レファレンスNo.3 4-3
「さて、それでは早速、本を探しに行くとしましょうか。――詩織さん、行きますよ」
「了解です、立川さん!」
立川さんが空飛ぶ絨毯の準備を始めたので、わたしはカウンターからコンパスの入った巾着袋を取り出す。
道具の準備が完了し、いつも通り一礼をして書庫へレッツゴー!
――と思ったら、葵ちゃんがおずおずと手を上げながらわたし達に言った。
「あの、御迷惑でなければ、私も付いて行っていいでしょうか? できることなら、私も本を探すお手伝いしたいのですが……」
「ふむ……。――別に構わないぞ。書庫へ本を取りに行くのに、利用者を伴ってはいけないという規則はないからな。さっき、そこの見習いが書庫を案内すると約束していたことだし、行ってくるといい」
「本当ですか、館長さん!」
「ただ、絶対にこいつらとはぐれないようにしろよ。――最悪、書庫の中で遭難するからな」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
エノク君から許可をもらい、葵ちゃんが嬉しそうにお礼を言う。
よーし! 話もまとまったし、それじゃあ三人で、出発進行!
――とは、またしてもいかなかった(何か今日は、こんなのばっかりだね)。
「アオちゃんがいくなら、ぼくもいきたいです!」
「あ、あたし、も」
何と、キンタ君とアンちゃんも「行きたい!」と言って、手を上げ始めたのだ。
まあ、葵ちゃんが行くと言うなら、二人も行きたいって言うに決まっているか。
仕方がない。それじゃあ五人で……、と思ったのだけど、そこで立川さんが思案顔になってしまった。
うん? どうしたんだろう……?
「ふむ……。そうなると、少々定員オーバーですね。――わかりました。では、私はここに残りますので、本の探索と皆さんの案内を頼みますよ、詩織さん」
不思議に思って様子を窺っていたら、立川さんが言葉とともにわたしの肩をポンと叩いた。
えっ! ちょっと待ってください、立川さん。それってつまり……。
「ふぇ? それって、わたしと葵ちゃん達だけで行って来いってことですか?」
「はい、その通りです。頑張ってくださいね、詩織さん」
「ふぇええええ!」
突然のことに、思わず変な声を上げてしまう。
まさか、わたし一人でみんなを案内しながら、さらに本を探すことになるなんて、まったくの想定外だよ!
葵ちゃん達を書庫への扉の前で待たせたまま、わたしは立川さんに向かって小声で話を続けた。
「ここは、立川さんが行った方が良くありませんか? その、色々と……」
「先程、館長も言っていた通り、詩織さんには様々なレファレンスを体験してほしいですからね。ここは詩織さんにお任せしてみようと思います。それに、葵さんも気心知れたあなたといた方が緊張せずにすむでしょう」
「た、確かにそうかもしれませんが……」
立川さんが言うことは、すべてもっともだ。
それに、わたしだって葵ちゃん達の役に立ちたいという思いはある。それは絶対に嘘じゃない。
(でも……)
立川さんに「頼みますよ」と言われた瞬間、不意に頭をよぎってしまったのだ。――デューイさんのレファレンスで、大失敗した時の記憶が……。
葵ちゃんに情けない姿を見せたくない。期待を裏切りたくない。
そんな絶対に失敗したくないという思いが強くなるほど、比例するようにあの記憶が頭を満たしていき、及び腰になってしまう。
(わたし一人で、本当に大丈夫なのかな……)
いやな記憶を振り払い切れず、思わずギュッと目をつぶる。
すると、その時だ。
立川さんがもう一回、オロオロするわたしの肩を軽く叩いた。
「心配しなくても大丈夫ですよ。詩織さんは、御自身で思っている以上にしっかりしていますし、努力を重ねています。そんな詩織さんが、前のような失敗を繰り返すはずありません。――ですから、まずは利用者さん達といっしょに頑張ってみてください」
わたしの心情を察した立川さんが、安心させるように笑いかけてくれる。
さらに、すべてお見通しといった表情で、エノク君がわたしの前に立った。
「前に言ってやったことを忘れたか? 万が一、お前がミスをしたら、オレ達が全力でカバーしてやる。お前はいつも通り、利用者のことだけ考えて突っ走ってこればいい」
「立川さん……。エノク君……」
二人の顔を見回す。彼らの顔に宿っていたのは、信頼と『やってみろ!』というエールだった。
(……うん! 二人にここまで言ってもらって、「やれません」なんて言えないよね!)
いつまでも前の失敗を引きずっているわけにもいかない。今より前に進むためには、恐れずに一歩を踏み出さなきゃ!
そう自分に言い聞かせ、わたしはガッツポーズをしながら、立川さんとエノク君を見た。
「わかりました。わたし、頑張ります!」
「ハハハ。意気込みすぎて、逆に緊張するなよ~」
いつもの調子に戻って茶化すようにエノク君が言う。これも、わたしの緊張をほぐそうとしての冗談だろう。だからわたしも、「任せてよ!」と笑顔でウィンクをしながら返事をした。
「じゃあ二人とも、行ってきます!」
「はい。行ってらっしゃい、詩織さん」
「おう! 行って来い!」
強気の笑顔で二人に頷き、わたしは書庫への扉の前で待っていた三人のところへ行く。
「お待たせ、みんな。それじゃあ、張り切って本を探しましょう!」
三人に向かってそう言ったわたしは、力強く書庫への扉を開いた――。




