問いかけ開始
「古野濱先輩」
湧哉が呼びかけると古野濱は顔を上げた。テーブルにはホットコーヒーとし食べかけのショートケーキが置かれていた。
「あれ? こんなところで畑原君どうしたの?」
「意見集めを手伝ってくれるって聞いてこいつが今日中に会っておきたかったみたいなんで探してたんですよ」
「じゃあ君が門紅君?」
「はい。このたびはありがとうございます」
「いやいや、こちらこそお役に立てるかわかりませんけど、よろしくお願いします!」
頭を下げた悠に両手をブンブンと振る古野濱。その態度は普段と変わらないように見えた。
「あ、このままじゃ悪いよね。私立ってるから二人とも座って」
「いや、さすがにそれは悪いですよ」
「でも、せっかく来てくれたのにこのままじゃ……」
古野濱の座っていたの店端の二人席で、移動しようにも三人で座れる席はどこも埋まっていた。店の中で立ちっぱなしというのは少々気恥ずかしくもある。自分だけ目立っているような気分だ。
どうしようかと考えていた湧哉だったが先ほどの店員が椅子を持って現れた。
「わるいね、気が利かなく。今お冷も持ってくるよ」
「すみません、ありがとうございます」
「オーダーが決まったら呼んでね」
二人が椅子に腰かけると店員は他の席の注文を取りに行った。
「でもよくここにいるってわかったね。知ってる人って言ったら阿良田君ぐらいなんだけど」
「その阿良田先輩に聞いてきたんです」
「よく教えてくれたね。阿良田君て結構秘密主義なのに」
「それが、そのですね……」
「うん?」
無邪気な顔で古野濱はケーキを頬張った。これを伝えれば古野濱がどうなるかはわかっていたが、言っておいた方がいいだろう。
「阿良田先輩と古野濱先輩が、同じ部活ですよねって言う話をして……」
「……。えぇぇ!? 話しちゃったの!? っていうことは私が話ったってばれちゃった。ああーどうしよう! 明日叱られるーーー!」
予想通り頭を抱えた古野濱は自分の世界に入っていってしまった。しかも今回は半べそ状態だ。悠も呆然とその光景を見ているが古野濱は全く気付いていない様子だ。
「こ、古野濱先輩!」
「ふえ……? うわあ! ご、ごめんなさい! 初対面の人の前で私……!」
「俺の時もそうでしたけど……」
「阿良田先輩と話してる時も思ったんですけど、同じ部活だって広まることがそんなに問題なんでしょうか?」
「それは俺も思ってました。いったい何がまずいんですか?」
ここまで取り乱したところを見てしまうと悠も口を開かずにはいられなかったようだ。しかし、この疑問は最もである。同じ部活だと知られたくない理由とは何か? 仮に阿良田の一方的な理由であればそれはいじめにも近い行為のようにも見える。
「ええっと、その、なんていうか、いろいろとね、複雑な事情が、あるの。奥崎先生にもそう言われてるし……」
言葉を選ぶように、ゆっくりと古野濱は答えた。しかし、最後に奥崎の名を出したのは失敗だと湧哉は思った。奥崎の名が出れば悠が食いつかないはずはないのだ。
「そうなんですか、奥崎先生が」
「……、え?」
「どうしたのハタハタ? 変な声出して」
「い、いや別に何でも」
湧哉の予想に反して悠は何も聞くことはなかった。奥崎のことを信用しすぎて逆に気にならなかったのだろうか? しかし、悠が妄信的になることはないはずなのだが。それとも奥崎への好意はそれ以上だということなのか……。
「それじゃあ改めまして。門紅 悠です。このたびはよろしくお願いします」
「私は古野濱 美沙。こちらこそよろしくお願いします」
「このお店初めてなんですけどおすすめの料理ってありますか?」
「う~ん。私はどれも好きなんだけど、初めて来たならトースト系がいいと思う。ここのパンってすごくおいしくて―――」
間に湧哉が入ることも必要もなさそうで、二人の会話は弾んでいた。空腹と言うこともあって二人の会話には大いに興味がある湧哉だったが頭の中は他のことでいっぱいだった。
「古野濱先輩。ちょっと聞いてもいいですか?」
「ん? そっか、用事があるから来たんだよね。なにかな?」
「今日奥崎先生から門紅の手伝いの話を聞いたことって誰かに話したりしましたか?」
「誰にも話してないと思うけど」
性格からして後ろめたいことがあればすぐに態度に現れるはずだ。しかし、古野濱に動揺は見られない。あるいは普段の振る舞いが嘘なのか……。これを見極めないことには先には進まなそうだ。




