表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラジエルライブラリの司書見習い  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
レファレンスNo.1 見習い司書、初めてのレファレンス
8/68

レファレンスNo.1 3

「はあ……。ほんと、どうしようかなぁ」


 次の日の朝、学校に登校したわたしは、自分の席に座って窓の外を(なが)めていた。

 ちなみにわたしの席は、窓際の最後列というベストプレイス。で、隣の席はこれまたうれしいことに、葵ちゃんだったりする。

 ――でも、今はそんな幸せを()()めることもできない。


「ああ、空が青いな……」


 机に頬杖(ほおづえ)をついて外を眺めると、青い空の中を綿菓子みたいな雲が次々と流れていった。

 頬をなでる風も(さわ)やかで過ごしやすい、初夏の陽気なんだけど……。


「それなのに、何でわたしの頭の中はこんなにも……。はあ……」


 外の清々しさとは裏腹に、わたしの頭の中はすっきりしない空模様。

 当然、原因はわかってる。

 司書見習いをやるかどうか、その答えが出ないからだ。


(おもしろそう、とは思うんだけど……。でも、司書になろうだなんて、考えたこともなかったしなぁ……。むむむ~)


 昨日からずっとこんな感じで、同じところを堂々巡りだ。

 とは言え、これは下手をすれば今後の人生を左右するかもしれない一大事。なかなか答えが出ないのも、やむなしと言えるだろう。


 だけど、このまま普段使わない頭を働かせ続けていると、そのうち知恵熱でも出てきそうな気がするよ。

 とほほ……。


「はあ……」



「どうかしたの? さっきから、空を眺めて溜息(ためいき)ばかりついているけど」



 三度目の溜息をついたところで、不意に隣の席から声をかけられた。

 振り返ってみると、葵ちゃんがいつもと同じ明るい笑顔でわたしのことを見ていた。

 わたしといっしょに登校してきた葵ちゃんは、日直の仕事で職員室に行っていたんだけど……。

 どうやら、わたしが気づかないうちに戻ってきていたようだ。


「ああ、葵ちゃん、お帰り。実は、ちょっと考え事をしててね。どうしたものかな~、って昨日からずっと考えていたの」


「そうなの? ――ああっ! それで登校中も何だか上の空だったんだね……。でも、『昨日からずっと』って、もしかして何か悩みごと?」


 昨日からずっと考え事をしていたと言ったら、途端に葵ちゃんが心配そうな顔で、わたしのことを見てきた。

 あわわ、これはまずい! 葵ちゃんを心配させちゃった。


「だ、大丈夫だよ、葵ちゃん。そんな大げさなものじゃないから。――まあ、ずっと考えていたから知恵熱出そうだけど……」


「そっか。それは大変だったね。よしよし」


 席を立った葵ちゃんが、わたしの頭を優しくなでなでしてくれる。

 ふにゃ~。とっても気持ちいいよ~。



 ……………………。


 

 ハッ! しまった! (なご)んでいる場合じゃなかった!


「もしよかったら、話くらい聞くよ?」


 わたしがコロコロと表情を入れ替えていると、葵ちゃんがそう言ってくれた。

 いや~、葵ちゃんの優しさが身にしみるね~。

 あまりの優しさに、思わず涙ぐんでしまうよ。ホロリ……。


 ここはお言葉に甘えて、お話を聞いてもらおうことにしよう! 正直、一人で悩むのにも飽きてきたところだし。


「ありがとう、葵ちゃん。それじゃあ、ちょっとだけお話聞いてほしいんだけど……。あのね、実は昨日、とある図書館で司書見習いをやってみないかって誘われたの。それで、そのお話を受けるか、ずっと考えてて……」


「それって、ボランティア活動みたいなもの?」


「うーん……。似たようなものかな」


 昨日あったことを、かいつまんで葵ちゃんに説明する。

 さすがに、世界の外側にある図書館とかは言わなかったけどね。

 ――変なことを言って、葵ちゃんに残念な子だなんて思われたら、わたしもう生きていけないし……。


「なるほどね。ふむふむ、司書見習いかぁ……。なんかおもしろそうだね!」


 わたしの話を聞いた葵ちゃんは、興味津々といった様子だ。目がとってもイキイキしている。

 まあ、葵ちゃんの感想には、わたしも同意なんだけどね。

 でもな~……。


「うん。確かにおもしろそうではあるんだけどね……」


「何か気になることでもあるの?」


 不思議そうに首を傾げた葵ちゃんに、コクリと頷く。


「わたし、今まで司書になりたいなんて考えたことなかったからね。どんなことをするのかもわからないし、楽しいのかなとか、わたしに務まるのかなとか考えちゃって」


 思うところを包み隠さず、葵ちゃんに話す。

 こうやって素直に何でも話せる親友がいるというのは、有り難いものだ。


「なるほど。確かにその不安は、もっともだよね。うーん、どうしたものかな……」


 わたしの気持ちを聞いて、まるで自分のことのように悩んでくれる葵ちゃん。

 わたしのためにこんなにも一生懸命になってくれるなんて、本当にこの子は――どれだけいい子なんだろう……。

 ――実は葵ちゃんって、人間の世界に降り立った天使か何かなんじゃなかろうか。

 もう感動のあまり、葵ちゃんに抱きつきたい衝動(しょうどう)()られてしまう。


「あ、そうだ!」


 と、わたしが抱きつき衝動でウズウズしている間に、葵ちゃんは何かいいアイデアを思いついたらしい。

 彼女は、ポンッ、と手を打ちながらわたしを見た。


「不安だったら、とりあえず一日だけ、仕事を体験させてもらったらどうかな?」


「体験?」


「そう! とりあえず一日だけ司書見習いをやらせてもらって、自分にできそうか、楽しそうかを試してみるの。これなら、詩織ちゃんの不安も全部解決できるんじゃないかな?」


「ああ、なるほど!」


 わたしも合点がいって、葵ちゃんと同じように手を、ポンッ、と打った。

 なるほど、なるほど。これは盲点だった。

 いわゆる、お試し体験というやつか。

 うん! 確かに、それはいいかも!


 と、わたしがうれしそうに「うんうん!」などと言いながら頷いていると、葵ちゃんもふわりとほほ笑みながら言葉を続けた。


「せっかく誘ってもらえたんだしね。本当にイヤっていうことじゃないなら、試してみてもいいんじゃないかな、って私は思うよ」


「そうだよね、葵ちゃん! ウジウジ考えてるなんて、わたしらしくないし。とにかくやってみろ、だよね!」


 なんだ、そっか! 簡単なことだったんだ!

 悩み過ぎて二進(にっち)三進(さっち)も行かなくなるくらいなら、とりあえず一歩を踏み出せばいい。

 後のことは、やってみてから考えればいいのだから。


「そうだよ。そっちの方が詩織ちゃんらしいと思うよ。頑張れ、詩織ちゃん!」


 わたしが「やるぞーっ!」と気合を入れていると、葵ちゃんも笑顔で応援してくれる。


「うん! わたし、やってみるよ。どうもありがとう、葵ちゃん!」


 やっぱり、葵ちゃんに話してよかった。

 葵ちゃんのおかげで、考え事もすっかり解決だ!

 心が晴れやかになったせいか、窓の外の空もさっきより明るく見えるね!


 そうと決まれば、善は急げ。

 放課後、早速もう一度あの図書館に行くことにしよう!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