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弟は私を心配してきてくれました

読んでくれてありがとうございます。予約を忘れていました笑。

 何もする気がおきないという状態になった私は、屋敷の中でのんびり過ごしていた。ヴィオラム様の婚約者となったその日から私は頑張ってきた。その頑張りは無駄では無かったと思いたいけれど、何も手につかなかった。特に最近は結婚のための支度やお祝いに来てくれた友達とのお茶会などで忙しかったから、気が抜けてしまったのだろう。

 毎日のように私を心配してくれるお友達の手紙が届くのにその返事すら億劫なのだ。

 あの日、聖女様は紹介されただけだったようだ。王妃になられる発表は聖女様がもう少しこの国に慣れてからの方がいい。黒い髪に黒い瞳、神秘的な顔立ちで、背は高く、凜々しいお姿だった。それだけでなく、私の怪我に気づいて治してくれた優しい人だった。

 正直いい感情があるわけではないのに、彼女を思い浮かべても憎しみのようなものは沸いてこなかった。


「姫様、陛下よりお花が届いております」


 今日は百合の花だ。真っ白な花が抱えきれないほど。


「またこんなに沢山……。お手紙でお断りしているのだけど……」


 毎日ヴィオラム様の名前で届くので、お返事を書いている。きっと侍女長が気をきかせて贈ってくれているのだろうけど、名前の文字はヴィオラム様の手蹟だから。


「花くらいで姫様の怒りがおさまるとでも思っているのでしょうか」


 鼻息の荒い侍女をたしなめると、彼女の瞳に我慢できなかったのか涙が浮かぶ。私のために怒ってくれる彼女は可愛いけれど、私は別に怒っていないのだ。


「私の代わりに怒って泣いてくれるのね。でも私はヴィオラム様のことを怒っていないの。だから泣き止んでちょうだい。一緒に温かい紅茶でもいただきましょう」

「姫様……」


 百合の花は違う侍女と一緒に花瓶に生けた。ちょうど終わった頃に紅茶を運んできたので、侍女達を誘って皆でお茶の時間にした。紅茶にはミルクをいれてもらって、甘い焼き菓子を口にした。食事があまり喉を通らなくて心配してくれていた侍女達が嬉しそうに私を見ている。


『ドレスを美しく着ることよりも好きなお菓子を食べて幸せそうな顔をしているそなたのほうが魅力的だ』


 何故かヴィオラム様の言葉を思い出した。魅力的だなんて言ってもらえたのは初めてで、思い出すだけで嬉しさと羞恥と寂寥にくれた。


「姫様、このクルミの入っている焼き菓子、とても美味しいですわ」

「そうね、料理長の作るお菓子はどれも美味しいわ」

「姫様、やけ食いしましょう」

「やけ食い? ってどういう……」

「凄く腹が立った時にするんです。普段、太っちゃうから食べないようにしているお菓子をお腹一杯食べるんです」

「ふふっ、そうね。皆も付き合ってくれる?」


 私が落ち込むのを自分のことのように泣いて怒って、私よりも嘆き悲しんでくれる皆と一緒に食べるのなら気が晴れるかもしれない。


「もちろんです!」


 お腹一杯お菓子を食べた。料理長が私をなぐさめようと色々作ってくれていたそうだ。テーブルはお菓子で溢れそうになった。


「ヴィオラム様は聖女様が落ちていらっしゃった時も私を庇ってくださって……。私を抱き上げてお部屋まで運んでくださったの。軽々運んでくださって……」


 紅茶にいれた香り付けのお酒のせいだろうか、気がついたらヴィオラム様がどんなに素敵だったのかと語ってしまった。

 喋りながら、ポロポロと涙が零れた。きっと、誰かに聞いて欲しかったのだ。どれだけ私がヴィオラム様を慕っているのか、どれだけ聖女様がいらっしゃって悲しいのか。胸をドキドキさせながらあの日を待っていたのか。

 私付きの侍女五人は涙ながらに聞いてくれた。食べ過ぎて若干顔色を悪くしながら解散した後、私は少しだけ後悔していた。今までこんな風に自分の気持ちを暴露したことなどなかった。貴族の子女として、王妃となる身として自分の気持ちを他人に聞いてもらうことなどなかった。


