第八話:完璧な二段階認証
ボイドの衣装を纏ったボクは、帝国担当の五獄へ<交信>を飛ばす。
(――アクア、今ちょっといいかな?)
(はい、もちろんです!)
(今から犯罪結社ウロボロスを襲撃するんだけどさ。もしよかったら、一緒に行かない?)
(よ、よろしいのですか!?)
(うん、最近ちょっと会えてないしね)
(ありがとうございます! 是非ご一緒させてください!)
ボクが<虚空渡り>を使うと同時、
「――ボイド様ーっ!」
黒い渦からアクアが飛び出し、
「おっと」
ぎゅーっと抱き着いてきた。
「んー、ふふっ……生ボイド様だぁ……」
ボクの胸の中で、恍惚な表情を浮かべている彼女こそ、五獄の第三席にして諜報部門の長アクアだ。
外見年齢は14歳、身長150センチ、青い髪のミディアムヘア。
アクアマリンのような瞳・白く透明な瑞々しい肌・なんとも豊かで大きな胸、背こそ低いが足は長く、抜群のプロポーションを誇る。
五獄専用の黒い制服に身を包む彼女は、人間とスライムの混血であり、両種族の特性を併せ持つ存在だ。
「久しぶりだねアクア、元気にしてた?」
「はいっ、毎日モリモリ食べてます!」
アクアは五獄の中で、一番元気のいい子だ。
彼女と話しているだけで、明るい気分になってくる。
「ボイド様が帝国へいらしたということは……ついに『皇帝』を殺すんですね!」
「んっ?」
「あのゴミは愚かにも、ボイド様へ暗殺者を差し向けた大罪人……。ありとあらゆる苦痛を与えて、ドロッドロに溶かしてやりましょう!」
彼女は「シュッ! シュッ!」と口ずさみながら、『黒いスライムの触手』で作った拳を右・左・右と動かし、シャドーボクシングを披露する。
ちなみにアクアの触手攻撃は、多くの『状態異常』を引き起こす。
具体的には、猛毒・麻痺・睡眠・石化・凍結・狂気・腐敗などだ。
うちの『スケルトン製造機』――『金色のボロ雑巾』ことラグナが喰らえば、即死は免れないだろう。
(アクアって、昔からちょっと病んでるんだよなぁ……っ)
とてもいい子なんだけど、『ボイド』を神格化している節があり、ボクに歯向かうモノを決して許さないのだ。
(後はそう、五獄の中で最も知力が低い)
前にアクアへ「軽い警告として『帝国の城塞』を潰してもらえる?」とお願いしたところ、帝国最大の城塞都市レバンテを壊滅させてきた。
何を言っているのかわからないと思うけど、ボクも何が起きたのかわからなかった。
それ以来、アクアへ指示を出すときは、固有名詞を使うように心掛けている。
臣下の個性に合わせて、適切な指示を出すのもまた、優れた統治者の仕事というものだ。
(このままアクアを放置したら、きっとボクの皇帝は殺されてしまう……)
彼は第五章以降でも利用できる『息の長いアイテム』であり、『銀色のボロ雑巾』になるまで使い倒す予定だ。
こんなところで失うのは、あまりにも惜しい。
(とにかく、アクアを説得しなきゃだね)
ボクはコホンと咳払いをして、難しい言葉を使わないよう、努めて優しく話し掛ける。
「残念だけど、皇帝は殺さないよ。むしろ『お友達』になるつもりだ」
「ど、どうしてですか!?」
「いろいろと事情があってね。彼の『地位』と『立場』をフルに利用させてもらう。心配せずとも大丈夫だよ、最後にはとても面白いモノが見れるからさ」
「な、なるほど! つまり、『全てはボイド様の計画のうち』ということですね!?」
「ふふっ、そういうこと。だから、先走って皇帝を殺しちゃ駄目だよ?」
「はい、かしこまりました!」
「よし、いい子だ」
ボクが頭を撫ぜてあげると、
「えへへぇ……っ」
アクアは嬉しそうに目を細めた。
彼女は小さい頃から、こうして頭を撫でられるのが大好きなのだ。
(とりあえず、これで一安心だね)
皇帝がドロッドロに溶かされる未来は、無事に回避された。
「さて、今日の本題に入るんだけどさ。『犯罪結社ウロボロス』の調査レポート、ちょっと見せてもらえる?」
「はい、こちらにございます!」
アクアの背中から黒い触手が伸び、そこから分厚い紙束が排出された。
彼女はスライムの特性を持っており、体内に収めたモノを自由に出し入れできるのだ。
「ありがとう」
ボクはお礼を言いながら、調査レポートに目を通していく。
・ウロボロスは帝国の裏社会を牛耳る犯罪結社であり、暗殺部門・賭博部門・奴隷部門・麻薬部門・密輸部門、合計五つの部門から構成されている。
・組織の実権を握るのは暗殺部門の首領、彼は伝説級の固有魔法を使う要注意人物。
・ウロボロスに逆らったが最後、親兄弟はもちろんのこと、親族・友人・恋人に至るまで皆殺し。
・裏では皇帝と繋がっており、『公営の闇組織』と言える。
(――よかった、一緒だ)
犯罪結社ウロボロスの設定は、原作ロンゾルキアと同じ超巨大組織だった。
(でも、逆に楽だね!)
