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紅茶、飲みませんか  作者: 大平麻由理
30/40

30.つながる その4

「あ……」


 あまりの衝撃的な再会に、口を()の形に開けたまま声も出ない。


「やだ、美桃さんじゃない。どうしてあなたがここに? あら、どうしましょ。びっくりだわね。え? ってことは、うちの子が言ってた紹介したい子って、もしかして、美桃さんなの? あらまあ、大変だ。とにかく皆、中へ入ってちょうだい、ほらほら」


 すると遅れて入ってきた中森さんが梶谷さんの後ろでじっと身を隠すようにしていたサトさんの手を引いて、前に出る。


「お袋、俺が紹介したい人はこの人だよ。光村サトさんだ。で、桜野美桃さんは昔この村で知り合った太輔の奥さんだよ」

「あれまあ、そうだったの。美桃さん、太輔君の奥さんだったのね。へえ、そうだったんだ。カツヨシがほとんど何も言ってくれないから、私は何も知らなくて。太輔君の話も、梶谷君からあらましを聞いた程度だったからね。そうだったんだね。美桃さんも苦労したね」


 さよさんが美桃を見て、しんみりとそう言った。


「でもなんでお袋は桜野さんのことを知ってるんだよ。俺、桜野さんのこと、何も話していないよな?」


 中森さんが腕を組み天井を見上げた。同様に梶谷さんも疑問に思ったようで、サトさんと共に思案顔になり首を傾げる。

 そして、そんな三人の視線が一斉に美桃に降り注がれた。何で知り合いなの、と。けれどそこでさよさんの助け舟が差し出された。


「ほーら、そんなところにいつまでも立ってないで。さあ、中に入って。美桃さん、私たちが知り合いだってことは、二人だけのひ、み、つ、だよね。うふふふ」


 さよさんが楽しげに笑って美桃の手を引き、皆を奥へと誘導する。秘密と言いながら楽しそうにしているさよさんを見ていると、今はこのまま彼女の言うとおりに話を合わせておこうと思った。

 そこはまるで旅番組で見るような古民家の室内そのものだった。真ん中にいろりがあり、その周りを人が座って囲む形になっている。

 先客たちが楽しげに食事をしている真っ最中だった。もちろん、美桃はその人たちも知っていた。


「あら、お店の人じゃない?」

「ホントだ。やだ、紅茶屋さんのお姉さんじゃない」

「ええ、なんでお姉さんがここにおるん?」


 マダムたちがその場で振り返り、美桃の登場に驚いている。


「あの、皆さん、こんばんは。本日は雪の中当店にお越しいただき、ありがとうございま……」と、マダムたちにお礼を言いかけると、途中で美桃の声をさえぎるように黄色い声がこだまする。


「うわーーーっ、イケメン参上! なんと、かわいいお嬢さんまで一緒じゃない!」

「あららら、素敵すぎる。なんてこと?」

「さよさん、これはないわ。なんなの、この男子たちは!」


 続いて入ってきた三人に、どっと歓声がわき上がる。


「こちらが私の息子の中森勝義(かつよし)。私の実家を継いで中森姓を名乗ってくれてるの。そして、こちらが息子の親友の梶谷君。そして、息子の……」

「私の彼女のサトです。よろしくお願いします」


 さよさんの紹介を途中で引き継いで、中森さんが笑顔で答える。


「皆さん、この子たちも仲間にいれてもらってもいいかしら」

「もちろんですよ。さあ、どうぞどうぞ」


 さよさんの言葉を受けて、リーダーが自分の隣の隙間をポンポンと叩きここに座れと合図を送る。

 すると次々と皆が自分の隣を差し、是非私の隣へと隙間を作って招いてくれる。まるで奪い合いのようだった。

 リーダーの横に中森さんとサトさんが並んで座った。

 そして、サブリーダーと小野原さんの間に梶谷さんが座り、無理やり空けてくれた彼の隣に美桃も並んで座った。


「あ、そうだ。小野原さんのお友だちだけど、娘さんがバイオリンを弾くって言ってたわね」


 さよさんが飛び入り参加の四人にグラスを配りながら、小野原さんを見て言った。


「はい。さっきもメールがあって、明日の受験に備えて、一緒に上京したって」


 小野原さんが携帯を確認しながらそう言った。


「ねえねえ、梶谷君。ここにいらっしゃる小野原さんのお友だちって、あなたのお姉さんじゃない? だって、この村にバイオリンを弾く娘さんは、まひろちゃん以外、私は知らないわ」


 さよさんが梶谷さんに問いかける。


「あの……。私の友人は、以前、同じマンションに住んでいた、福本麻実子さんですけど。誰もいない実家を守るため、この村に引っ越したと聞いています」


 小野原さんもきょとんとしながらそう言って、梶谷さんをじっと見ていた。


「福本麻実子は、私の姉ですが」


 それが何か? とでも言いたげに、梶谷さんがさっき玄関で見せたのと同じような不思議感満載な顔をして答える。


「ああ、やっぱりそうなのね。小野原さん、そういうわけだから。麻実子ちゃんが子供だった頃は、私もよく知っているのよ」


 さよさんが何でもないことのようにさらりと言った。けれど他のマダムたちは黙っていない。


「ええええ、そんなことって、あるの? まあ、なんて素敵な弟さん」

「ホントだわ。もう十年、いや、二十年若かったら、彼女に立候補したのに」

「ここで一番若い小野原さんでも弟さんより年上よね。ああ、残念」

「あら、うちは年下でもぜんぜんオッケーやで。恋に年齢は関係ないんやから!」

「それなら私だって。新妻に立候補しまーーす!」


 マダムたちの冗談を通り越した逆プロポーズの嵐に、梶谷さんの顔が引きつり始める。


「これこれ、奥様方。そんなこと言ったら、旦那様が悲しまれますよ」


 さよさんが、マダムたちのエスカレートしていく会話を諌める。すると皆の笑いがどっと噴き出した。

 けれどその笑いについていけないのが梶谷さんをはじめ、中森さんとサトさんだった。この賑やかな人たちはいったい誰なのだろうと、彼らの頭上にたくさんの疑問符が飛び交っているのが見えたような気がした。



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