協力の輪
少しの間の後、悠は再び口を開いた。
「ある程度の人数が集まれば問題はないと思いますよ」
「それは……」
奥崎は口を噤んだ。答えを聞かずとも湧哉にはわかっていた。いま、奥崎の周りにはそれを実行できるほどの人数はいない。話をすれば田島は協力してくれるかもしれないがそれだけでは無理だ。
「それから、成功したとしてもこの記念館の取り壊しを100%止められるわけではないです。今回のような場合は大多数の人が反対しているぞということを役所に知らせるだけです。最終的に結論を出すのは役所側です。そこは理解してください」
「……」
奥崎は目を閉じ険しい表情で考える。仮に成功したとしても取り壊しが止められる保証もないという。だが確実性に欠けることは奥崎にとっては大きな問題ではないだろう。公になれば退職もあり得るということまでしたのだから。むしろ壁となるのは人数が足りないことだ。たった一人では署名活動をしても大した効果はない。更にデモンストレーションともなれば一人ではどうにもならない。実行に移せないのであれば良策もただの机上の空論だ。
「なにか問題がありましたか?」
「人数的な問題がある。今の私にそんなことを頼める相手はいないんだ」
奥崎はちらりと湧哉の方を見たがすぐに視線を逸らした。手は借りたいが数時間前に謝罪をしたばかりの湧哉には頼めないのだろう。
「そうですか……。人数が集まらないのは仕方ないですね」
「せっかくの提案だが今の私にはできそうにない」
「じゃあ僕たちが手伝います」
「……」
悠はなんの前触れもなくそう言った。それも『僕たち』ということは湧哉も入っているようだ。
「なんだって……?」
「僕とハタハタが手伝います」
あまりの突拍子のなさに聞き返した奥崎だったが答えは同じだった。しかも今度は湧哉のこともしっかり名前を出している。
「文化祭の討論会に旧校舎の取り壊しを題目にして出ようと思っているんです。それなら丁度いいデモンストレーションにもなると思うんです」
「確かに、それなら助かる。だが―――」
悠だけならばすぐに答えが出たのかもしれないが湧哉がいることで奥崎は戸惑っているようだ。自分の目的のために利用したことが未だに後ろめたいのだろう。謝罪をしたということはもう手は借りないという意思表示でもあったはずだ。そのことは湧哉もわかっている。だが少し考えればわかることがある。湧哉はここに何をしに来たのかということが。
「別にいいんじゃないですか? 俺はかまいませんよ」
「畑原?」
「俺、門紅の手伝いですから。門紅がいいって言うなら問題ですよ」




