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世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~  作者: 月島 秀一
第四章

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第二十三話:ボクのおもちゃ

 ボクの発言によって、玉座の間は凍り付いた。

 その静寂を破ったのは、ゾルドラ家の二人だ。


「じゅ、『10万の武具』だと!? ふざけるな! でまかせも大概(たいがい)にしろ!!」


「陛下の御前(ごぜん)でくだらぬ妄言(もうげん)を……。天下のハイゼンベルクも落ちたものだな」


 ゾルディアとルイスは口を尖らせ、


「まぁ落ち着け、ひとまず話を聞こうではないか」


 バルタザールが冷静に場を(いさ)めた。


「ホロウよ、お主の口にした10万という数字は、儂の耳にも(いささ)か過大に聞こえる。何かそれを証明する(すべ)はないか?」


「そう(おっしゃ)られるかと思い、こちらも『証人』を呼んでおります」


「ほぅ、ではここへ呼ぶといい」


「いえ、それには及びません」


 ボクが視線を横へスライドさせると、髭モジャのドワーフが動き出した。

 ドワーフ族の(おさ)ドドンは、ゾルドラ陣営を離れ――ハイゼンベルク陣営に移る。


「ホロウ、お主これ(・・)を狙っておったのか……?」


「くくっ、中々に面白い『絵』が描けているだろう?」


「あぁ、悪くねぇ。ムカつくゾルドラに(あか)(ぱじ)()かせられる『最高の舞台』じゃぜ!」


 ボクとドドンは密談を交わし、お互いに悪い笑みを零した。


「さぁ、呑み比べで交わした『例の約束』を果たしてもらおうか」


「おぅ、任せろやっ!」


 ニッと武骨な笑みを浮かべた彼は、酒に焼けた声で高らかに言い放つ。


「ドワーフの族長ドドン=ゴ・ラムが保証しよう! ここにおるホロウは確かに『10万の武具』を所持しておる!」


「ほぅ、それは凄いな……!」


 国王が前のめりになって感心する一方、


「な、にぃ……っ」


「ば、馬鹿な……ッ」


 ゾルドラ陣営の二人は、驚愕に瞳を揺らした。

 とりわけドドンを抱き込んだ次期当主ルイスの衝撃は大きく、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。


「おいルイス、どうなっている!?」


「も、申し訳ございません父上……っ(何故、ホロウとドドンが繋がっている!? どうして私とドワーフの関係がバレた!? 醜い亜人共が<契約(コントラ)>を破り、ハイゼンベルクに助けを求めたのか? ……いや、あり得ない。そんなことをすれば、『契約神』の裁きを受けるはず。そもそもの話、10万というふざけた物量は、いったいどこから湧いて出た? わからない、何もわからない、()はどんな魔法を使ったのだ!?)」


 ゾルドラ家に大きな動揺が走る中、


(ふふっ、どんどん(・・・・)行こうか(・・・・)!)


 ボクは攻撃の手を(ゆる)めることなく、自分の首襟(くびえり)に右手を添え、『合図』を飛ばした。


 すると次の瞬間、背後から大きな声が響く。


「いやはや、さすがはハイゼンベルク家だっ! まさかこれほどの武具を用意しているとは……やはり『真の大貴族』は、日頃の備えからして違いますなぁッ!」


 突如として騒ぎ出した男は、グレイグ・トーマス。

 ボクが殊更(ことさら)に目を掛けているトーマス家の当主だ。

 彼は大袈裟な身振り手振りを以って、当家のことを全力で褒め千切(ちぎ)った。


(よしよし、偉いぞトーマス(きょう)! ちゃんとボクの合図を見ていたね、後でまた御褒美をあげよう)


 王城に出向く直前、彼には『旗振り役』の任を与えた。


【今日の会議中に一度だけ、首襟(くびえり)に右手を添える。その合図を以って、ハイゼンベルク家を褒め称えろ】


【はっ、この命に代えても!】


 ()えない見た目をしているが、トーマス卿はけっこう優秀だ。

 目立った能力こそないものの、指示されたことを完璧にこなす。


(前から思っていたけど……彼、けっこう使えるな。今後も活用できる場面があるかも)


