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世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~  作者: 月島 秀一
第一章

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第十二話:ガルザック地下監獄

 クライン王国には現在、『大魔教団』という国際犯罪組織の一派が潜伏している。

 彼らは魔法省の内通者(うらぎりもの)を通じて、魔法目録(アルカナ)の情報を閲覧し、希少な因子を持つ魔法士たちを(さら)っていた。


(原作ホロウも、いくつかのルートで大魔教団に拉致され、『虚空摘出End』に入ってしまう……)


 ボクはそれを避けるため、フィオナさんに根回しして、自分の固有魔法を<虚空>ではなく<屈折>と申請したのだ。


 閑話休題。


 大魔教団クライン王国支部の面々は今夜、『ガルザック地下監獄』を襲撃し、そこに安置された『魔王の因子』を強奪する。


(別に放っておいても、すぐにどうこうなるものじゃないけど……)


 大魔教団はメインルートにおける大ボスの一つ。

 彼らが力を付け過ぎると厄介だし、先々のことも考えて、ちょっと『削り』を入れておきたい。


 っというわけで、やってきましたガルザック地下監獄。

 ここはクライン王国の中でも、特にセキュリティが固く、一般人は近付くことさえ許されない。


 しかし、そこは四大貴族ハイゼンベルク家。


「ホロウ様ですね? ハイゼンベルク(きょう)より、お話は(うかが)っております、どうぞこちらへ」


「うむ」


 パパンの(つる)の一声で、すんなりと入れてもらえた。


 特別来賓室に通されたボクには、護衛として五人の看守が付いている。


「ホロウ様、紅茶が入りました」


「ホロウ様、お茶菓子をどうぞ」


「ホロウ様、マッサージなどはいかがでしょう?」


 看守の方々はとても優しくしてくれたんだけど……わかる、わかるよ。


 絶対にボク、邪魔だよね?

 間違いなく、面倒くさいよね?

 こんなクソガキに社会科見学よろしく来られても、ただただ鬱陶しいだけだよね?


 その気持ちはわかる、とてもよくわかる。

 本当に申し訳ないんだけど、後少しだけ我慢してほしい。


 もうすぐ事件が起こるからさ。


 ボクは壁掛け時計に目を向け、心の中でカウントダウンを始める。


(五……四……三……二……一……)


 零。

 イベントの開始時間きっちりに大爆発が起こった。

 監獄全体が大きく揺れ、<警告(アラーム)>の魔法が作動。

 けたたましい音が鳴り響く中、特別来賓室の外から、慌ただしい声が聞こえてくる。


「な、何が起こった……!?」


「北部ゲートより侵入者! おそらく巷を騒がせている大魔教団かと!」


「あの卑しい盗人どもめ……っ。奴等の目的は間違いなく、『地下のアレ』だ! 迎え撃つぞ、付いて来い!」


 一方、ボクに(あて)がわれた看守たちは、


「ど、どうする? 俺達も迎撃に行くべきじゃないか?」


「いやしかし、ホロウ様をお守りしなくては……っ」


 このまま護衛を続けるべきか、それとも迎撃に向かうべきか――二つの間で悩んでいるようだ。

 ここは一つ、彼らの背中を押してあげるとしよう。


「俺のことはよい、己が職責を果たせ」


「しかし、それではホロウ様が……っ」


「案ずるな、自分の身ぐらい自分で守れる。それとも何だ、ハイゼンベルクの次期当主は、卑しい盗人にやられそうなほど、頼りなく見えると言いたいのか?」


「め、滅相もございません! ――おい、行くぞ!」


 護衛の看守たちは、暴徒鎮圧へ向かった。


(よし、これで自由に動けるな)


 露払い完了。

 早速、行動を開始しよう。


 今回の目的は二つ。

 魔王の因子を処分すること。

 そして――虚空の実戦データを取ること。


「えーっと、どれどれ……」


 ふかふかのソファから立ち上がったボクは、右手を顎に添えながら、壁面に張られた監獄の見取り図を眺める。

 今いる特別来賓室(ここ)は、最上層の管理エリア。

 上層の尋問エリア・中層の処刑エリア・下層の懲罰エリア・最下層の牢獄エリア、物騒な名前が並ぶ中、最下層に僅かな違和感を覚える。


 この見取り図……明らかにおかしい。

 最下層の牢獄エリア、その奥にぽっかりと不自然な空間が空いている。


(なるほど、あそこか)


