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世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~  作者: 月島 秀一
第四章

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第二十九話:さようなら

 天喰(そらぐい)との戦いは、熾烈(しれつ)を極めた。


「ぬぉおおおおおおおおおおお……!」


 ダフネスが<虚飾>の魔力を(まと)った拳で、超高速連打(ラッシュ)を叩き込み、


「「「「「獄炎(ヘル・フレイム)!」」」」」


「「「「「風の斬撃!」」」」」


「「「「「雷撃!」」」」」


 魔法士部隊が『数の利』を活かした、圧倒的な物量で攻め立て、


「ギィイイイイイイイイイイイイッ!」


 天喰が反撃として放った『呪いの重力弾(じゅうりょくだん)』は、


「『パターンオメガ』だ」


 ホロウの適確な指示により、


「「「「「――<風の防壁(ウィンド・ウォール)>!」」」」」


 完璧なタイミングで防がれた。


 王国軍が優勢に進める中――天喰(そらぐい)のエラが開き、大きな口から(よだれ)が落ちる。


(来た、『疲労モーション』だ)


 これより五秒間、天喰は攻撃・防御・回避のできない『不動状態』となる。


『主人公抹殺計画』を成し遂げる最大の好機を前にして、


「……っ」


 ホロウは躊躇(ちゅうちょ)した。


 脳裏を(よぎ)るのは、アレンとの記憶。


【ホロウ・フォン・ハイゼンベルク、キミに序列戦を申し込む】


【ねぇホロウくん、次の選択授業って同じ『魔法史A』だったよね? 一緒に行こうよ!】


【ホロウくんって、いつもお昼一人だよね? もしよかったら、一緒に食べてもいい?】


【ボクは――ホロウくんに憧れているんだ】


【ホロウくんは、ボクに初めてできた『大切な友達』だから】


 思い出が(かせ)となり、平時の無駄のない思考に迷いが生まれる。


 それは優しさを超えた甘さ、戦場における不純物。


 本人も気付いていない、デバフを除いた『唯一の弱点』。


(……ブレるな、やり通せ……っ)


 ホロウは自分の心に鞭を打ち、<交信(コール)>を飛ばした。


(――ルビー(・・・)撃て(・・)


(はっ)


 遥か彼方(かなた)に控える臣下が、超々遠距離から固有魔法を解き放つ。


「――<龍王の殲弾(ドラゴン・バレット)>」


 凝縮(ぎょうしゅく)された貫通性の紅焔(こうえん)が、天喰を側面から打ち抜いた。


「ヲォオオオオオオオオオオオオオオ……ッ!?」


 疲労モーション中に痛烈な一撃を受け、山のような巨体がグラリと揺れる。


 頭から()(さか)さまに落ちていく天喰(そらぐい)

 その真下には――アレンの所属する遊撃小隊。

 彼らは戦闘が始まってからずっと、この座標で静かに待機していた。

 無論、ホロウの指示を受けて。


「「「なっ!?」」」


 頭上より迫る天喰。

 突然の事故(イレギュラー)に対し、小隊の面々は呆然と空を見上げる。


 ホロウはその光景を見ながら、静かに思考を回した。


(……勇者因子の覚醒条件は二つ、『規定量の経験値』と『激しい情動の揺れ』)


 前者は既に満たされているため、問題となるのは後者だ。


(どんな種類の情動が引き金(トリガー)になるかは、『混沌(カオス)システム』の(はじ)き出した乱数によって決まり、ボクはもちろんのこと勇者本人でさえ知らない……)


 だが、ホロウはこれまでの環境要因から、ある程度の『絞り込み』に成功していた。


(アレンの鍵となる情動は――『負の感情』だ)


 主人公が初めて覚醒を遂げたのは、第三章の最終盤。

 ラグナの襲撃を受けて、絶体絶命の窮地に花開いた。


 ホロウはこの一件から、情動の引き金が負の感情だと(にら)む。

 そして彼には『原作知識』があり、勇者たちの『とある秘密』を知っていた。


(勇者因子は、何もすぐに覚醒するわけじゃない。『情動の起こり』・『情動のうねり』・『情動の発露(はつろ)』、所謂(いわゆる)『情動の三ステップ』が必要だ)