 ボクが手駒の能力に感心していると、玉座の間に大きな『ウネリ』が生まれた。


「さすがは次期当主ホロウ様だ!」


「お父上に似て、聡明であらせられる!」


「王国の未来を託せるのは、ハイゼンベルク家の他にないでしょう!」


『ハイゼンベルク派閥』の貴族たちが、当家を()めそやし、


「それに比べて、ゾルドラ家と来たら……」


「ふふふっ、あれだけ偉そうなことを言っておきながら、結局これ(・・)ですか」


「同じ四大貴族でも、ここまでの差があるとは……。なんとも残酷なものですなぁ!」


 ゾルドラ家のことを嘲笑(あざわら)った。


「こ、こやつら……っ」


「黙っておれば、調子に乗りおって……ッ」


 ゾルディアとルイスは激しい憤怒に震え、


「「「……っ」」」


 さっきまでうちを馬鹿にしていたゾルドラ派閥の貴族たちは、苦虫を噛み潰したような顔で黙っている。


 まさに『因果応報』。

 ハイゼンベルク家に(おこな)った嫌がらせが、そっくりそのまま返って来たのだ。


(くくっ、残念だったねぇ?)


 うちを(おとしい)れようとしたって無理だよ。


(何せこっちには、『原作知識』があるんだ!)


 キミたちの薄汚い企みは、文字通り『筒抜け』。

 どのように(かわ)せばいいのか、逆にどうやって利用できるのか、完璧な答えを用意できる。

『ホロウ(ブレイン)』×『知識チート』の組み合わせは、『最強』なんだ!


「現状、ハイゼンベルク13万に対して、ゾルドラは5万……これは勝負あったかのぅ」


 バルタザールの呟きを受け、ゾルドラ陣営が大きく揺らぐ。


「お、お待ちください陛下! このホロウは、実に悪名高き男! 本当に10万もの武具を持っているのか、(はなは)だ疑わしい!」


「そもそもドワーフ(・・・・)()醜い(・・)亜人(・・)! こんな不浄の存在(・・・・・)の証言に、なんの価値もありません!」


 二人は必死だった。


(まぁ、無理もないか)


 何せゾルドラ家の計画は、①ハイゼンベルクの格を下げ、指揮官の座を奪い取り②天喰討伐という(きら)びやかな武功をあげ③来たる王選(おうせん)(はず)みを付ける、というモノだからね。

 それがまさか指揮官にもなれず、無様な醜態を晒すだなんて、夢にも思っていなかったのだろう。


(しかし、『ドワーフは醜い亜人』で『不浄の存在』、か)


 こんな芸術点の高い『自爆』は、そうそう見られるものじゃない。


「……くくっ」


 ボクが思わず笑みを零すと、


「貴様、何が可笑(おか)しい!?」


「陛下の御前で、何を笑っている!」


 ゾルディアとルイスが噛み付いて来た。


「これはこれは、大変失礼いたしました。まさか自らの呼び付けた証人(ドドン)(おとし)めるとは、夢にも思わなかったものでしてね。ふふっ、『愉快な寸劇』でも見せられているのかと……」


 原作ホロウお得意の『謝罪風(しゃざいふう)(あお)り』が炸裂し、


「「……っ」」


 ゾルドラ家は羞恥(しゅうち)に顔を染め、そこかしこから失笑が漏れた。


(このガキがホロウ・フォン・ハイゼンベルク、『怠惰傲慢な極悪貴族』と聞いていたが、こいつは人としての根っこが腐っておる……っ)


(ペラペラペラペラと、まるで口から生まれてきたかのような男だ……っ。この下種(げす)と言い争っても旗色が悪い……ッ)


「陛下! (いくさ)というのは、武具の多寡(たか)で決まるものではありませぬ!」


「優秀な指揮官に求められる資質、それは――『統率力』! 我等ゾルドラ家の最も強みとするところです!」


 二人は口を揃えて、必死に自分達を売り込んだ。


(あぁ、それ(・・)をやっちゃもう終わりだね)


 ボクは飛び切り邪悪な笑みを浮かべ――『トドメ』を刺す。


「おやおや、往生際が悪いですよ、ゾルドラ(きょう)? 陛下は指揮官を決める基準として、『武具を奉じた量』と定めたのです。……わかるか? お前たちは負けたんだよ」


「「……ぐっ……」」


 二人は奥歯を噛み締め、両の拳を固く握り、憎悪に満ちた目を向ける。


(……き、気持ちいぃ……っ)


