオーダーを出す。


「――マスター、あちらの男性が酷く酔っておられる。水を一杯、頼めるか?」


「かしこまりました」


 彼はチェイサーの水を持ち、


「失礼します」


「あ゛……ぶほっ!?」


 モレーノの顔面にぶちまけた。

 さすが、よくわかっているね。


「……おぃ゛、バーテン風情(ふぜい)が調子に乗ってんじゃねぇぞ?」


「あちらのお客様からのサービスでございます」


 マスターの言葉を受け、モレーノがこちらへ詰め寄ってくる。


「おいガキ……どこの馬の骨か知らねぇが、舐めた真似してくれんじゃねぇか。この俺をモレーノ伯爵と知っての狼藉(ろうぜき)か?」


「有り金を置いて、十秒以内に()せろ。そうすれば、命だけは見逃してやる」


「んだとてめぇごらぁッ!」


 激昂(げきこう)したモレーノは、ボクの胸倉を掴んだ。


「ちょっ、何をしているの!? 殺さ(・・)れる(・・)わよ(・・)ッ!?」


 ニアが真っ青になる中、


「ここは酒の席だ。荒事(あらごと)はやめて、『呑み比べ』と行こう」


 ボクはそう言いながら、モレーノの後頭部を掴み――カウンターの酒瓶(さかびん)に叩き付けた。


「ぁ、ば……っ」


「おや、一杯で潰れるとは存外に弱いな」


 白目を剥いた彼を後ろにポイと投げ捨て、グラスに残ったロンゾ・グレイを喉に流し込む。


「「「……っ」」」


 店内はシンと静まり返り、


「うわぁ、痛そう……っ」


 ニアはサッと目を(そむ)ける。


「マスター、すまないな。店を汚してしまった」


「いえ、どうかお気になさらず。むしろお礼を申し上げたいぐらいです」


「ふっ、そうか。これは清掃代だ、受け取ってくれ」


 ボクはそう言いながら、バーカウンターに白金貨(はっきんか)を三枚置く。

 ちょうど三百万ゴルドだね。


「これは……少々高額に過ぎるかと」


「余った分は、ここにいる客の酒代に当ててくれ。彼らの(いこ)いの時間を邪魔してしまったのでな」


「かしこまりました」


 後処理をサクッと済ませたところで、足元に転がる銀のネックレスを取り、弱小貴族のリットに渡す。


「大切なモノなんだろう? 二度と奪われぬよう、しっかり持っておくんだな」


「は、はい! どなたか存じませんが、本当にありがとうございます……っ」


 無事に一件落着かと思われたそのとき、


「はぁ、はぁ……もう許さねぇ、ぶっ殺してやる……っ」


 意識を取り戻したモレーノが、幽鬼のようにユラリと立ち上がった。

 血走った目でこちらを睨み付け、果物ナイフを右手に握っている。


(おっ、けっこうタフだね。もう一杯呑ませてあげようかな)


