清々しい朝だった
奥崎を助けた晩はよく眠ることができた。寮に帰ってからも課題をやるはずだったのだが一昨日の疲れと昨日の気疲れのせいか、そのままベットに倒れこんだ。一昨日も同じように眠ってっしまったが今回は早い時間だったのでしっかりと睡眠をとることができたのだ。
そんなわけですっきりとした気分で朝を迎えることができた。目覚めも早かったので普段よりもゆっくりと準備をし登校した。
教室には八時前には着いていた。部活組の西谷や結はまだ教室にはいなかったが、十人弱の生徒はすでにいた。
本を読んでいる者、ペンを片手に勉強している者と様々だったが、四人の女子が一つの机を囲んで話をしていた。そのうちの一人は湧哉が教室に来たのに気付くとこそこそと何か話し始めた。
湧哉の事で何か噂でも立っているのだろうか? 昨日の放課後の事といい女子更衣室に忍び込まされたことといい、思い当たることが多すぎる。
だからといって鞄を持ったまま突っ立っているのも不自然なので自分のロッカーに向かい貴重品をしまう。
「畑原君」
「な、なに?」
声を掛けてきたのは委員長の澤だった。どうやら先ほどの四人の中にいたらしい。机を囲んでいるのが三人になっている。
今しがたこそこそと話していたのを見てしまうとどうにも悪い方向に考えてしまう湧哉だった。品性方正の澤がその中にいたということがさらにそれを加速させた。
「昨日の事、覚えてるかな?」
「き、昨日? な、なんかあったっけ?」
昨日といえば視聴覚室での件が真っ先に出てきたがあの場には奥崎、古野濱、湧哉、それに教頭しかいなかったはずだ。
(ま、まさかどっかで聞いてたのか? いや待て。昨日のことは特に疚しいことはない……はず……だよな?)
「どうかしたの?」
「いや! 何でもない!」
思考に集中するあまり挙動不審になっていたようだ。きつい言い方をされたわけでもないのに体が強張ってしまった。
「何でもないならいいけど。それでなんだけど―――」
「ゴクリ」
湧哉は澤の口から何が飛び出すのかと気を引き締めた。
「―――文化祭の事なんだけど」
「文化……際?」
「そう、文化祭。昨日、朝のホームルームで話したんだけど」
「あ、ああ。あったあったそう言えば」
時には人間なのだからマイナス方向に思考が傾くことはあるものだ。自分に思い当たることがあるならば猶の事。自分のわかることだけで推し量れることはたかが知れているのだ。
「でもそれってやりたいことを報告しろっていう話だよな。特にないから出さなかったんだけど」
「畑原君には実行委員をやってもらいたいの」
「……」
「……」
「はいいいぃぃぃぃぃ!?」
「ええぇ!? なに!?」
あまりにも予想外の内容だったので正面にいる澤が思わず身構えるほどに湧哉は声をあげてしまった。
周りの生徒も何かあったのかと顔を向けたがすぐに各自の事へ戻っていった。
「なんで俺が!?」
「だ、だって昨日手伝うって言ってたって聞いたから」
「……!!」
確かに、確かに湧哉はそう言っている。悠と結とのホームルーム後の会話の中で。だがそれを知っている者は……考えるまでもない。
「だ、誰からそれを……?」
わかっていても念のため聞いてみた。
「門白さんが昨日教えてくれたの」
「門白ぉ……」
やはり結だった。
文化祭の件で湧哉が悠を手伝うことになっているとは直接は結に言っていない。だが昨日の会話からそのことは読み取れなくもないが、結はそこまで深く考えていなかったのだろう。言っていたという事実だけ伝えたに違いない。
湧哉の体があいているならばまだ手伝うと言えたのかもしれないが、奥崎の課題に、悠の手伝いもある。現状はそんな余裕はないはずだ。
「どう? やってくれるかな?」
自分のやることを考えれば「NO」と言えばそれで済むのだろうが手伝うと言った事実からすぐにはそれが出てこなかった。ただ少しだけ後ろめたかったのですぐに返事が出せなかっただけだ。本当に少しだけ遅れただけなのだ……。
「お、澤ちゃんさっそくお願いしてんだ。ハタハタ、昨日手伝うって言ってたしやってくれるでしょ?」
あろうことか朝練終わりの結が教室に到着した。
朝のすがすがしい気分はどこへやら。湧哉の気分は完全に落ち込んでしまっていた。




