レファレンスNo.1 3
「はあ……。ほんと、どうしようかなぁ」
次の日の朝、学校に登校したわたしは、自分の席に座って窓の外を眺めていた。
ちなみにわたしの席は、窓際の最後列というベストプレイス。で、隣の席はこれまたうれしいことに、葵ちゃんだったりする。
――でも、今はそんな幸せを噛み締めることもできない。
「ああ、空が青いな……」
机に頬杖をついて外を眺めると、青い空の中を綿菓子みたいな雲が次々と流れていった。
頬をなでる風も爽やかで過ごしやすい、初夏の陽気なんだけど……。
「それなのに、何でわたしの頭の中はこんなにも……。はあ……」
外の清々しさとは裏腹に、わたしの頭の中はすっきりしない空模様。
当然、原因はわかってる。
司書見習いをやるかどうか、その答えが出ないからだ。
(おもしろそう、とは思うんだけど……。でも、司書になろうだなんて、考えたこともなかったしなぁ……。むむむ~)
昨日からずっとこんな感じで、同じところを堂々巡りだ。
とは言え、これは下手をすれば今後の人生を左右するかもしれない一大事。なかなか答えが出ないのも、やむなしと言えるだろう。
だけど、このまま普段使わない頭を働かせ続けていると、そのうち知恵熱でも出てきそうな気がするよ。
とほほ……。
「はあ……」
「どうかしたの? さっきから、空を眺めて溜息ばかりついているけど」
三度目の溜息をついたところで、不意に隣の席から声をかけられた。
振り返ってみると、葵ちゃんがいつもと同じ明るい笑顔でわたしのことを見ていた。
わたしといっしょに登校してきた葵ちゃんは、日直の仕事で職員室に行っていたんだけど……。
どうやら、わたしが気づかないうちに戻ってきていたようだ。
「ああ、葵ちゃん、お帰り。実は、ちょっと考え事をしててね。どうしたものかな~、って昨日からずっと考えていたの」
「そうなの? ――ああっ! それで登校中も何だか上の空だったんだね……。でも、『昨日からずっと』って、もしかして何か悩みごと?」
昨日からずっと考え事をしていたと言ったら、途端に葵ちゃんが心配そうな顔で、わたしのことを見てきた。
あわわ、これはまずい! 葵ちゃんを心配させちゃった。
「だ、大丈夫だよ、葵ちゃん。そんな大げさなものじゃないから。――まあ、ずっと考えていたから知恵熱出そうだけど……」
「そっか。それは大変だったね。よしよし」
席を立った葵ちゃんが、わたしの頭を優しくなでなでしてくれる。
ふにゃ~。とっても気持ちいいよ~。
……………………。
ハッ! しまった! 和んでいる場合じゃなかった!
「もしよかったら、話くらい聞くよ?」
わたしがコロコロと表情を入れ替えていると、葵ちゃんがそう言ってくれた。
いや~、葵ちゃんの優しさが身にしみるね~。
あまりの優しさに、思わず涙ぐんでしまうよ。ホロリ……。
ここはお言葉に甘えて、お話を聞いてもらおうことにしよう! 正直、一人で悩むのにも飽きてきたところだし。
「ありがとう、葵ちゃん。それじゃあ、ちょっとだけお話聞いてほしいんだけど……。あのね、実は昨日、とある図書館で司書見習いをやってみないかって誘われたの。それで、そのお話を受けるか、ずっと考えてて……」
「それって、ボランティア活動みたいなもの?」
「うーん……。似たようなものかな」
昨日あったことを、かいつまんで葵ちゃんに説明する。
さすがに、世界の外側にある図書館とかは言わなかったけどね。
――変なことを言って、葵ちゃんに残念な子だなんて思われたら、わたしもう生きていけないし……。
「なるほどね。ふむふむ、司書見習いかぁ……。なんかおもしろそうだね!」
わたしの話を聞いた葵ちゃんは、興味津々といった様子だ。目がとってもイキイキしている。
まあ、葵ちゃんの感想には、わたしも同意なんだけどね。
でもな~……。
「うん。確かにおもしろそうではあるんだけどね……」
「何か気になることでもあるの?」
不思議そうに首を傾げた葵ちゃんに、コクリと頷く。
「わたし、今まで司書になりたいなんて考えたことなかったからね。どんなことをするのかもわからないし、楽しいのかなとか、わたしに務まるのかなとか考えちゃって」
思うところを包み隠さず、葵ちゃんに話す。
こうやって素直に何でも話せる親友がいるというのは、有り難いものだ。
「なるほど。確かにその不安は、もっともだよね。うーん、どうしたものかな……」
わたしの気持ちを聞いて、まるで自分のことのように悩んでくれる葵ちゃん。
わたしのためにこんなにも一生懸命になってくれるなんて、本当にこの子は――どれだけいい子なんだろう……。
――実は葵ちゃんって、人間の世界に降り立った天使か何かなんじゃなかろうか。
もう感動のあまり、葵ちゃんに抱きつきたい衝動に駆られてしまう。
「あ、そうだ!」
と、わたしが抱きつき衝動でウズウズしている間に、葵ちゃんは何かいいアイデアを思いついたらしい。
彼女は、ポンッ、と手を打ちながらわたしを見た。
「不安だったら、とりあえず一日だけ、仕事を体験させてもらったらどうかな?」
「体験?」
「そう! とりあえず一日だけ司書見習いをやらせてもらって、自分にできそうか、楽しそうかを試してみるの。これなら、詩織ちゃんの不安も全部解決できるんじゃないかな?」
「ああ、なるほど!」
わたしも合点がいって、葵ちゃんと同じように手を、ポンッ、と打った。
なるほど、なるほど。これは盲点だった。
いわゆる、お試し体験というやつか。
うん! 確かに、それはいいかも!
と、わたしがうれしそうに「うんうん!」などと言いながら頷いていると、葵ちゃんもふわりとほほ笑みながら言葉を続けた。
「せっかく誘ってもらえたんだしね。本当にイヤっていうことじゃないなら、試してみてもいいんじゃないかな、って私は思うよ」
「そうだよね、葵ちゃん! ウジウジ考えてるなんて、わたしらしくないし。とにかくやってみろ、だよね!」
なんだ、そっか! 簡単なことだったんだ!
悩み過ぎて二進も三進も行かなくなるくらいなら、とりあえず一歩を踏み出せばいい。
後のことは、やってみてから考えればいいのだから。
「そうだよ。そっちの方が詩織ちゃんらしいと思うよ。頑張れ、詩織ちゃん!」
わたしが「やるぞーっ!」と気合を入れていると、葵ちゃんも笑顔で応援してくれる。
「うん! わたし、やってみるよ。どうもありがとう、葵ちゃん!」
やっぱり、葵ちゃんに話してよかった。
葵ちゃんのおかげで、考え事もすっかり解決だ!
心が晴れやかになったせいか、窓の外の空もさっきより明るく見えるね!
そうと決まれば、善は急げ。
放課後、早速もう一度あの図書館に行くことにしよう!




