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世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識と固有魔法<虚空>を駆使して、破滅エンドを回避します~  作者: 月島 秀一
第四章

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第二十一話:指輪

 ニア・エリザ・リン・アレンと別れた後、ボクはハイゼンベルクの屋敷に戻り――ひたすら虚空の修業に打ち込んだ。


(みんながレベリングしたなら、その三倍は努力しなきゃね……っ)


 虚空の展開速度と座標計算を中心に、『基礎』を徹底的に磨き抜く。

 地味で退屈だけど、結局こういうのが一番効くのだ。


 そうして五時間ほど気持ちのいい汗を流し――時刻は深夜零時。


「――さて、そろそろ行こうかな」


 黒いローブと仮面を(まと)い、王都の外れにある廃教会へ向かう。

 (うつろ)の定時連絡へ顔を出すのだ。


(最近はちょっとイベントが忙し過ぎて、<交信(コール)>で済ませることが多かったからね)


 虚の創設者&統治者として、たまには出席しておかないと。

 後はそうそう、ダイヤに『指輪』をプレゼントしなきゃだね。


 (さび)れた教会へ入ったボクは、壁面に立ち並ぶ書架から、とある聖書を取り出し――所定の位置へ差し直す。

 次の瞬間、奥の教壇がゴゴゴッと動き、地下に続く隠し階段が現れた。


(ふふっ、何度見てもいい仕掛けだね)


 薄暗い階段を下りていくと、天井の高い大広間に出た。

 そこには黒いローブを纏った虚の構成員たちが平伏している。

 ザッと200人ぐらいだろうか。

 虚の創設当初を思えば、大所帯(おおじょたい)になったものだ。


 広間の最奥に置かれた漆黒の玉座、そこへ腰を下ろすと同時、右隣に絶世の美少女が立つ。

 白銀のロングヘアが特徴のハーフエルフ、五獄(ごごく)筆頭のダイヤだ。


「それではこれより、定例報告を始めます。ボイド様へお伝えすることがある者は、その場で速やかに起立なさい」


 (りん)とした声が響くと同時、情報機関の面々が立ち上がる。


「皇帝が陣頭指揮を()った『城塞都市レバンテ』の復興が完了しました。今後なんらかの動きを見せるかと」


 この短期間で城塞都市を立て直すなんて……さすが帝国だ。

 皇帝が出張ったとはいえ、基礎的な国力がとても高いね。


「王国西部の天喰(そらぐい)は、ヲーン山脈の捕食を済ませ、北上を開始。ボイド様の見立て通り、決戦の地は『ライラック平原』になるかと」


 天喰の進行速度と出現位置は、シナリオと全く同じ。

 つまり、最終盤面はライラック平原で確定。

 忘れないよう『ポイント』にマーキングしておかなきゃ。


霊国(れいこく)皇国(こうこく)の間で、小競り合いが発生。領土を巡った紛争らしく、全面戦争も視野に入る状況です」


 メインルートの流れ的に、霊国と皇国のイベントは、まだけっこう先の話だ。

 いい具合にガス抜きして、戦争を回避させよう。


 ホロウ(ブレイン)の圧倒的な処理能力を駆使して、みんなの報告を聞きながら、適切な回答を導き出したボクは――ゆっくりと立ち上がる。


「まずは帝国の足を止める。アクアに<交信(コール)>を飛ばし、城塞を一つ墜とすように伝えろ。その際、『城塞都市』ではなく、『城塞』を落とすように厳命しておけ。当然、人死(ひとじ)にはNGだ。また天喰(そらぐい)の監視は続行、何かあればダイヤへ連絡しろ。それから霊国と皇国の戦争は回避させる。両国のガス抜きを行うようウルフに指示し、エメに実働部隊の指揮を()らせろ。次に――」


『原作知識』という『最強のチート武器』をフルに使い、『最善の指示』を出す。


「以前にも伝えた通り、来週6月30日ライラック平原で天喰(そらぐい)を討つ。俺もそれ(・・)なりに(・・・)大きな(・・・)魔法(・・)を使うので、当日は決して近付かぬよう注意しろ――以上だ」


<虚空渡り>を使い、玉座の真下にある『秘密の小部屋』へ飛ぶ。


「――ふぅ、疲れたぁ」


 肉体的疲労というよりは、精神的なモノだ。

 200人の前で堂々と振る舞うのは、何度やっても慣れない、今でもちょっぴり緊張する。


(でも、みんな元気そうでよかった)