 原作ホロウの『悪性』が――『黒い愉悦(ゆえつ)』が()()なく溢れ出す。


 しかし、なんとか必死に抑えた。

 ここは国王の御前(ごぜん)、いつもみたく煽り倒すわけにはいかない。


「……ふむ……」


 短い沈黙を経て、陛下が沙汰(さた)を下す。


「――此度(こたび)天喰(そらぐい)討伐戦、指揮官はハイゼンベルク家に一任する」


「あ、ありがとうございますっ!」


 父が会心の笑みを浮かべ、グッと拳を握る中、


「ホロウ、貴様のことは決して忘れんぞ……っ」


「この場は失礼させていただく……ッ」


 ゾルディアとルイスは、ギッとこちらを睨み付け、玉座の間を後にした。


(あっ、ボクの玩具(おもちゃ)……っ)


 胸の奥がキュッと締め付けられる思いだ。


(本当はもっとたくさん(あお)りたかったけど……仕方ないか)


 ゾルドラ家がここに残っても、空気が悪くなるだけだからね。

 バルタザールもそれを理解しているのか、無作法(ぶさほう)な退出を(とが)めなかった。


(今回はちょっと(・・・・)した(・・)顔合(・・)わせ(・・)、『お楽しみ』は次の機会に取っておこう)


 ゾルドラ家と決着を付けるのは、もうちょっと先の話だからね。


 その後、天喰(そらぐい)討伐会議は白熱した。

 父とバルタザールを中心にして、王国騎士団長・宮廷魔法長・軍事参謀長(さんぼうちょう)などの重役たちが集まり、王国軍の動員可能な総数・剣士や魔法士などの職業割合・天喰(そらぐい)の詳細な予想進路・最適な迎撃ポイントなど、いろいろな事項について話し合われる。


 そして最後に――『天才軍師』へ<交信(コール)>を飛ばし、明日の正午、王城で対談することが決まった。

 こいつ(・・・)はかなりの『曲者』だから、ボクもその場に同席するつもりだ。


「――さて、今日はこの辺りにしようかのぅ」


 時刻は深夜零時、バルタザールの言葉を以って、第一回天喰討伐会議は終了した。


(あぁ、お腹空いたな……)


 ボクはそんなことを思いながら、父の後に続いて馬車に乗り込む。


「……」


「……」


 行きと同様、帰りも無言だ。


 しかし、息苦しさはない。


 ボクはダフネス・フォン・ハイゼンベルクをよく知っているからね。


(父はロンゾルキアで、『最も不器用な男』だ)


 さっきからしきりに足を組み替えたり、意味もなく咳払いをしたり、頭をガシガシと(かい)いたり、なんとも落ち着きがない様子。

 探しているのだ、ボクとの会話の糸口を。

 (ねぎら)いの言葉でも掛けようとしているのだろう。

 もしかしたら、感謝の言葉かもしれない。


(ここまで不器用だと、もはや『ツンデレ』の域だね)


 ほどなくして、音もなく馬車が停まった。

 ハイゼンベルクの屋敷に到着したようだ。


「――どうぞ、足元にお気を付けください」


 御者(ぎょうしゃ)はそう言いながら、ゆっくり扉を開く。


 父は無言のまま頷き、肩を回しながら客車を降り、


「……よくやったホロウ、さすがは私の息子だ」


 短くボソリとそう言うと、そそくさと屋敷へ入って行った。


(……おいおい、マジか……っ)


 ボクはかつてないほどの衝撃を受けた。

 世界に転生して、最も驚いたかもしれない。


あの(・・)『不器用を極めた』父が、こんな手放しで褒めるなんて……っ)


 天喰(そらぐい)を自らの手で()てることが、指揮官に就任できたことが、よっぽど嬉しかったみたいだ。


 今回の一件で、ボクの評価が超大幅に向上したことは間違いない。


(ふふっ、この調子で信頼を積み上げて行けば……レドリック在学中にハイゼンベルク家を継げるかもしれないね!)

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― 新着の感想 ―
おもちゃwww
『原作知識』があるせいか、ホロウの寸劇の茶番臭が凄まじいwww
月島先生はじめまして。 いつも楽しく拝読させていただいております。 今回も爽快ギャフンにツンデレ描写最高です。 他の書籍化作品も読み始めてますが、 こちらの作品が一番好みです。こちらの書籍化も楽しみに…
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