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ラジエルライブラリの司書見習い  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
レファレンスNo.2 見習い司書の元気の素探し
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レファレンスNo.2 9-2

 わたしが閲覧室に戻ると、程なくして入り口の扉が開き、デューイさんが顔をのぞかせた。


「こんばんは、詩織さん。今日は、よろしくお願いします」


「こんばんは、デューイさん。こちらこそ、よろしくお願いします」


 ペコペコと頭を下げ合うわたしとデューイさん。一通りあいさつも済んだところで、デューイさんが招くように扉の先を指し示した。


「それでは、こちらへどうぞ」


「はい。――お邪魔します」


 デューイさんに続いて、入り口の扉をくぐる。それと同時に、消毒液のにおいがわたしの鼻を突いた。

 そう……。わたし達がくぐった扉の先にあったのは、文香ちゃんの病室だ。


(あの子が、文香ちゃん……)


 文香ちゃんの病室は個室だった。部屋の奥にただ一つ置かれているベッドに女の子――文香ちゃんが寝ている。

 近寄って見てみれば、文香ちゃんは髪を肩の辺りで切り揃えた、とてもかわいらしい女の子だった。


「では、文香ちゃんを起こしてきますので、ちょっと待っていてください」


 そう言ったデューイさんが、文香ちゃんのベッドによじ登る。

 文香ちゃんの枕元に立ったデューイさんは、丸くて柔らかい手で彼女のほっぺをポンポンと叩き始めた。


「文香ちゃん、起きて、起きて!」


 うわっ、やばい! 今のデューイさん、すごくかわいい。わたしもあんな風に起こされてみたい!

 ――って、危ない、危ない……。もう少しで、変な世界にトリップしてしまうところだった。


「うーん……。な~に……?」


「おはよう、文香ちゃん」


 しばらくデューイさんがポンポンしていると、文香ちゃんが目を覚ました。

 文香ちゃんは大きな目を眠たそうにパチパチさせて、自分に話しかけてくるデューイさんを不思議そうに見つめた。


「あれ? デューイが……しゃべってる? どうして?」


「それはね、ここが文香ちゃんの夢の中だからだよ。夢の中だから、ぼくもしゃべれるし動けるんだ!」


 デューイさんが言った設定は、予め決めておいたことだ。

 漫才案を出したときにエノク君が言っていた、『いかに怖がられたり、怪しまれたりしないようにするか』に対するわたしの答え。それが、この夢の中設定だ。

 二度目にデューイさんが来館した時に確認してみたところ、わたしの思った通り。文香ちゃんは、デューイさんが動いたりしゃべったりできることを知らないとのことだった。

 なので、今回はそれを利用させてもらうことにしたというわけだ。

 寝ている文香ちゃんをデューイさんに起こしてもらうことで、文香ちゃんに『これは現実ではありえない』と思ってもらう。これがわたしの考えた作戦だった。

 後は、その作戦がうまくいくかどうかだけど……。


「最近、文香ちゃんがずっとしょんぼりしていたからさ。少しでも元気になってもらおうと思って、夢の中に出てきたんだよ」


「そうだったんだ……。――しんぱいさせちゃってごめんね、デューイ」


 やった! 半分まどろんでいる中でデューイさんがしゃべるところを見たせいか、文香ちゃんもうまい具合に信じてくれたみたい。今のところ夢の中という状況に疑問を持っているようには見えないし、まずは最初の関門クリアだ。


「気にしないで、文香ちゃん。それでね、今日は文香ちゃんの元気が出るように、楽しいイベントをすることにしたんだ! ――聞いてよ、文香ちゃん。いろんな人達が、ぼくや文香ちゃんのために力を貸してくれたんだよ!」


「いろんな人たち?」


「うん、そうだよ! ほら、あそこに!」


 勢い良く頷いたデューイさんが、わたしの方を振り返る。

 それに釣られたように文香ちゃんもこちらを見たので、わたしも精一杯の笑顔を浮かべながら挨拶をした。


「はじめまして、文香ちゃん。わたしはラジエルライブラリっていう不思議な図書館の司書見習いで、神田詩織といいます。デューイさんに頼まれて、お手伝いをさせてもらっています」


「あ、ええと……。は、はじめまして、平田(ひらた)文香(ふみか)です……」


「今日は、わたしも一生懸命頑張ります。だから、思いっきり楽しんでもらえるとうれしいです!」


「ええと、ええと……」


 うっ! 何だかヤバい気配。

 意気込んで捲し立てるように言ったら、文香ちゃんは目を白黒させてしまった。

 これは、ちょっとがっつき過ぎたかもしれない。文香ちゃん、どう反応していいのか困っている感じだ。……って、あれ? もしかしてこれ、わたしがいた所為で夢でないことがばれるっていうフラグなんじゃあ……。


(なんだろう。ちょっと嫌な予感がしてきたよ。あ……、背中を冷たい汗が……)


 計画がすべて崩れ去りそうな予感に、ダラダラと冷や汗をかき始めたわたし。

 するとその時、わたしの登場に困惑する文香ちゃんの手を握り、デューイさんがフワリと微笑んだ。


「文香ちゃん……。ぼくは文香ちゃんと、また一緒に遊びたい。一緒にいろんなところへ行きたい。だから、リハビリを乗り越えられるように、今日は思いっきり楽しもうよ!」


「デューイ……」

 

 デューイさんとしては、ただ戸惑っている文香ちゃんを見ていられなかっただけなのかもしれない。

 でも、デューイさんのおかげで、文香ちゃんの顔から混乱の色が消えた。――ううん、それだけじゃない。デューイさんが言葉に乗せた思いは、文香ちゃんの心へ光を届けた。


「――うん、そうだよね。わたしもまた、デューイとあそびたいもん。それなのに、いつまでもしょんぼりしてちゃ、ダメだよね!」


 そう言って、文香ちゃんもデューイさんへ柔らかな笑みを見せる。

 おおっ! やっと文香ちゃんが笑ってくれた。

 文香ちゃんは普通にしててもかわいいけど、笑っている方が百倍かわいいね!

 デューイさんも久しぶりに見た文香ちゃんの笑顔に、より一層笑みを深めていた。


「ねえデューイ、『たのしいイベント』って、なにやるの?」


「それは行ってからのお楽しみだよ、文香ちゃん!」


「そうなの? それじゃあ、すぐにいこうよ!」


 文香ちゃんも乗り気になってきたのか、ウキウキし始めていた。

 もう夢の中かどうかなんて細かいこと、気にしていない感じだ。

 ……ふう。良かった、良かった。自分で作戦ぶち壊すような事態にならなくて……。


「それじゃあ、ここからはわたしがご案内しますね」


「はい! おねえちゃん、よろしくおねがいします!」


 文香ちゃんを車いすに乗せ、図書館への扉をくぐる。ちなみにデューイさんは、文香ちゃんのひざの上だ。

 閲覧室から書庫に入ったわたし達は、空飛ぶ絨毯でレクリエーションルームへ向かった。


「わあ、すごい! 空をとんでるよ、デューイ!」


「うん! ほら見てよ、文香ちゃん。下の方で本棚が、どんどん後ろへ流れていくよ。すごいスピードだ!」


 空飛ぶ絨毯の上で、文香ちゃんとデューイさんが興味深そうにキョロキョロと辺りを見回す。二人とも、とても楽しそうだね。

 出だしは好調。いい感じ、いい感じ!

 よーし! このまま張り切って、文香ちゃんをおもてなしするとしよう。ファイトだ、わたし!


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