 (うつろ)は思いがけず作ることになった組織だけど、今ではもう家族同然の存在だ。


(みんなにはたくさん働いてもらってるし、メインルートの攻略が終わったら、それなりの報酬を用意しなきゃね)


 そんなことを考えながら、仮面を外してローブを脱ぐと――隠し階段からダイヤが降りてきた。


「お疲れ様。相変わらず、とんでもない情報処理能力ね」


「ふふっ、お世辞でも嬉しいよ」


 ホロウ(ブレイン)を使えば、あの程度は造作もない。


「っと、そうだ。忘れないうちに――はいこれ」


 白い小箱を取り出し、パカッと開けると、『白銀の指輪』が現れた。


「まさか、プロポ――」


「――プレゼントだよ」


 勘違いが生まれる前に、超高速で修正した。

 小火(ぼや)のうちに消し止めれば、大火(たいか)にはならないからね。


 ちなみにこの指輪は、今朝方にドワーフ族の長ドドンから受け取ったものだ。

 仕事が早くて助かる。


「……綺麗……」


 ダイヤは宝石のような瞳を丸くして呟く。


「ねぇボイド……」


「なに?」


「あなたので手で、お願いしてもいい……?」


 彼女はそう言って、左手をスッと差し出した。

 どうやら、ボクに指輪をつけてほしいようだ。


(……罠だ(・・)


 即座に理解した。


 目の前に真っ直ぐ伸びるのは薬指(・・)

 左手×薬指×指輪、それが意味をするところは――『結婚』。


(ほんと、この世界は一ミリも油断できないね……)


 もしもこれに気付かず、求められるがまま、左手の薬指に指輪を通した場合――『ダイヤルート』が確定していただろう。


(いや、彼女はとてもいい子だし、ヒロイン候補なんだけど……)


 そういう(うわ)ついた話は、メインルートをクリアしてからと決めている。


(だからここは――人差し指(・・・・)だ)


 指輪を優しく摘まみ、白く細い指に通した。


 その瞬間、


「ふふっ」


 ダイヤが不敵な笑みを浮かべ、


「えっ?」


 ボクは驚愕に目を見開いた。


 いったいどういうわけか、人差し指に()めたはずのそれ(・・)は、何故か薬指につけられている。


(ば、馬鹿な!?)


 あり得ない。

 ボクは人差し指へ狙いを定め、確かにそこへ通したはず……っ。


(……ダイヤの固有は因果律(いんがりつ)に干渉するモノじゃない)


