登校済み
目に入ったのは同じクラスの高坂だった。四階のちょうど反対側の廊下を歩いている。学校に来ているというのにクラスに寄ってきたときには姿を見せた様子はなかった。だったらいったい何をしに来たのだろう。ただ校内をぶらつくだけなのならばわざわざ学校に来る必要もないはずだ。
しばらくその姿を目で追っていたが高坂は奥のほうに行ってしまって見えなくなった。湧哉自身は高坂のことが気になっているわけではない。しかし、澤は彼女のことを心配していた。今朝その話を聞いた時の湧哉は心境が揺れていたこともあり、澤の振る舞いに感動に近いものを覚えていた。ちょっとぐらい澤の悩みに付き合ってもいいだろう。
「行ってみるか」
湧哉は降りてきた階段を再び登り始めた。
4階は5階と同じく専門教室が置かれている。この階には美術室、パソコン部屋があり、文化部の活動場所として使われている多目的教室もある。
早足で4階まで登ってきた湧哉だったがたどり着いた時には見えるところに高坂はいなかった。普段は人が多い場所ではないが、今日は文化部の生徒が文化祭準備のために集まっている。見失ってからそれほど時間が経っているわけではないのでまだ近くにはいるだろう。下から見た限りでは美術室の方へ向かったようだ。まずはそちらへ足を向けた。
美術室前の廊下は他の場所よりも静かだった。扉の窓から見える室内では生徒たちがキャンバスに筆を走らせているのが見えた。彼らが集中できるようにこの廊下での作業は皆控えているようだった。念のため中を良くのぞき込んでみたが、やはり高坂はいない。代わりに目が合った生徒には眉をひそめられてしまった。
改めて廊下に目を向けるがやはり高坂の姿はない。見間違いではなかったと思うのだが、ここにいないとなるとどこを探せばいいのか見当が付かなかった。
「どうしたもんかな……」
「どうしたの?」
「人を探してたんだけど見失っちまって……って誰!?」
突如、独り言に誰かが乱入してきた。右に振り向くとそこには当然のようにそこに立つ木梨の姿があった。手にはビニール袋を持っており何かを買いに行った帰りのようだ。
「同じクラスの木梨だけど」
「いや、そういう意味で言ったんじゃない……。それにしても、お前も学校来てたんだな。だったらクラスに顔ぐらい出してけよ。それからさっき高坂を見かけたんだけどどこにいるか知らないか?」
「ああ、そういうこと。ついてきて」
木梨は詳しい説明もしないまま美術室へと入っていった。ついてこいと言うことは知っていることがあるんだろう。湧哉も美術室へ足を踏み入れた。
室内には独特のにおいが漂っていた。絵の具の匂いだろうか? 授業で来るときもここまでの匂いはしない。今いる生徒の多くが絵を描いているからかもしれない。誰もかれも真剣な表情だ。
湧哉が入ってくると木梨はゆっくりと扉を閉め、歩き出した。湧哉もそれに続く。
「木梨って美術部なのか?」
「そうだよ」
「もしかして昨日も学校に来てたんじゃないのか? 文化祭の準備とかで」
「うん」
「じゃあなんで教室に顔出さないんだよ。柳鳥は遅れてくるって言ってたのに」
「私一人で行ったら、あの子だけ悪者になっちゃうでしょ?」
「は、はあ?」
「だから小春には遅れていくって伝えてもらったの」
木梨は部屋の窓まで来るとベランダに顔を出した。
「紗希、お客さんだよ」
一緒に覗き込むとそこにはこちらを見上げる高坂が一人で座っていた。