例えば王国では、大小様々な犯罪組織があちこちに点在している。
この場合、一つ一つを潰すのは簡単だけど、全て掃除するのはかなり大変だ。
(確かにウロボロスは強大だけど、彼らをプチッと潰すだけで、帝国の裏社会を支配することができる!)
そういう意味では、『タイパ』と『コスパ』に優れた『素晴らしい組織』と言えるだろう。
時間に追われる現代人にとって、とてもありがたい存在だね。
「さすがはアクア、よく調べられている」
レポートの出来を褒めると、
「ありがとうございますっ!」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
(さて……ウロボロスを構成する五つの犯罪部門。この中に一つ、どんな手を使っても、絶対に『確保』しなきゃいけないモノがある)
それは――『賭博部門』だ。
ウロボロスの賭博部門は、『闘技場』と『帝都競馬場』という、二つの超重要施設を運営している。
(闘技場は、ボクの作った『第五章の攻略チャート』で必ず通る場所だ)
全て予定通りにコトが進んだ場合、ここで『色欲の魔女』と戦うことになる。
最終決戦の舞台は、序盤のうちに押さえておきたい。
(そして帝都競馬場は言わずもがな)
この第五章から、馬カスの行動範囲が無駄に広がり、帝国まで足を延ばすようになる。
ボクが胴元の王都競馬場でなら、いくら負けたって構わない。
ちゃんと全額、手元に戻ってくるからね。
(ただ、帝都競馬場での負けは別だ……)
そこで溶かしたお金は全て、ウロボロスの懐に入る。
ハイゼンベルク家の資金が、外部へ流れてしまうのだ。
(これを防ぐためには、可及的速やかに賭博部門を支配し、夢の永久機関(帝国Ver)を作らなくちゃいけない!)
っというわけで、まずは賭博部門から落とす。
その後は、近いところから順番にプチプチっと潰して行けばいい。
(ウロボロスのトップ『暗殺部門』だけは、ちょっと面倒だけど……)
既に『策』を用意しているから、きっと問題ないだろう。
(裏社会の勢力図を一夜にして塗り替えたら、『色欲の魔女』は原作ホロウに興味を持つはずだ!)
彼女は飽き性で、退屈が大嫌い。
きっとこうしている今も、帝国全土に目を飛ばし、『愉悦』を探し求めていることだろう。
(ボクが帝国を侵略していくサマは、皇帝が慌てふためく様子は、必ず魔女の心に刺さるっ!)
表では『ハイゼンベルク公爵』として、裏では『虚の統治者ボイド』として、二つの世界でド派手な行動を取り、彼女を魅了していく。
そうして第五章の最終戦を『主人公VS色欲の魔女』から、『原作ホロウVS色欲の魔女』に書き換える――これがボクの計画だ。
「さてアクア、夜の散歩へ行こうか?」
「はい、喜んで!」
ボクは<虚空渡り>を使い、アクアと一緒に飛んだ。
「――ふむ、ここか」
「さすがはボイド様、完璧な精度ですね!」
転移先は、閑静な住宅街の一角。
既に夜も更けているため、人通りはまったくなく、シンと静まり返っている。
目の前の建物は――賭博部門の拠点とされる施設は、どこにでもある普通の民家だ。
(……ここで合ってる、よな?)
ちょっと不安になったので、地図を取り出して座標を確認していると――扉の奥から、男たちの話し声が聞こえてきた。
「なぁおい、聞いたか? 今日、『王国の死神』がうちに来たらしいぜ!」
「王国の死神って……あの『馬狂い』フィオナ・セーデルか!?」
「あぁ、熱心に馬場をチェックしていたそうだ」
「週末の『帝国杯』に狙いを合わせてんのかねぇ?」
「へっ、『いいカネヅル』が見つかったな!」
「あぁ、違ぇねぇや!」
あー……うん、ここだわ。
地図の座標と会話の内容から、『完璧な二段階認証』ができてしまった。
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