 つまりこれは、物理的な現象。

 おそらく超高速で腕をスライドさせ、人差し指から薬指へズラしたのだ。

『目にも留まらぬ早業(はやわざ)』とは、まさにこのことだろう。

 さすがは五獄の統括、恐ろしい膂力(りょりょく)の持ち主だね。


「ありがとうボイド、一生大切にするわ」


「あ゛ー、うん、どういたしまして……」


 切り替えよう。

 うちの可愛いダイヤが喜んでくれた、それでいいじゃないか。


「さて、『仕上げ』をしよう」


「仕上げ?」


「ほら、指輪の台座部分に無色透明な魔水晶が見えるでしょ? そこにボクとダイヤの魔力を注ぐ、それで『完成』だ」


「つまりは……『共同作業』!?」


「ま、まぁそういう表現もできるね」


 何故だろう。

 どんどんマズい道に入っている気がする。

 もしかしたらボクは、既に引き返せないところまで来ているのかもしれない……。


「二人の魔力を込めると、どうなるのかしら?」


「それはやってからのお楽しみ」


「ふふっ、わかったわ」


 ボクとダイヤは指輪に手をかざし、お互いの魔力を注ぎ込む。

 漆黒の魔力と白銀の魔力が(ほとばし)り、黒と銀の入り混じった美しい魔水晶が生まれた。

 よし、成功だね。


「これが、私とボイドの『愛の結晶』……っ」


 ダイヤが恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべる中、


「……」


 ボクはただひたすらノーコメントを貫いた。


 これ以上は、冗談抜きでマズい。

 男としての本能が、そう告げたのだ。


「最後に、指輪の力を説明しておこうか」


 コホンと咳払いをして注目を集める。


「それは『虚空石の指輪』という、とても貴重な装備品でね。魔水晶に魔力を流すことで、疑似的な<虚空渡り>が使えるようになる」


「えっ……うそ!?」


 ダイヤが指輪に魔力を込めると、正面に漆黒の渦が出現した。

 非常に不安定で弱々しいが、(まご)うことなき<虚空渡り>だ。


「これがあれば、移動の手間がちょっと(はぶ)けるでしょ?」


 虚空界への出入(ではい)りは、少し面倒な方法で行われている。


①現実世界に『スポット』を決め、そこへ『マーキング』を付けておく。

②虚の構成員がスポットへ移動し、ボクへ<交信(コール)>を飛ばす。

③マーキングを目印に<虚空渡り>を使い、ボイドタウンへの道を開ける。


五獄(ごごく)の頭脳』であるウルフと相談を重ね、『このやり方が最も効率的だ』と結論を出したんだけど……。


 はっきり言って、けっこう手間が掛かる。

 ボクも大変だし、みんなも難儀(なんぎ)しているはず。


 そこで活躍するのが、虚空石の指輪だ。


「ダイヤの使ったそれ(・・)は、超劣化Verの<虚空渡り>。(あらかじ)めマーキングしたスポットから、虚空界へ移動できるだけの不完全な魔法だ」


「なる、ほど……」


本家本元(ほんけほんもと)の<虚空渡り>と違って、どこへでも自由に飛べるわけじゃないけど……。いちいちボクのお伺いを立てず、自分の意思でボイドタウンを行き来できるようになるから、そこそこ便利だと思うよ」


「こんな貴重なモノ……本当にもらっていいの?」


「うん」


 キミはちょっと働き過ぎだ。

 疑似的な<虚空渡り>で移動の手間を減らし、仕事の効率化を図って、もっと休む時間を増やしてほしい。


「でも、万が一これが、敵の手に渡ったら……」


「大丈夫。虚空石の指輪を使えるのは、ボクと一緒に魔水晶へ魔力を注いだ者だけ、つまりダイヤだけだ」


 そもそもの話、虚空界に侵入する馬鹿なんていない。


(あの世界は、虚空使いにとっての『聖域』、言い換えれば『腹の中』だ)


 ボクはただ指をパチンと鳴らすだけで、ボイドタウンにいる『大翁』ゾーヴァ・『闇の大貴族』ヴァラン・『獣災』ラグナ、大ボス三人組を消し飛ばせる。

 細胞のひとかけらさえ残さず、滅ぼすことができるのだ。


(つまり、虚空界に足を踏み入れた時点で、その敵はもはや死んだも同然)


 だから、侵入者を警戒する意味も必要もない。

 そんなに入りたければ、「どうぞご自由に」って感じだ。

 もちろんその場合は、ボクの家族になってもらうし、二度と外に出さないけどね。


「あなたからの『信頼の証』として、生涯この指輪を大切にするわ。ありがとう、ボイド」


「どういたしまして」


 そんなに重く取らないでいいよ。

 残り四個の指輪が出来上がり次第、他の五獄たちにも渡すモノだしね。


「じゃ、ボクはそろそろ(かえ)……っと?」


<虚空渡り>を使おうとしたそのとき、ルビーから<交信(コール)>が飛んできた。


(――ボイド様、夜分遅くに申し訳ございません。至急、御報告したいことが)


(いいよ、どうしたの?)


(たった今、『王室会議』が終わり、とある(・・・)重要事項(・・・・)が決定しました)


(なになに?)


(明日の正午、天喰(そらぐい)討伐戦の指揮官を決める会議が、『玉座の間』で開かれるそうです)


(おぉっ、ついに来たか!)


 第四章中盤の『メインイベント』だ!

【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】

「面白いかも!」

「早く続きが読みたい!」

「執筆、頑張れ!」

ほんの少しでもそう思ってくれた方は、本作をランキング上位に押し上げるため、


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この二つを行い、本作を応援していただけないでしょうか?

ランキングが上がれば、作者の執筆意欲も上がります。

おそらく皆様が思う数千倍、めちゃくちゃに跳ね上がります!

ですので、どうか何卒よろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
寝込みを襲われそうだな・・・・ダイヤに
ダ、ダイヤの愛が重すぎるwww
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