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ラジエルライブラリの司書見習い  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
レファレンスNo.3 見習い司書とつながる絆
52/68

レファレンスNo.3 5-1

「わあ、すっごーい! ぼくたち、ほんとうにとんでるよ、アン!」


「ほんとだ! はやいはやい!」


 空飛ぶ絨毯(じゅうたん)の上で、キンタ君とアンちゃんが目を(かがや)かせながらはしゃぎ回る。

 アンちゃんも書庫を飛び始めた辺りから、しゃべる時にどもらなくなったね。空飛ぶ絨毯の効果(こうか)で、少しは緊張(きんちょう)が解けたってことかな?

 うんうん、いい感じだね!

 そういえば、わたしも最初に乗った時はこんな感じだったなぁ。はじめて空を飛ぶ感覚が新鮮(しんせん)で、思わずワクワクと……。

 ――って! つまり、わたしの精神年齢(せいしんねんれい)はこの子達と同じということ? 

 な、なんてこと! わたしの精神年齢が小学校低学年並だなんて……。――うぅ。微妙にショックかも。

 ま、まあ、わたしは幼子のように純真(じゅんしん)な心を持ち続けているんだと思っておくことにしよう。そうしよう! ――そうでも思わないと……つらい。


「キンタ君、アンちゃん! 二人とも、危ないからあまりはしゃぎ過ぎちゃダメだよぉ!」


「はーい!」


「おとなしくしてまーす!」


 わたしの横に座っている葵ちゃんが、はしゃぎ回る二人に言い聞かせる。

 すると、キンタ君とアンちゃんも大人しく言うことを聞き、葵ちゃんの両隣(りょうどなり)に座った。

 あはは。葵ちゃん、二人のすっかりのお姉ちゃんって感じだね。


「あ、そうそう。ちょっと気になっていたんだけど……、キンタ君さっき、お化けとして半人前みたいなこと言っていたよね。どうして半人前なの?」


 飛んでいる間は、特にやることもない。そこで雑談がてら、気になっていたことを聞いてみることにした。

 突然に質問に、キンタ君は少しきょとんとした様子。

 だけど、すぐに『ああ、そのことか』といった面持ちで教えてくれた。


「ぼくとアンは、おばけとして生まれたばっかりなんです。それで、まだまだ知らないことも多いから『はんにんまえ』だ、ってぬしさまが言ってました」


「へえ……。ねえ、お化けってどうやって生まれてくるの?」


「おばけの生まれかたですか? えーと、ぼくやアンは子どもたちのうわさから生まれたって聞きました」


「うわさ? うわさって怪談(かいだん)のこと?」


 わたしが人差し指を口元に当てながら首を傾げると、キンタ君と花ちゃんはこぞって自分達の出自を話し出した。


「そうだよ! あたしは、『家庭科室になぜか置かれているアンティークドールが、夜な夜な動き出す』っていううわさから生まれたおばけなんだよ」


「ぼくは『美術室に置かれた模写(もしゃ)用の二宮金次郎像が、夜の図書室で本を読んでいる』っていううわさがもとになっているそうです。『二宮金太郎』っていうのも子どもたちがつけてくれたあだ名なんですよ!」


「へえ、そうなんだ。お化けって、そうやって生まれるんだね。知らなかったよ」


 うわさ――怪談から生まれ出るお化け達、か……。お化けがいるから怪談が生まれるわけじゃないんだね。

 いやはや、いろんな生まれを持った人達がいるもんだ。――あ、人じゃないか。

 それにしても……。


「それにしても、知らないことも多いから半人前かぁ。じゃあ、二人ともわたしと同じだね」


「『わたしと同じ』って、しおりお姉ちゃんも『はんにんまえ』なの?」


 アンちゃんがさっきのわたしよろしく、首を(かし)げながら聞いてくる。

 だからわたしも「うん」と頷きながら、アンちゃんの問いかけに答えた。


「そうだよ。まあ、わたしの場合は見習いだけどね。二人と同じでまだまだ知らないことが多いから、さっきのお兄さん達みたいな一人前の司書になるために頑張っているの」


「そうなんだぁ。――ねえ、しおりお姉さん。ぼくたちもがんばったら『いちにんまえ』になれるかな?」


「もちろん! きっとなれるよ。だから、みんなで一人前になれるように頑張ろう!」


『オーッ!』


 キンタ君やアンちゃんといっしょに、こぶしを突き上げ気勢(きせい)を上げる。

 いやー、なんかこの子達とは精神的な波長がよく合っている気がするね。


(――って、自分で精神年齢が低いことを認めてしまった!)


