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現実は

「それで? 私に話っていうのは?」

 下の階に降りてくると奥崎はすぐに話を進めた。悠とはまた違う意味で意図がわからないのだろう。

「まずはなんですけど、今学校で記念館の取り壊しについて会議をしてるみたいです」

「な!? それはどういうことだ!!」

 奥崎は驚きよりも怒りが強いようで湧哉に掴みかかった。あまりの剣幕に湧哉は体制を崩すが何とか踏みとどまった。

「せ、先生、落ち着いて」

「っ!」

 湧哉から荒っぽく手を離すと奥崎は顔を背けた。体はわなわなと震えており落ち着きはみられない。記念館で仕事をしているのにも関わらず、会議のことを知らされていなかったのだから整理が付かないのだろう。

「放課後に井ノ瀬先生が急な会議があるって。役所からも人が来てるみたいで」

「……」

 湧哉が説明をするも奥崎は聞いていないようだ。その様子を見た湧哉は奥崎が落ち着くまで待つことにした。

 しばらくの無言の間の後、奥崎は静かに口を開いた。

「会議を招集したのは教頭か?」

「そこまではわかりませんけど、井ノ瀬先生は校長室にいるんじゃないかって言ってました」

「そうか。……これでまた、取り壊しへ一歩前進してしまうわけだな。考えてる暇もない」

 奥崎は諦めたように天井を見上げた。湧哉には何とかするとは言ったものの、やはり打つ手はなかったらしい。そもそも一人では限界があるのだ。

「それからもう一つあるんですけど」

「なんだ? 今なら何を聞いても驚かないぞ」

「えーっとですね。取り壊しへの反対運動って意味で署名集めとかやったらどうかなっていう」

「何かと思えばそんなことか」

 奥崎は馬鹿にしたように笑った。

「それなら既にやったさ」

「だったらなんで……。この辺は卒業生も多いはずじゃ」

「元々のこの町の人口は6万人前後だったが、開発の影響もあって少しずつ人口が増えた。署名集めをした時には10万人前後まで増えていたよ。町の開発が進む中で、他からの移住が増えたんだ。移り住んできた人からすれば旧校舎のことなんて気になるはずがないのさ。確かにこの周辺に住んでいる卒業生はいるが、それは一般的なものよりも多いというだけであって事を動かすほどの力はなかったんだよ」

 奥崎の言葉が湧哉に現実を突きつけた。そんなに甘いはずがないのだ。

「そもそもそんな正攻法を誰も思いつかないわけがないだろう? 田島先生だっていたんだ。手は打ち尽くしてる」

 奥崎の沈んだ目がもうだめかもしれないと訴えていた。万策尽き、相手の進行も止まらない。

「何とかしようにも私が外されたのならどうしようも―――」

「ちょっと待ってください」

 奥崎の話を他の声が遮った。記念館にいるのは他には一人しかいない。声の方を見ると悠が階段を降りてきていた。

「門紅?」

「大きな声がしたから何かあったのかと思って」

 盗み聞きしていたことにばつの悪そうな顔をしている。しかし階段を降り切ると真剣な表情になった。

「まだあきらめるのは早いと思います」

 悠の介入。これによって状況は好転するのだろうか……。

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