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湧哉のワケ

 奥崎の勧めで彼女の車で寮へ向かう湧哉。記念館を出る際は悠の視線が気になったが、奥崎はそれに全く気が付いていなかったらしい。痛い視線を浴びる湧哉に早く乗れとせかすほどだった。悠は最後まで何も言わなかったが、一時帰宅後に悠の家に行ったときは何を言われることかと心配になった。

 歩けば1時間ほどの距離だが車ではほんの十数分だ。自然が多かった景色はあっという間に建物ばかりになってしまった。ここまで来ると道路はしっかりと整備されており車の揺れも無くなった。

「去年まではこの辺の道もデコボコだらけだったんだがな。人の手が加わっていない景色っていうのはすぐに変わってしまうものだ」

 運転をしながら奥崎は湧哉に話しかけてきた。正面を見つつも、時折視線が周りの風景に向いていた。

「まあ、そのおかげで私たちの生活が楽になっているんだけどな」

「その手の話って言いだしたらきりなくないですか? というか突き詰める前に会話が終わる気が……」

「おいおい本気にするなよ。私だって真剣にそんなことを話してるわけじゃないさ。私はただの教師なんだ。そんなことは環境学者か何かがやってるだろう」

「ただの教師、ねえ……」

 奥崎は冗談で言ったつもりなのだろうが湧哉は言葉通り受け取ってしまったようだ。奥崎は笑っていたが湧哉の顔は少し引きつった笑みだった。

「自分の周りの事となると気にはなるだろう?」

「記念館のことを言ってるならどうでしょうね……」

「そうか? 興味のない事にここまで首を突っ込んだりしないんじゃないか?」

「……」

 奥崎の言う通りだ。悠の手伝いをするとなった時は交換条件という形だった。しかし、第三者から見れば悠がずる賢いというだけだ。自分の手の内を教えなかったのだから。しかも悠は課題を直接やっているわけではない。これは対等な約束だろうか? 湧哉が断ったとしても誰からも非難は受けないだろう。

 だが、湧哉の考えは違っていた。

「俺も手伝ってもらってますからね。手を貸してくれたらそれはしっかり返すもんじゃないですか」

「それだけでこんなに面倒なことをやるのか? 記念館には思い入れもないのに?」

「確かに記念館には直接の思い入れはないですよ。でも、自分の大切なものが無くなるっていうのは辛い事じゃないですか。無くなる前に手が打てるならそうしたいじゃないですか。奥崎先生だってそうでしょ?」

「ああ……」

「それが友達のだったらちょっと頑張ろうとか思っちゃったわけですよ」

「……そうか」

 その後、奥崎は湧哉がなぜここまでするのか聞かなかった。

 湧哉は友達の悠のためと言った。しかし、今はもう一つ理由があった。奥崎だ。学食での会話で奥崎は記念館を残したいと言った。そしてそれが約束だと。そんな奥崎のことも放っておけなかったのだ。

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