 ボクは座標を記憶し、<虚空渡り>を発動。

 あらゆる障害物を排して、目的地まで一気に飛ぶ。


(うん、当たりだ)


 転移先には――本来何もないはずのエリアには、巨大な空間が広がっており、実験施設と思しき不気味な建物があった。

 そびえ立つ分厚い鉄扉の奥からは、苦しそうな(うめ)き声が聞こえてくる。


「よしよし、まだ奪われていないね」


 大魔教団に先んじることができた。

 これでもう『魔王の因子』は、確保したも同然だ。


(後は虚空の実戦データを――っと、来た来た)


 背後の壁がド派手に弾け飛び、襲撃者たちがやってくる。

 濃紺のフロックコート……あの衣装は間違いない、大魔教団だ。

 パッと見たところ二十人弱、ちょうどいい数だね。


 ボクの存在に気付いた彼らは、その場でピタリと足を止め、


「貴様、何者だ……? ガキがこんなところで何をしている?」


 一団を率いる男が、訝し気な視線を向けてきた。

 それと同時、彼の背後に控える男たちが、攻撃性の魔法を次々に放つ。


「<火炎(フレイム)>!」


「<雷撃(ライトニング)>!」


「<吹雪(ブリザード)>!」


 炎・雷・氷、多種多様な魔法はしかし、ボクに当たる寸前で、虚空に呑まれて消滅した。


「なん、だと……!?」


「いったい何が起きた!?」


「魔法が……消えた!?」


 敵さんは、わかりやすく動揺している。


(うん、<虚空憑依>は完璧だ)


 虚空憑依は、自身の周囲に薄い虚空の膜を張り、通過したモノを虚空界へ送る防御魔法。

 調整に調整を重ねた結果、現在はあらゆる攻撃を自動で判別し、危険なものだけを飛ばせるようになった。

 既に最適化も完了しており、おはようからおやすみまで、二十四時間ぶっ通しで運用中だ。


「まったく、部下の(しつけ)がなっていないな」 


 ボクはそう言いながら、右手をスッと前に伸ばす。


(まずは基礎の確認からだ)


 真紅の瞳に魔力を込めると、何もない空間に漆黒の渦が発生し、十人の教徒が虚空に呑まれた。


「「「なっ!?」」」


 大魔教団の面々が驚愕に目を見開く中、ボクは貴重な実戦データを解析する。


(同時に呑めるのは十か所まで、標的を増やすほどに精度は落ちる、か)


 うーん、練習ではMax十四か所までいけたんだけど……。

 やっぱり相手が動くから、座標の指定が難しいな。


 まぁでも十二歳の原作ホロウは、同時に三か所しか虚空を展開できず、精度もかなり甘かった。

 それと比較すれば、悪くない練度だろう。


「今のは……空間支配系の固有魔法!?」


「このガキ、舐めんじゃねぇ……!」


 集団から二人の黒服が飛び出し、ボクの両サイドから、挟み込むような形で襲ってくる。


(こっちの魔法特性を瞬時に理解し、すぐさま距離(つよみ)を潰しに来たか)


 空間支配系の固有魔法は、遠距離戦を得意とする反面、接近戦は滅法苦手だ。

 さすがは大魔教団と言うべきか、野良の盗賊団とは違い、ちゃんと戦い方を心得ている。


「おらぁ!」


「死ねぇ!」


 彼らは青龍刀を振りかぶり、力いっぱいにスイングする。


 しかし、


「ぇ、あ゛……!?」


「何、が……!?」


 二本の刀身はボクの胴体をすり抜け、お互いの胸部を斬り付け合った。

 致命傷を負った二人は、そのままバタリと倒れ伏す。


(よしよし、<虚空流し>は完璧だ)


 青龍刀がボクの体を捉える瞬間、胴体部分のみを虚空へ飛ばした。

 その結果、二本の剣は悪戯(いたずら)(ちゅう)を走り、お互いの胸部を斬り合った。

 虚空流しはめちゃくちゃ練習したので、絶対に大丈夫だとわかっていたけれど……実際この身に刃が迫るとヒュンとなった。

 ボクは紳士だから、()えて何がとは口にしないけど、巨大な龍と黄金の宝玉がヒュンと縮こまった。


 そうして雑魚を適当に間引いていると、


「ほぅ、中々面白い魔法を使うな」


 ボス格の男が一歩前に踏み出した。

 彼の名前は確か……イグヴァとか言ったっけかな? 