 思わず心の中で、『ウガーッ』と頭を抱える。

 するとその時、書庫を見回していた葵ちゃんが、不意に私の方を見てこう言った。


「詩織ちゃん、ここの書庫って本当にすごいね。これだけ移動しているのに、詩織ちゃんの言っていた通り、全然(はし)が見えない。館長さんが『はぐれないように』って言っていたのもよくわかるよ」


 葵ちゃんの言葉を聞いた瞬間、わたしは自分のテンションがグンと上がるのを感じた。その勢いで、心の中で頭を抱えていたことなんて、あっという間にどこかに吹っ飛んでしまう。

 理由は単純。この図書館のことを葵ちゃんにすごいと言ってもらえたことが、自分で考えていた以上にうれしかったのだ。

 テンションマックスになったわたしは、上機嫌(じょうきげん)で葵ちゃんに「だよね~」と返事をして、水を得た魚のようにイキイキと話し始めた。


「うんうん。わたしも初めて見た時は、本当にびっくりしたよ。他にもね、体育館みたいに広いレクリエーションルームとかもあるんだよ!」


「そうなの? なんかこの図書館にいると、おとぎ話の中に入ったみたい。本当におもしろいところだね、ここは」


「うん! この図書館は、いつ来ても新しい発見があるよ。きっと、わたしが知らないこともまだまだたくさんあると思う」


 声を(はず)ませ、大袈裟(おおげさ)に身ぶり手ぶりを交えながら、今まで勉強したこの図書館のことを次々と話していく。もう話したいことがたくさんありすぎて、言葉が湯水(ゆみず)のように出てくる感じだ。

 ただ、思いつくままマシンガンのように話していたから、内容にまとまりがなくて、正直何が言いたいのかよくわからなかっただろう。でも、葵ちゃん達はわたしの話に、時に相槌(あいづち)を打ち、時に質問をくれたりしながら、ずっと付き合ってくれた。


「――なんだって!」


「ふふふ。詩織ちゃん、本当に楽しそうだね」


 話の区切りがついたところで、唐突(とうとつ)に葵ちゃんが優しい笑顔をうかべて、そう言った。

 急にそんなことを言われて、わたしは照れくさいやら()ずかしいやら。ともかく顔を真っ赤にしたわたしは、ふにゃりと表情を(ゆる)めて(ほお)()いた。


「えへへ、そうかな? わたし、そんなに楽しそう?」


「うん! なんか今の詩織ちゃん、学校にいる時よりも輝いて見えるもん。仕事に一生懸命(いっしょうけんめい)な人の顔っていうのかな。すごく素敵(すてき)に見えるよ」


「そっか……。――ありがとう、葵ちゃん! そんな風に言ってもらえると、すごくうれしいよ!」


 いつもわたしの隣にいてくれた親友。

 わたしが生まれて初めて憧れを抱いた女の子。

 そんな人から『素敵』と言ってもらえて、胸がじんわりと熱くなる。


「わたしね、さっき葵ちゃんにこの書庫がすごいと言ってもらえてすごくうれしかったの。それだけ、わたしはこの図書館と司書見習いって仕事が好きなんだって、改めて気がついた。――葵ちゃんの言うように、わたしが輝いて見えるとしたら、一生懸命になれているのだとしたら、それは司書見習いって仕事と出会えたおかげだと思う!」


 自分の言葉に嘘偽(うそいつわ)りがないという思いを込め、葵ちゃんに自信を持って答える。

 そんなわたしを見て、葵ちゃんがどこかまぶしそうな顔をした。

 どうして葵ちゃんがそんな表情をしたのか。その意味を考えていると、葵ちゃんはすぐに元の笑顔に戻って言葉を続けた。


「そうなんだ。――なんか、詩織ちゃんがうらやましいよ。それだけ一生懸命になれるものと出会えるなんて。私にはまだ、そういうものがないから……」


「大丈夫! 葵ちゃんなら絶対、夢中になれることを見つけられる。わたしが保証(ほしょう)するよ!」


「うん、そうだね。私も詩織ちゃんに負けないように頑張るよ!」


 わたしが自信を持って力強く言うと、葵ちゃんは温かな微笑(ほほえ)みで(うなず)くのだった。


「――あ、そうだ。話が変わるけど、詩織ちゃん。こんなにたくさんある本の中から、どうやって目的の本を探すの?」


「うんとね、このコンパスを使うんだよ! このコンパスを持って、探している本をイメージすると、本のところまで案内してくれるの」


 話題を変えた葵ちゃんに、手に持ったコンパスを見せながら使い方を説明する。

 いつもは私の方が葵ちゃんに色々と教えてもらっている立場なので、何とも新鮮な気分だ。


「へぇ、この空飛ぶ絨毯といい、便利だね」


「そうでもないよ。イメージがしっかりしてないと、本を上手に探せないの。とっても扱いが難しいアイテムなんだよね、これ」


「なるほど。正に司書のためのアイテムってわけだね。――で、今はどんな本を探しているの?」


「ええと、まずは神社の歴史やタイムスリップできる勾玉について書かれた本を探してみようと思うの。やっぱり、勾玉のことをはっきりさせた方がいいと思うからね」


「そっか。……うん、わたしもそれがいいと思う」


 葵ちゃんが納得した顔で首を(たて)に振る。

 よし! 葵ちゃんの賛成してくれたし、張り切って探索続行だ。

 レッツゴー!


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