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ラジエルライブラリの司書見習い  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
レファレンスNo.3 見習い司書とつながる絆
47/68

レファレンスNo.3 2

 ――わたしが司書見習いになって、およそ一年弱。三月も半ばを過ぎ、本格的な春の足音を感じる季節になった。

 そして今日は……待望の小等部卒業式! 小等部のラスボス・中等部への進級テストとの三日間に渡る戦いをくぐり抜け、伏兵・追試テストの猛攻(もうこう)(かわ)し切ったわたしは、ようやくこの日を迎えたのだ! (ちなみに、ほぼみんな持ち上がりで中等部に行くだけなので、俗に言う卒業式の感動というものはほとんどない。宿題まであるくらいだしね)


「フンフンフ~ン♪ 明日から、待ちに待った春休みだよ! 楽しみだね、(あおい)ちゃん!」


 帰りのホームルームが終わり、いつものように隣の席の葵ちゃんに話しかける。

気分は早くも楽しい楽しい春休みモードに突入しており、鼻歌まじりで声のトーンもいつもより高めだ。

 で、わたしとしては、葵ちゃんも明日から始まる春休みに心をときめかせているだろうと思ったのだけれど……。

 隣の席から返ってきた答えは、わたしが思っていたのとはかなり違うものだった。


「え? あ、うん……。そうだね。楽しみだなぁ……。あはは……」


 葵ちゃんから返ってきた、何とも歯切れの悪い返事。

 不思議に思って葵ちゃんの顔をのぞき込むと、浮かれ気味のわたしとは対照的に、葵ちゃんは言葉と同じく曖昧な笑みを浮かべていた。

 葵ちゃん、どうしたんだろう? 何だか心ここにあらずって感じだね。


(うーん、そういえば……)


 算数と英語の追試に四苦八苦していた所為で気づくのが遅れたけど……、ここ数日、葵ちゃんはずっとこんな調子だった気がする。

 話しかけても、いつも上の空って感じで……。

 ――少し前までかなり寒かったから、風邪(かぜ)でも引いちゃったのかな? 


「葵ちゃん、どうかしたの? 最近ずっと、元気がなかったみたいだけど。体調でも悪いの?」


「ううん。そんなことないよ。ほら、私はこの通り元気だから……」


 葵ちゃんが取り繕ったような笑顔で、パタパタと手を振る。

 ふむふむ。これは……風邪じゃないね。葵ちゃんのこの表情は、何か思い悩んでいる時のものだ。

 葵ちゃんは自分がつらい時ほど、周りに心配かけるまいと無意識に努めてしまうような子だからね。だから、本当に困っている時の葵ちゃんは普段以上に優しい、だけどどこかぎこちない表情になってしまうんだ。

 そう。まさに今、わたしに見せているような……。

 ――よし! ここは……。


「葵ちゃん!」


「は、はい!」


 急に大きな声を出したわたしに、葵ちゃんがびっくりした様子で目を見開く。

 その姿をかわいいと思いつつ、わたしは自分の両手で包み込むように彼女の手を握った。


「葵ちゃん! 葵ちゃんがもし困っているなら、わたしは親友として、見て見ぬ振りなんてしたくない。――いつも葵ちゃんがわたしにしてくれるように、わたしも葵ちゃんの力になりたいよ」


 真摯(しんし)な瞳で葵ちゃんの目を見つめる。

 わたしも図書館の仕事と勉強で、日々鍛えているからね。以前のわたしとは一味違うというものだ。今のわたしなら、葵ちゃんの力にだってきっとなれるはず!


「わたしだって、たまには葵ちゃんの役に立てるってところを見せてあげるんだから! もちろん、葵ちゃんの迷惑じゃなければだけど」


 そう言ってわたしは、葵ちゃんにニッコリと力強く笑いかけた。

 力説するわたしを見て、ポカンとした表情のまま目を(しばた)かせる葵ちゃん。

 その表情が、次第に柔らかくなっていった。


「そっか……。やっぱり、詩織(しおり)ちゃんに隠し事はできないね」


 わたしの思いが通じたのか、葵ちゃんがようやくいつもの穏やかな笑みを見せてくれた。

 見ているこちらまで安らかな気持ちにさせてくれる、葵ちゃんの笑顔。わたしの好きな顔だ。


「詩織ちゃん、心配してくれてありがとう。すごくうれしいし、とても心強いよ!」


「なんの、なんの! これくらい、お安い御用だよ」


 だけど、それにホッと一安心したのも束の間。

 葵ちゃんはすぐに申し訳なさそうな顔になり、わたしに向かって手を合わせた。


「だけど……ごめんね。本当はすぐにでも相談に乗ってほしいところだけど、それは私の一存で決められないんだ。だから、今すぐこの場で、詩織ちゃんに話しちゃうわけにはいかないの」


 ん? 『私の一存では決められない』ってことは、葵ちゃんの悩みごとは葵ちゃん一人で抱えているものじゃないってこと?

 うーん……。確かにそれだと、おいそれと部外者であるわたしに相談できないか……。


「別に謝ることないよ。そういう事情なら、簡単に話せないのは仕方がないことだしね」


「うん。――だからね、みんなの許可を取ってから話を聞いてもらってもいいかな?」


 おずおずといった様子で、わたしにそう聞く葵ちゃん。

 対してわたしは、パアッと目を輝かせて、葵ちゃんに大きく何度も頷いた。


「もちろんだよ! 葵ちゃんからの相談なら、わたしはいつでもウェルカムだからね。どんな時だって必ず時間を作るから、都合が良くなったら連絡してよ!」


「あはは。ありがとう。それじゃあ、今夜にでも電話するね」


「了解! 待ってるよ!」


 葵ちゃんに向かって、グッとサムズアップする。

 そんなわたしを見て、葵ちゃんも「うん!」とはにかみながら返事をした。


「じゃあ私、今日はこれで帰るね。バイバイ、詩織ちゃん」


「バイバイ、葵ちゃん!」


 葵ちゃんが教室から出ていくのを、元気に手を振って見送る。

 さてと! わたしも図書館に行って、司書見習いの勉強に励むとしますか。

 通知表と春休みの宿題しか入っていないカバンを手に持ち、わたしは張り切ってラジエルライブラリへと向かった。



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