これから
「約束したんだ」
「約束?」
「昔、友人とな」
奥崎は少し目を細めた。それはここにはなく、何か遠くのものを見ているようだった。懐かしい何かを……。
「とはいえ、結局は私の独りよがりだったが」
遠くを見ていた視線は現実に戻ってきていた。
「校舎が変わっても、こうやって変わらない物もあるが」
そして今度は苦笑いを浮かべながら定食に目を移した。
「このメニューって旧校舎の時からあったんですか?」
「ああ。昼には出してないからな。元々はただのまかないだったから知ってるやつはほとんどいないだろう」
それはそうだろうと湧哉は思った。放課後にここに食事をとりに来る生徒は滅多にいない。たまり場として使っている者はいるだろうがここへ来るくらいなら駅周辺へ行った方が楽しむ手段は圧倒的に多い。
「これって他のやつに教えてもいいですか?」
「別にかまわないと思うが」
「喜びそうなのが一人いるんで」
疑うようにいつもの冷たい雰囲気に一瞬戻った奥崎だったが、すぐに相手がだれか気が付いたようだ。
「門紅か」
湧哉は笑ってイエスと答えた。
悠の旧校舎への思い出は特別なものだ。彼がもし裏メニューのことを知っていれば食べに来ないはずはないが、放課後に学食に行くという話は聞いたことがないのはこのことを知らないからだろう。
「それになにか助けになるかもしれませんし」
「そう言えば何かしているらしいな。卒業生の連絡先を見たいと言ってきた」
この裏メニューが以前から残っているものなら、討論会のネタにもなりえるかもしれない。
そして悠は奥崎に詳細は伝えていないようだ。よくそれで連絡先の閲覧許可が下りたものだ。
「だが、連絡先が変わっているのがほとんどだろうな」
「うげぇ……」
これからその連絡先に電話しなければならない湧哉にとってその情報はあまり聞きたくなかったか。電話をかけてもかけても連絡が付かないのかもと思うと憂鬱になる。
「さて―――」
奥崎は改まって湧哉に向き直った。
「少し話は逸れたが私の話したいことはこんなところだ。いろいろと時間を取らせて悪かったな」
奥崎の話はこれで終わりらしい。
始めは冷たい態度しか見せなかった奥崎だったが今週だけでも様々な一面を見た。悠には優しく、古野濱には慕われ、阿良田に責められたときは苦しい表情をした。そして今、湧哉に謝罪した。こうして考えてみると人間味があるように思えた。
「奥崎先生はこれからどうする気なんですか?」
奥崎は目を閉じて微笑んだ。その後少し間をおいてはっきりとこう告げた。
「私はあきらめない。なんとして記念館の取り壊しは阻止して見せるさ」