 前回の覚醒を見れば、この設定が生きていると判断できる。


 ①アレンは天使型召喚獣の攻撃を受けて、負の感情を抱くと同時に『覚醒の兆候』を見せた(情動の起こり)。

 ②その後、絶望的な状況が続き、負の感情が醸成(じょうせい)されていく(情動のうねり)。

 ③ラグナの放った最後の攻撃によって、勇者因子が覚醒(情動の発露)。


 ①②③と綺麗に三ステップを踏んでいるのだ。


 ここまでの情報を基に、ホロウは『主人公抹殺計画』を立てる。


(アレンを覚醒させずに(ほふ)る方法は――『情動の三ステップ』を踏ませないよう、『突発的な不慮の事故』で始末する、やはりこれだろう)


 自分が完璧な指揮を執り、天喰(そらぐい)との戦いを有利に進める。

 その間、アレンの遊撃小隊を安全地帯で待機させ、ありとあらゆる危険から遠ざけておく。

 ダフネスと魔法士部隊で削りを入れ、天喰が疲労モーションに入った瞬間、ルビーの固有魔法でその側面を超々遠距離射撃。

 何も知らないアレンのもとへ天喰を落とし、情動の三ステップを踏む間もなく、一瞬にして始末する。


 これが計画の全容(ぜんよう)だ。


 天喰の巨躯(きょく)が落ちる中、ホロウは小さく息を吐く。


(これで全てが終わる)


 悪役貴族と主人公の因縁が。

 遥か原初の時代より続く、厄災ゼノと初代勇者の戦いが。


(まぁ……嫌いじゃなかったよ。多分、友達だった。この世界でできた、初めての『親友』)


 ホロウは指揮官席から立ち上がり、天喰の落下ポイントを(なが)()ろす。


 本当は目を(そむ)けたかったけれど、それは無責任だと思った。

 自分が奪う命の最期は、きっちり見届けるべきだ、と。


(キミにはいろいろと困らされたけど……。なんかんだ言って、けっこう楽しかったよ)


 ホロウは目頭(めがしら)にギュッと力を込め、(にじ)む水滴を無理矢理に引っ込めた。


(……それ(・・)は駄目だ)


 極悪貴族として、原作ホロウの設定は遵守(じゅんしゅ)しなくちゃいけない。

 そうじゃなければ――自分の芯がブレては、主人公に申し訳が立たない。


(さようなら、アレン。この先の人生、ボクはキミの命を背負って――)


 ホロウが宿敵へ別れの言葉を贈ったそのとき、


「――はっ?」


『神聖な大魔力』が噴き上がる。


 煌々(こうこう)と輝くそれは――『勇者の覚醒』だ。


「……な、ぜ……?」


 口を()いたのは、純粋な疑問。


(あ、あり得ない……っ)


 確かに揺れたところはあった。

 そこは自分も認めるところだ。

 しかし、心を鬼にして、全ての道を潰した。

 勇者が生き残る可能性はゼロ、完璧な『主人公抹殺計画』を立てた――はず。


「――ありがとう、ホロウくん、ボクを(・・・)信じて(・・・)くれたん(・・・・)だよね(・・・)?」


 純粋無垢なアレンは、確信(ごかい)していた。


 この大舞台で、ホロウが自分に任せてくれたと。


 弱った天喰(そらぐい)に追撃を仕掛ける、そんな『大役』を(たく)してくれたのだと。


(その証拠に、『彼』は今も見てくれているっ! 真っ直ぐな眼でボクを――「お前ならばできるだろう?」と、熱い視線を送ってくれているッ!)


 友達からの期待が、たまらなく嬉しかった。

 その信頼になんとしても(こた)えねばと、強い使命感に駆られた。


(おいおいおい、『ご都合主義』も大概にしろよ!? 原作の設定は、『情動の三ステップ』はどうしたッ!? ボクの采配は完璧、ここまでの被害はゼロ! アレンが『負の感情』を抱くことはなかったはず! それなのに……いったい何が起きているんだ!?)


