クラスの溝
声を掛けてきたのは三人組の女子だった。
中央にいる高坂 紗希、長身で髪を後ろでまとめている木梨 すみれ(きなし すみ1れ)、それに小柄でおとなしそうな柳鳥 小春だ。
この三人組、湧哉はあまりいい印象がない。高坂が誰にも気負いすることがない、というよりは周りに遠慮がないと言った方がいいか。今回もそうだが話の途中でもずかずかと話に入ってくる。相手のことなど全く考えない。だが教員の前では猫を被る。妙にニコニコとして振舞うのだ。その態度の差がどうしても好きになれなかった。
そんな高坂に付き合う木梨と柳鳥にはそういったことはないのだが、一緒にいることが多い二人に対してもそんな印象が付いてしまっている。
「さっき文化祭実行委員の集まりだったんでしょ? うちのクラスはどうなったの?」
「うちはカツサンドだ」
早く話を終わらそうと高坂の疑問に湧哉はすぐに答えた。聞いた高坂は少し怪訝そうな顔をした。
「詠嘉やつ話聞いてなかったの? せっかくの文化祭なんだからもーっと派手なのにしてって朝言ったのにカツサンドなんて」
そう言えば今朝、澤の机に集まっていたのは彼女たちだったか。どうやらその時に何か意見したらしい。それは聞き入れられなかったわけだが。
「融通が聞かないっていうかまじめすぎるっていうか、何が楽しいんだろあの子」
あまりの言い方に湧哉と悠は顔を合わせる。どうやら自分の意見が通らなかったことに不満があるようだ。
「紗希ちゃん、い、言い過ぎだよ……」
愚痴り始めた高坂を柳鳥が控えめに注意したが高坂は気にした様子を見せなかった。高坂はまだ止まらない。
「だいたい、ほんとにカツサンドなんかが一番多かったの? あの子が自分でやりたいからそう言ってただけなんじゃない?」
相当気に入らないのか高坂は湧哉の席の横で不満をぶちまけ始めた。このまま無視して課題を進めたかったのだがこのままでは集中できない。
「それは俺に聞かれてもわからないけど」
「畑原君は実行委員でしょ? そのくらい把握してないわけ?」
高坂の言っていることもわかるが馬鹿にされたような口調が気に入らなかった。
「そんなこと言われたって知らないものは知らないよ」
「門紅君には、聞いてない」
高坂は悠の返事には考える事もなく拒絶の色を示した。
「じゃあ愚痴るのは余所でやってくれるかな」
悠が次に口を開いた時、2人の間にはピリピリとした空気が漂い始めた。それを見て木梨はやれやれと深いため息をつき、柳鳥は心配そうに両者の成り行きを見ているだけだった。
「どこで何しゃべろうと私の勝手でしょ? それに愚痴って何よ。私だってクラスの一員なんだから意見を聞いてもらう権利があるわ」
「権利があることは認めるけどそれが聞き入れられないからって他のものを否定するのは良くないでしょ。今回はカツサンドっていう意見が多かったからそうなったんだし。こういう決め事の時は多数決って決まってるじゃない」
「本当にそうだったかなんてわからないじゃない!」
「それなら高坂さんが実行委員やればよかったじゃないか」
「それは……詠嘉が決めたんだから仕方ないじゃない!」
「昨日丸一日考える時間はあったのに? 今朝話をしてたならその時にでも立候補すればよかったんだよ」
「っ……」
一時間前は西谷と岩木、今度は悠と高坂のこのやり取り。一日で喧嘩の中心にいるとは本当についていない。しかし、湧哉に先ほどよりも心に余裕があった。この二人ならば暴力沙汰にはならないということ、それに結果が見えているからだ。
「私は―――!」
「自分でやる気もなかったくせに結果が気に入らないからってそうやってグチグチいうのは見てて気分悪いんだよね」
もはや勝敗は見えた。高坂は眉を寄せて歯を食いしばっている。
普段おとなしい人ほど怒ると怖いというが、悠の場合は怒った時もおとなしい。静かに相手を攻めていくのだ。
「紗希、あんたが悪い」
結果が見えたからか木梨が高坂を止めに入った。高坂の肩に手を回すとそのまま後ろを向かせ柳鳥に彼女を預ける。その後木梨は上半身だけをこちらに向けると申し訳なさそうな顔をしながらと右手を顔の前に持ってきて謝罪すると二人の後を追っていった。こうしてみると木梨は高坂のストッパーとしてあの中にいるのかもしれない。そう思うと彼女の苦労は絶えなそうだ。
「それじゃあ続きやろっか。ん? どうしたの?」
「お前が敵じゃなくてよかったなーと再実感しただけ」
「別に敵とか味方とかってわけじゃないけどね。必要ならハタハタにもああいう態度はとれるよ」
ケロッとした顔でそんなことを言われたものだから湧哉は苦笑いで返すことしかできなかった。