 ボクがそんなことを考えていると――店の扉がギィと開かれ、帝国の憲兵がぞろぞろと入ってきた。


「おい見ろ、あの制服……。ただの憲兵じゃねぇ、陛下直属の『銀影(ぎんえい)騎士団』だ!」


「な、なんでこんなところに……!?」


「んなもん、俺が知るかよ……っ」


 バッカスが騒然となる中、帝国の憲兵たちは、ボクの前で綺麗に整列――先頭に立つリーダー格の凛々(りり)しい男が、慇懃(いんぎん)に頭を下げた。


「はじめましてホロウ様、銀影(ぎんえい)騎士団のディルと申します。遠路はるばる足を運んでいただき、感謝の言葉もございません」


「うむ」


「外に馬車を付けております。さっ、どうぞこちらへ」


「行くぞ、ニア」


「あっ、うん」


 ボクはパートナーを連れて、店から出ようとし――入り口でピタリと足を止めた。


「あぁ、そうだ。そこのモレーノという男が、帝国の『出資法(しゅっしほう)』に反しているようでな。ついでにしょっ()いてもらえないか?」


「モレーノ……?」


 ディルは店内をザッと見回した後、すぐに謝罪の言葉を述べる。


「御不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません。この責は、我が命を持って――」


 彼はレイピアを引き抜き、自分の首に添える。


「――よい、酒の席だ。そういうこともあるだろう」


「お心遣い、感謝いたします」


 長物(ながもの)(さや)に納めた彼は、再び頭を下げ――鋭く瞳を尖らせる。


「モレーノ伯爵。貴殿の悪い噂は、こちらの耳にも届いております」


「え゛っ!? いや、その……。それよりも、あいつはいったい……?」


「ホロウ様は、皇帝陛下が直々にお招きになられた『国賓(こくひん)』。あなたのような愚物が、関わってよい存在では断じてありません」


「ほ、ホロウって……まさかあの『極悪貴族』ホロウ・フォン・ハイゼンベルク!?」


「よくも大切な客人の前で、恥を()かせてくれましたね……。帝国の――陛下の顔に泥を塗る行い、許してはおけません」


 ディルの瞳が尖ると同時、憲兵たちが迅速に動き出し、モレーノを乱暴に組み伏せた。


「や、やめろ! 俺は何もしてねぇ! これは誤解だ!」


 彼は必死に弁明するが、その言葉に耳を貸す者はいない。


「モレーノ伯爵、陛下の沙汰(さた)を楽しみにしておいてください」


「そん、な……っ」


 皇帝の不興を買ったが最後、この帝国では生きていけない。

 残念だけど、モレーノはもう終わりだ。


「あぁ、認める! 俺が悪かった! だから頼む、陛下の沙汰だけは勘弁してくれ……っ」


 必死の懇願(こんがん)(むな)しく、彼は憲兵たちに連行された。


(まぁ……『因果応報』だね)


 帝国の伯爵であれば、何不自由のない生活を送れるだろうに……。

 欲を()いて弱者を食い物にするから、こういう『しっぺ返し』を食らうのだ。


 無事に一件落着となったところで、周囲がにわかに騒がしくなる。


「あれが極悪貴族の新当主、ホロウ・フォン・ハイゼンベルクか……凄まじいな」


「圧倒的な武力に慈悲深き心、あの家は今後さらにデカくなるぞ」


「皇帝陛下が、国賓としてお招きなされるとは……なんとか関係を持てないものか」


 この場に居合わせた客たちが、ボクのことを噂しているっぽい。


(ふふっ、イイね!)


 舞踏会までの時間潰しに可哀想な貴族を助けるだけで、ホロウ・フォン・ハイゼンベルクの名前を売ることができた。


(やっぱりこのサブイベントは、かなりおいしいぞ!)


 こういう隙間時間を上手く活用できると、なんだかとっても得した気分になる。


 ボクは機嫌よく豪華な客車に乗り込み、ニアもその後に続いた。


「では、出発いたします」


 仕切り窓()しに御者が言うと、馬が静かに走り出した。


 舞踏会への道中、


「ふふっ」


 突然ニアが嬉しそうに微笑んだ。


「何を笑っている?」


「やっぱりホロウは優しいなって」


「さっきのことなら――」


「――『俺の気分を害したから』、でしょ?」


「……その通りだ」


 どうやら思考を読まれたらしい。

 ニアとは、なんだかんだで長い付き合いだから、こういうこともあるだろう。


「私、ホロウのそういうところ大好きよ」


「はっ、勝手に()いておけ」


「うん、勝手に好きになっておくね」


 今日の彼女は、いつもよりちょっと手強(てごわ)かった。


(でも、なんでだろう……不思議と悪い気はしないな)


 どうやらボクは、ニアに少しずつ気を許し始めているらしい。


 ただまぁ……今はメインルートの攻略に集中するべきだ。


(さて、いよいよ『魔女の舞踏会』が始まるね!)


 ボクと皇帝は、そこで初顔合(はつかおあ)わせとなる。

 あまり長々とは話せないだろうから、短い時間で『強烈なインパクト』を与えたい。


(ボクの作った『最強の攻略チャート』を進めるためにも、ホロウ・フォン・ハイゼンベルクをしっかりと印象付けなくちゃね!)


 そのための策は、既に練ってある。


これ(・・)が上手く行けば……魔女の舞踏会の死亡フラグをへし折りつつ、皇帝に凄まじいストレスを植え付けられるぞ!)


 ふふっ、楽しみだなぁ!

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― 新着の感想 ―
やっぱ、ニアの立場的にもこういう場は最適よなぁ。 良いヒロイン
皇帝ハゲそうで草
スカッとするねぇ
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