 アレンの鍵となる情動は――『憧憬(どうけい)』、最も強い『正の感情』だ。


 前回の覚醒、そのきっかけとなったのは、ラグナの脅威に晒されたことではない。

 原因はホロウ・フォン・ハイゼンベルク、彼が(・・)あまり(・・・)()優秀(・・)過ぎた(・・・)からだ(・・・)


 大量の召喚獣から全校生徒を守り、強力な結界の解除を指示して、ラグナ・ラインを圧倒する。

 その英雄然(えいゆうぜん)とした在り方に憧れ、打たれ、魅せられ――覚醒した。


 そして今回、ホロウが披露した天才的な采配の数々。

 これを安全地帯(とくとうせき)で見ていたアレンは、


【凄い……っ。やっぱりホロウくんは凄いや……!】


 (くる)おしいほどの憧憬(どうけい)を燃やし、その思いが『最高潮』へ達したのだ。


(今はまだ遠く及ばない。でもいつの日か、キミと肩を並べたい!)


 主人公は微笑み、


(ま、待て……やめろ、ふざけるなっ! こんなことがあっていいはずないだろうッ!?)


 悪役貴族が顔を引き()らせる中、


「ハァアアアアアアアアアアアア!」


 勇者の力を(みなぎ)らせたアレンは、『進化した固有』を解き放つ。


「――<物理反射(アタック・カウンター)>ッ!」


 刹那(せつな)、天喰の巨体が天高く跳ね上げられ、


(こ、の……クソ勇者がぁああああああああああああッ!)


 極悪貴族による魂の大絶叫が、ボイドタウン全域に轟いた。


物理反射(アタック・カウンター)>は、あらゆる物理現象を二倍に増幅して跳ね返す。

零相殺(ゼロ・カウンター)>・<魔法反射(マジック・カウンター)>に続く、勇者の固有魔法だ。


(ぐっ、やられた……っ)


 驚愕と憤怒に揺れるホロウだが――よくよく見れば、その顔に悔しさの色はない。

『主人公抹殺計画』が失敗したにもかかわらず、むしろ晴れやかな笑みを浮かべている。

 平時の無駄のない思考を取り戻した彼は、すぐさま最適な指示を出す。


「――全魔法士部隊に告ぐ、天喰へ向けて一斉掃射!」


 次の瞬間、大量の魔法が(ちゅう)(いろど)り、


「グォオオオオオオオオオオオオ……ッ」


 まるで地鳴りのような悲鳴が響いた。


「おいこれ、効いてるぞ……!」


「す、凄ぇ、完璧な作戦だ……っ」


「行ける……行けるぞ! ホロウ様の指示があれば、あの天喰(そらぐい)に勝てるッ!」


 王国軍が()()つ中、ホロウは決意を固める。


(勇者因子がさらなる覚醒を遂げた今、アレンに余計な経験値を与えるわけにはいかない。プランCからFを破棄し――『最短最速』で天喰(そらぐい)を討つ!)

【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】

「面白いかも!」

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「執筆、頑張れ!」

ほんの少しでもそう思ってくれた方は、本作をランキング上位に押し上げるため、


・下のポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にする


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この二つを行い、本作を応援していただけないでしょうか?

ランキングが上がれば、作者の執筆意欲も上がります。

おそらく皆様が思う数千倍、めちゃくちゃに跳ね上がります!

ですので、どうか何卒よろしくお願いいたします。


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カクヨム版:世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する



― 新着の感想 ―
こんな面白い作品にブックマークと★5個付けていない奴なんていないから安心して作者さん
ホロウへの憧憬で覚醒なら、そのホロウを殺せって勇者因子からの命令に背けてしまう可能性があるのでは…?
これはもう気づけないのでは? 憧憬で覚醒はわからんてw ホロウブレインならやってくれるのか!?
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