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紅茶、飲みませんか  作者: 大平麻由理
28/40

28.つながる その2

「ああ、うまかった。桜野さんの紅茶、本当においしかったな」


 ポットの中の紅茶を一滴残らず飲んだ中森さんが満足げに唸る。


「うまかっただろ? 最高だよな。じゃあ、そろそろ帰るとするか。なあ、中。頼みがあるんだけど」

「ああ、わかってるよ。家まで送れっていうんだろ?」

「そうだ。よろしく。俺は実家で。そして桜野さんは西池の方だ。先に西池に回ってもらって、それから俺の実家に向かってもらえれば助かる」

「了解。まかせとけ。もしかして、外に停めてあったかわいい二人乗りっぽい車、あれ、桜野さんの?」


 中森さんがダウンジャケットを着ながらたずねた。


「はい、そうなんです。タイヤはスタッドレスなんですけど、私の運転技術が未熟なもので、今夜はここで一夜を明かそうと思っていました」

「ここで? そんな物騒な。それに寒いじゃないですか。暖房だって足りないよ。ちゃんと布団に入って寝ないと風邪ひきますよ」

「そうですね。寝具はないので、上着とタオル類でなんとかしのごうと思っていました」

「ありゃりゃ、無茶苦茶じゃないですか」

「でも中森さんが来て下さったおかげで命拾いしました。ありがとうござます」

「そんなの、お安い御用ですよ。だって桜野さんの車、かまくらっぽくなってましたからね。駐車場から出すのも一苦労だ。ところで梶谷に桜野さん。二人とも夕飯はどうしたんだ?」

「まだだ。でも紅茶やスコーンをよばれたから、大丈夫」

「そうか……。そうだ!」


 腕を組み難しそうな顔をしていた中森さんが、何かを思いついたのかパンと手をたたいた。


「なあ、俺の実家に来ないか。皆で一緒に飯食おうよ。サトも大勢で行った方が緊張が和らぐだろ?」

「うん。中さんがそうしたいのなら、あたしは賛成だよ」


 サトさんが笑顔で答える。


「じゃあ、決まりだ。どっちみち、不意の客が多い我が家だ。冷蔵庫には食材もいっぱいあるだろうし、何なら俺が腕を振るうよ」

「おいおい、中の料理の腕前は認めるが、めったに実家に帰らないおまえが言うセリフじゃないだろ。勝手に決めていいのか? お袋さんに聞いてからにしろよ」

「それなら大丈夫。俺とサトが行くってのはもう知らせているから。他にも何やら客が来てるみたいだけど、梶谷と桜野さんが増えるくらいなんてことないよ。それにお袋は梶谷のことが大好きだからな。俺よりよっぽど優しくて頼りになるっていつも言ってるし」

「よし。それじゃあ、そうさせてもらおうか。俺もおまえのお袋さんに帰国の挨拶をしたかったし。桜野さん、いいですか?」


 梶谷さんが美桃にたずねる。


「あ、はい。でも……。私はアパートに送っていただければそれで」

「何を言ってるんですか。中森もああ言ってくれてるんですから、一緒に行きましょう」


 部外者である美桃はあまり気が進まなかったが、強引な二人の男性に言いくるめられ、七人乗りの大きなバンの真ん中の座席にサトさんと一緒に押し込まれた。



「後ろのお二方、乗り心地はどうです? 寒くないですか?」


 中森さんがハンドルを握りながら、彼らのすぐ後方に陣取る美桃たちを気遣ってくれる。


「桜野さん、大丈夫?」


 中森さんの声を受けて、隣に座るサトさんが聞いてくれた。


「はい。大丈夫です。足元が温かくなってきました」


 車内は広くてゆったりとしていて、外の雪景色とは対照的に寒さは感じなかった。


「そうだね。ちょうどいい感じだね。中さーーん、こっちは大丈夫だよ」


 サトさんが伝言ゲームのように返事を送る。


「オッケー、ならこのままで」


 中森さんが陽気に答える。


「それにしてもよく降ったな。おまえ、今夜トンボ返りするのか?」


 助手席に座る梶谷さんが隣の中森さんにたずねた。


「いや、今夜は実家に泊って明日帰る予定だ。サトをお袋に紹介して、今後のことを話し合うつもりなんだ」

「今後のこと?」


 梶谷さんが不思議そうにたずねる。


「ああ。俺、こっちに帰ってくるつもりなんだ。なあ、サト」

「うん」


 中森さんのさりげないサプライズ発言に、隣のサトさんがこれまたさらりと答えた。


「ええ? 本当なのか? おい、そんな話聞いてなかったぞ。でも新しい仕事を立ち上げたばかりなんじゃ……」

「そうなんだ。けど、俺たちの仕事は幸い、居住地は関係ない。西池地区の……あ、そうそう、多分桜野さんちの近くなんだと思うけど、祖父母の暮らしていた家が空き家になっているんだ。そこを事務所にしてやっていこうとサトと話して決めた」

「そうか。あそこは中森家代々の土地だもんな。ここでようやくおまえの出番ってわけだ。実家は兄さんが継いで、次男のおまえはお袋さんの実家である中森家を継ぐって話だもんな」

「まあな。でもなんだかんだ言っても、俺の本当の実家は今から行くお袋のいるところだからな。兄貴だって、将来はどうなることやら。定年を迎えたとしても村には戻ってこないんじゃないかと思ってる」

「そうか。仕事をしてそこに生活基盤が出来てしまえば、なかなか田舎には戻って来づらいからな。じゃあ、兄さんの分もおまえが親孝行してやればいいんだよ。これまで随分、お袋さんに心配かけたんだから」


 そう言って、梶谷さんが中森さんの肩をポンと叩いた。



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