ヴィオラム様から告白されました
こんにちは。読んでくれてありがとうございます。
「聖女が王妃となると誰が決めたのか知りたいのだ」
「それは神様では? 聖女様を遣わしたのは神様ですし」
昔から決まっていることだ。聖女様は神様が王に遣わされたのだ。
「それが違うのです。私はアルティナ様を癒やすために神様に遣わされたのですよ」
申し訳なさそうな聖女様の言葉に私は首を傾げた。
「私を? どうして……?」
意味がわからない。ヴィオラム様と結婚すれば王妃となるが、そうでなければただの公爵家の令嬢にすぎないのに。
「アルティナ様は前世で神様の元で御使いだったそうです」
「私が?」
「とても愛らしい御使いで、神様はずっと側に置きたかったそうですが神様の側に長い間いると魂が壊れてしまうんだそうです。泣く泣く下界に下ろし、これはと思う男をと結ばれるようにと思っていたところヴィオラムが選ばれたそうです」
どれもよくわからないけれど、ヴィオラム様とは神様が結んでくれた間柄だと気づいて頬が熱くなった。
「アルティナ、私は選ばれたからではなくそなたを愛しく想っている」
「ヴィオラム様……」
その視線の熱さに私は焼かれそうになる。
「ところが、アルティナ様はあまりその……大きくならなかったので、神様は夫婦生活が心配になりヴィオラムをなかったことにしようと思ったそうなんです。でもアルティナ様がヴィオラム様のことを好きだと気づき、ここで消してしまってはアルティナ様の心に深く傷がつくと心配されて、物理的に治せる聖女をお遣わしになったのです。それが私です」
「……律様……」
今私は、弟と本人を前にヴィオラム様のことが好きだと公開されてしまったようです。
バタバタとヴィオラム様の膝から逃げようとあがいても、屈強な身体は揺れもせず私は抱きしめられたままでした。
「アルティナ」
ヴィオラム様に撫で撫でされながら私は聖女様に訴えた。
「なら何故結婚の邪魔をされるのですか――」
結婚式の真っ最中に中断させるなんて酷い仕打ちだ。
「初夜に間に合うようにと急がれていたようです」
全くもっていい迷惑だった。
「つまり神様は聖女様を王の妃にしなければならないという啓示はされていないということなのですね」
「さすがアルティナ様です。それに気づいた陛下と聖女様はどこで啓示として誤解されたのか調べようとしていたのです」
「古語を読めるならって俺まで呼ばれて」
エリックの顔色もあまり良くない。寝不足なのだろう。
「古語を読める人はもっといらっしゃるでしょう。神殿の古書の方がいいのではないですか?」
たった四人で、しかもリスティは今日からだろう。
「敵が多かったんですよ。もしその文書を見つけたとしても隠蔽されては意味がありません。アルティナ様を狙う男性を排除すること。神殿に余計な詮索をさせないことが大事なのです」
「敵……」
まさか王家転覆を狙うものがいるのかと思ったら違った。
「マルガルまでアルティナに――」
親友に裏切られたとヴィオラム様は難しい顔で唸った。
「マルガル様は私が困っているだろうと思って言ってくださったんだと……」
「違う――。ティナ、教えてないけどもう屋敷には毎日のように高位貴族の子息から花やら手紙が届いてて……。マルガル様もその一人だよ」
「エリック!」
「何がなんでも私は記述を見つける。そして、聖女が王妃になる必要がなかったことをしらしめるのだ。けれど、どうしても見つけることができなかったら……」
私が王妃になれば反発は激しいだろう。国が滅亡してもいいのかと言われてしまいそうだ。
「その時は……」
私とヴィオラム様は結ばれないのだ。そう思ったら涙が零れた。
「私に着いてきてくれないか? 王でなくなった私でも添い遂げてくれるだろうか」
ヴィオラム様は頬に伝う温かい滴の跡を追うように何度も小さなキスをした。
「私でよろしければ――」
私達の結婚は事情があったとはいえ政略結婚の過程を踏んでいた。だからそんなプロポーズのようなことを言ってもらえるとは思っていなかった。驚いているのに、口から自然と答えが出ていた。考える必要などなかった。私はヴィオラム様のことが好きだから。
「アルティナ――。愛してる」
ヴィオラム様は私の額に自分の額を押しつけてそう言った。まるで想いがそのまま伝わればいいのにと思っているようで嬉しかった。
「私もです、ヴィオラム様。愛しています」
言葉にすれば、私の曖昧で鮮やかな想いはしっくりと形となった。これが愛なのだと胸が痛くなる。
「……すいません、姉の貞操は公爵家として守っていきたいので、そこらへんで……。姉様、部屋にもどりますよ」
「エリック!」
「私もそれがよろしいと思いますわ、アルティナ様」
「リスティ様――」
「はい、唇切れてるから治そうね。私は小さな子が痛い思いをしてるのが駄目なんだよね。はい、治った」
「小さい子じゃありません!」
「可愛い子、だから聖女様っていわれてもこまるんだよね。神官長様もそうだったけど、全然治せないんだ。前の世界で死んだ理由も小さい子供達の病院の医師をしてたんだけど過労だし。もっと小さい子を治したい! って思って死んだら神様にスカウトされたんだよね」
「……小さくない……」
「ごめんね、私の中で150フェンチは小さいんだよ」
酷い侮辱だ。せめて後、5フェンチ欲しかった。
だけど、聖女様の目には慈愛しかなくてそれ以上怒るわけにはいかなかった。死んでも貫いた想いなんだもの。
「この世界でも子供を治していきたいと思ってる。でもそれ以上に、私もヴィオラムやアルティナ様のように想い想われる相手を見つけたいなと思ってるんだ。だから頑張って探そう、記述の載った本を――。アルティナ様が探したら見つかると思うんだよね」
「「「確かに……」」」
三人の目が真剣だ。そうだといいのだけど。
「期待されても困ります。でも私も一緒に探させてください」
こんなに優しい人たちが私達を応援してくれていると思うと勇気がわいた。古書はそれほど得意でないけれど、死ぬ気で見つけてみせる。女の意地というものだ。
「アルティナ。頑張ろう」
名残惜しんでくれるヴィオラム様から離れて、私はエリックと一緒に部屋に戻った。
「エリック、これは私の夢じゃないわよね? つねって」
呆れた顔の弟は、ムニッと頬をつねった。
「はいはい、これでいい?」
「痛い……ってことは、両想いなのよね。どうしよう、エリック。明日からどんな顔をしてヴィオラム様にお会いすればいいのかしら?」
エリックが仕方ないなという弟らしからぬ顔で、私の肩を叩いた。
「まず、寝ることが大事だよね。肌のつやとか、張りとか好きな人には綺麗に見せたいんだよね? 若いからって寝不足じゃだめなんじゃないかな」
エリックほど女心をわかってくれる弟は他にいない。
「エリック! そうね。私、眠るわ。あなたはここで一緒に寝る?」
長いこと一緒に眠ることもなかったが、姉弟だ。問題ない。
「ははっ、陛下に殺されそうだから辞退するよ。ティナ、おやすみ。いい夢を――」
エリックはまるで兄のような顔で私の頭を撫でて出ていった。
「私より一つ年下なのに……」
忠告をありがたく受け取って私は眠りについた。
よかった、よかった。