「こんなに楽になるなんて……」


 自分の気持ちに整理も付いたし、話したことで胸に飲み込んでいた熱の塊が溶けていった。


「もう王妃になることはないのだもの」


 少しくらい自分に素直になっても怒られないはずだ。

 食べ過ぎて苦しくて椅子にもたれていると眠くなってきた。自堕落だがこのまま眠ってしまおうかと思っていると、コンコンとノックして弟が入ってきた。


「エリック、まだどうぞって言ってませんよ」

「ティナ、泣いてたの?」


 一つ年下のエリックは、私と同じ緑の瞳を心配そうに曇らせた。


「泣いてません。エリック、アカデミーはどうしたの? 今日は休日ではないでしょう」

「アカデミーどころじゃないよ。一昨日から王宮に呼ばれてたんだ」


 まだ成人していないエリックは舞踏会に出ることができない。だから後日食事会で顔合わせをする予定だった。

 エリックは王都のアカデミーの寮に住んでいて、休日に家に帰ってくることが多い。


「王宮……に」

「行くよ、王宮に。逃げてちゃだめだよ」


 エリックは前に見たときよりも背が高くなっていた。


「エリック、また背が伸びたんじゃないかしら」

「そんなことどうでも――」

「私のかわりに伸びてるの? 私ももう少し背があったら……」


 言いたくないけれど、私はかなり小柄な部類に入る。まだまだ大きくなると信じていたけれど、そろそろ諦めないといけない年だ。


「小さくて可愛くていいじゃないか」

「エリックは他人事だから! エリックが私くらいだったら……。可愛い」


 エリックが私くらいの身長だったのは三年位前だ。まだあの頃は可愛かったのに。


「もう! 俺が可愛くても仕方ないでしょ。ティナと間違えられて攫われかけて……ぞっとする。俺、よく無事に操を守って来られたな」


 後半は一人でうんうんと頷いている。


「私だって――」

「ティナは間が悪いだけで運はいいんだよ」

「そうね、私、運は悪くないわよね」


 間が悪いのはしかたがない。けれど、運は悪くないのだ。


「このまま動かなかったら誰もティナが陛下を慕っていて、どれだけ結婚を楽しみにしていたか知らないままだよ。勝手にティナの気持ちを代弁して実は歳の差が十歳もあるから嫌だったとかお祖父様の命令で仕方がなかったんだとか言われるんだよ。ティナはそんなふうに言われて腹が立たないの」


 まさかと笑った。私の気持ちを知っている人はそれほど多くない。こういうことはおおっぴらにしてはいけないのだ。友達にも『お慕いしております』としか言っていないけれど、わかってくれていると思う。


「私は嫌だなんて一度も思った事は無いわ。お祖父様やエドモンド様に感謝しています。陛下でない他の方に嫁がなければいけないと思ったら修道女になろうかしらと思う位」


 エリックは、どこか遠くを見て「あー」と声を上げた。


「それをちゃんと伝えないと」


 年下なのに大人びた顔でエリックは私をたしなめた。


「でも今更そんなことを言っても……。聖女様がいらっしゃった後で無茶よ」

「無茶でも陛下は喜ぶと思うよ。本当に陛下に愛してるって言わなくていいの? 気持ち伝えないまま諦めて、後悔しない?」


 エリックなのに。いつの間にそんなことを考えられるようになったのかしら。


「エリック……は意地悪だわ」

「ティナがいいならいいよ」


 最後には自分で判断しろと突き放すところもエリックらしい。


「行くわ……。陛下にお伝えしたい――」


 言えるだろうか。どうにも自信がない。

 けれど、このまま黙っていることもできなくなった。このまま気持ちを抑えて生きていくのは辛すぎる。


「とりあえず王宮の騒ぎを収束するために来てほしい」

「わかったわ。私にできることなんてないと思うけど、陛下のために何かできることがあるのなら」

 

 エリックと私は馬車で城に戻った。お祖父様は毎日登城しているけれど、どうなっているのか私には一言もおっしゃらなかった。とりあえずお祖父様にお会いしてからどうするか決めることにした。


ブクマ、ありがとうございます。嬉しいです☆

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