 あんまりはっきりとは覚えていない。


「私は大魔教団クライン王国南支部副長イグヴァ・ノーランド、とある崇高な目的のため――」


「――希少な魔法因子を集めている、だろう?」


 イグヴァの台詞を先取りしてやった。

 原作と全く同じだし、彼らの目的は知っているからね。


「……貴様、いったい何者だ?」


世界(シナリオ)に嫌われた悪役貴族だ」


「ふん、まともに答える気はないというわけか」


 不快気に鼻を鳴らしたイグヴァは、右手をスッと上に掲げる。


「ならば、力づくで吐かせてくれる! 食らえぃ、<水槍(ウォーター・ランス)>!」


 透明な水で作られた鋭い槍が、凄まじい速度で射出された。


 しかし、


「――<虚空返し>」


「……ぇ、は……?」


 ボクに向けて放たれた<水槍>は、イグヴァの背後から飛び出し、その胴体を深々と貫いた。

 鮮やかな血の華が咲き誇り、彼は前のめりに倒れ伏す。


「ふむ、悪くないな」


「……き、貴様、何を……した!?」


「おいおい、力づくで吐かせるのではなかったか?」


「ぐっ……」


 実際のところ、難しいことは何もしていない。


 ボクの正面に虚空A、イグヴァの背後に虚空Bを展開。

 勢いよく放たれた水の槍は、虚空Aを通って虚空Bから飛び出し――イグヴァの背中に突き刺さった。

 タネを明かせばなんてことはない、虚空の基本技能だ。


(絶対防御の<虚空憑依>は言わずもがな。透過の<虚空流し>も、反撃用の<虚空返し>もいい仕上がりだ。後は虚空の同時展開できる数を増やしつつ、基礎スペックの向上を図っていこう)


 ボクは実戦のフィードバックを反芻(はんすう)しつつ、大魔教団の面々に最低限の治療を施してあげる。


「さて、お前たちは(ホーム)へ帰ろうか」


 未だ意識の戻らぬ彼らを虚空界(ボイドタウン)へ送ってあげる。

 虚空の懐は深い。

 これで彼らも、ボクの家族だ。

 グラードの率いる盗賊団と力を合わせて、ボイドタウンの発展に尽くしてもらうとしよう。


(しかし、『面白いモノ』を手に入れたな)


 イグヴァは精鋭級(エリートクラス)の固有魔法、<水の加護ウォーター・ブレッシング>の使い手。

 水の魔法因子を取り込めたことで、ボイドタウンの水事情は大きく改善し、文明レベルが向上することだろう。


(因子の収集……これは『アリ』だ)


 大魔教団の真似事じゃないけど、ボイドタウンの発展にとても有益だ。

 コレクション要素としても面白いし、今後も希少な魔法因子を見つけたら、積極的に拉致――誘致するとしよう。


 当然その際、標的(ターゲット)にするのは重罪人のみだ。

 なんの罪もない人を(さら)っていたら、本当に大魔教団と同じになっちゃうからね。


 ボクがそんなことを考えていると、上階からカンカンカンと階段を駆け下りる音が聞こえてきた。

 おそらく武装した看守たちだろう。


(ここで見つかったら、ちょっと……いや、かなり面倒なことになる。『魔王の因子』は無事に確保できたし、どこか人目のないところへ場所を移した方がよさそうだね)


 クルリと(きびす)を返したボクは<虚空渡り>を展開し、不気味な実験施設を丸ごと、ハイゼンベルク家の所有するガラン山へ飛ばした。

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― 新着の感想 ―
虚空憑依の虚空とタウンの虚空は別世界なんだろうか。 もし同一ならたまに火炎だとか雷撃が空に飛び交う楽しいタウンになるね!(え?) あーーー。今戦ってんだなぁ。みたいな。
それにしても何で犯罪者ばかりを使ってシムシティやるんだろう(笑) どう考えてもまともな都市というか、治安が出来ると思えんのだが・・・
>(よし、これで自由に動けるな)  露払い完了。  早速、行動を開始しよう。  ◇ ◇ ◇  “露払い”の意味を間違えていません?
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