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騒動の終わりに

 西谷は岩木が手を止めるとは思わなかったのか弁当とおにぎりを持ったまま驚いた顔で阿良田を見つめていた。奥崎も少し驚いたようだったが、緊張した表情は崩さなかった。

 同じく湧哉も驚いていた。彼の場合は、この場に阿良田が現れたこと、それに加えて自分の思っていた阿良田のイメージ像と実際の本人が異なっていたことだ。少々無茶苦茶なこともしていた奥崎と意見が合わないと聞いていたので、澤の男版のようなイメージをしていた。

 実際には男子としては長い目にかかる髪。細長い淵のないレンズの眼鏡。一見するとインドア派の印象でおとなしそうに見える。

「岩木、覚悟はできてるんだろうな?」

「なんで後輩を指導するのに覚悟がいるんだよぉ」

「お前が今やろうとしていたのはただの暴力だ。それに他人を指導することにも少なからず覚悟は必要だ」

「いちいちうるせぇんだよ」

「俺達はルールにしたがって生活しているんだ。外れようとしていれば正してやるのが優しさだろ?」

 阿良田が現れたことで一度落ち着いたと思われた岩木だったが、彼との会話で再び顔が険しくなる。先ほど西谷と話していた時とはまた違った雰囲気だが。岩木は阿良田を警戒しているようで荒々しい言動はない。

「次の授業開始まであと5分弱だ。できればそろそろ教室に帰りたい」

 口調は丁寧だったが、時々前髪の陰から見える阿良田の視線は威圧的に訴えていた。これ以上、俺に時間を取らせるなと……。

 だが、そんなことで岩木がおとなしく引き下がるだろうか? おとなしくなったとはいえ先ほどの荒れようを見ているとそうは思えなかった。いつ怒りが沸点に達し暴れ出すかわからない。湧哉はそう思っていたが―――

「わかったよぉ……」

「!」

「!?」

 岩木の返事に西谷も湧哉も驚きを隠せない。西谷は今までずっと抱えていた弁当の山からおにぎりを一つ落とすほどだ。

 岩木はゆっくりと歩き出し、不満そうな顔で西谷と湧哉を横切り購買を出ていこうとした。

 岩木は阿良田に近づいたら殴りかかるんじゃないかと思った湧哉だったが、そんなことはなかった。岩木はそのまま購買の外へ出て行ってしまったのだ。

 しばらく呆然としていた湧哉だったが、ハッと我に返った。

「西谷、大丈夫か?」

「おぉ……? おう、大丈夫大丈夫。おにぎりが1つ無事じゃないけどな」

 何事もなかったように振舞う西谷だが空元気だろう。普段の勢いがない。

「大丈夫そうだな」

 購買の入口から動かなかった阿良田も中に入ってきた。西谷の落としたおにぎりを拾い上げ、状態を見る。

「食べる分には問題なさそうだがどうする?」

「この上乗せちゃっていいっすよ。俺食べます」

 阿良田はそれに微笑んで返すと西谷の抱えている弁当の上におにぎりを戻した。

「時間もあまりないし早く会計を済ませた方がいい。食べる時間が無くなる」

「はいっす。ありがとうございました」

 西谷は少し頭を下げると会計に向かった。

 湧哉も軽く会釈をして西谷に続こうとしたがそれよりも先に気になる話が耳に飛び込んできた。

「奥崎先生、これくらいの事を対処できなくてどうするんですか?」

「っ……」

 奥崎を責める声だ。それは冷たく、やけに棘があった。

 生徒が教師に言う発言ではなかったが奥崎は悔しそうな顔をするだけで口は開かなかった。

「やはりあなたのやり方は間違っている。俺達は決まったルールの中で事に当たらなければならないんですよ。いつもそれを無視しているから今回のような件に対処できなくなる」

「……」

「それが周りにどれだけの迷惑をかけているかあなただってわかっているはずだ。特に―――」

 阿良田は突然湧哉の肩に手を置いた。なんの前触れもなかったので反射的に体が震えた。

「―――この子に対してはね」

 その一言は更に湧哉を震え上がらせた。

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