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ラジエルライブラリの司書見習い  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
レファレンスNo.2 見習い司書の元気の素探し
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レファレンスNo.2 8-1

 その後は始業式の間中、ずっとソワソワしっぱなし。眠気がすっかり吹っ飛んでしまったわたしは、時計に向かって早く放課後になれと念じながら過ごした。

 おかげでせっかく居眠りせずに済んだというのに、「注意力散漫(さんまん)だ!」と先生に怒られてしまいましたよ。とほほ……。

 しか~し! そのくらいのことで、今日のわたしはめげないのです。

 先生の説教をのらりくらりと聞き流し、大人しく本日の予定をこなしていく。

 そして……、



 ――キーンコーンカーンコーン!



「よっしゃー! いっくぞーっ!」


 遂に、待ちに待った放課後。

 ホームルームが終わると、わたしは矢のように教室から飛び出し、図書館へ直行した。


「エノク君、立川さん。わたし、わかりました!」

 

 バンッ、と勢いよく入口の扉を開けながら、声を張り上げる。

 閲覧室に入ると、急に何事かというびっくり顔で、エノク君と立川さんがこちらを見ていた。

 だけど、わたしの顔を見た二人の表情は、すぐに驚きから得心した笑みへと変わっていった。


「その顔……。どうやら、何かしらの結論を出せたようだな?」


 わたしの顔を見たエノク君が、確信に満ちた様子で話しかけてくる。

 だからわたしも、その問いかけに対して自信を持って力強く答えた。


「うん! 立川さんと……、大切な親友のアドバイスのおかげで、何とか答えが出せたよ」


「そうですか。――よく頑張りましたね、詩織さん」


「はい! ありがとうございます、立川さん」

 

 立川さんがわたしを見て、優しく目を細める。まるで我がことのように喜んでくれるその姿に、諦めないで良かったという思いがこみ上げてきた。

 だけど……、


「だけどまだですよ、立川さん。まだ、わたしのレファレンスが、デューイさんの満足する結果を出せたわけではありません。本当に頑張るのは、これからです!」


「ほほう。ちゃんとわかっているではないか、見習い。目的を見失っていないようで、何よりだ」


「もちろんだよ、エノク君」


 ニヤリと笑うエノク君へ、パチリとウィンクする。

 そう。わたしはまだ、レファレンスを成功させたわけではない。本当の本番は、これから始まるのだ。


「では早速、お前のアイデアを聞かせてもらおうか。まず、お前は立川と友人のアドバイスをもとに、どのような方向へ考え方を修正した?」

 

 館長モードになったエノク君が、凛とした(たたず)まいでわたしに尋ねる。

 わたしも居住まいを正し、エノク君――館長(・・)の問いかけに答えていった。


「はい。――まずわたしは、二つ勘違いをしていました。一つ目はデューイさんが本当に求めていたものが、何だったかということ。デューイさんが求めていたのは文香ちゃんを元気づける『方法』ではありませんでした。デューイさんが本当に求めていたのは、明るく前向きになった文香ちゃんそのもの。『方法』という言葉にこだわる必要は、最初からなかったんです」

 

 そこまで言ったわたしは一度言葉を切り、立川さんの方を振り向く。

 わたしの視線の先で、立川さんはいつもと同じ穏やかな表情のまま、わたしの言葉を待っていた。


「立川さんのアドバイスのおかげで、勘違(かんちが)いに気がつけました。どうもありがとうございました」


「いえいえ。そこに気づけたのは、あなた自身の力ですよ。詩織さん、よくできました」

 

 立川さんが、パチパチと拍手をしながら褒めてくれる。

 わたしはうれしさに頬を赤く染めながら、エノク君に向かって話を続けた。


「二つ目の勘違いは、本というものがそもそもどういうものだったかということです。わたしの友達が気づかせてくれました。本は、それ自体がエンターテインメントです。わざわざ『元気づける方法』が載っている本なんて、回りくどいものを探す必要はない。文香ちゃんが思わず元気になってしまうような、楽しい本を探せばいいんです」


 少し熱っぽくなりながらも、わたしは自分が考えてきたことを一つ一つ、しっかり言葉へと変えていく。

 その言葉をすべて受け止めてくれたエノク君は、鷹揚(おうよう)に頷きながら、わたしへさらに問いを重ねた。


「なるほどな。お前が自分の間違いに気づいたことはよくわかった。――それで? そこに気がついたお前は、デューイにどんな本を提供する?」

 

 わたしの考えを一通り聞き終え、エノク君が結論を求める。

 だけど、わたしにはその前に一つ、やらなければ――いや、聞かなければいけないことがあった。


「それについてなんだけど……。エノク君にちょっと聞きたいことがあります」

 

 ちょっと失礼だけど、エノク君の質問に、わたしも質問で返す。

 わたしの改まった物言いがよほど意外だったのか、エノク君が面食らった顔になった。


「ふむ。まあ、オレに答えられることなら、いくらでも答えてやる。言ってみろ」

 

 エノク君に促され、デューイさんと文香ちゃんのためにやりたいことを話す。

 私がアイデアを話す間、エノク君と立川さんは一言も聞き漏らさないという面持ちで聞いてくれた。その姿はまるで、わたしを対等な仕事仲間と認めてくれているように思えて、説明する言葉にも自然と力が入った。


「――と、こんな感じなんだけど、わたしの考えを実行できる本と場所って、この図書館にあるかな?」

 

 わたしの話を聞き終えたエノク君が、腕を組んだまま考えこむ。

 しばらくそのまま考え事をしていたエノク君は、結論が出たのか、不意に口を開いた。


「まず、結論から言おう。本も場所もある。お前の考えを実行することは、一応可能だ」


「本当? よかったぁ~! 『実行不可能だ』なんて言われたら、どうしようかと思ったよ」


 エノク君の言葉に、表情をパッと明るくする。

 本当に良かった。「そんな本も場所もない!」って言われていたら、わたしのプランは練り直し。デューイさんが来るまでに、間に合わなくなるところだった。

 だけど、わたしが安心していたのも束の間のこと。ホッとするわたしに、エノク君が慌てて待ったをかけたのだ。


「おいおい、ちょっと待て。オレはまだ、本と場所があるとしか言っていないぞ。早合点するな」


「えっ! それじゃあ、ダメなの?」


「そうは言っておらん。ただ、少し待て、と言っているだけだ」

 

 一転してシュンと落ちこむわたしに、エノク君がやれやれといった様子で言った。

 浮き沈みの激しいわたしを一端横に置き、エノク君が立川さんの方へ振り返る。


「立川、お前はこいつのアイデアを、どう思う?」

 

 エノク君に話を振られた立川さんは、エノク君同様、少し考える素振りをする。

 その様を不安交じりに見ていると、立川さんはわたしとエノク君に対してふわりと微笑んだ。


「予想以上、というところでしょうか。正直なところ、詩織さんがここまで素晴らしいアイデアを引っ提げてくるとは思いませんでした。念のため私も代案を用意していたのですが、どうやら要らぬお世話だったようです。デューイさんがどう考えるかにもよりますが、私個人としては十分合格点を与えられる回答だと思いますよ」


 エノク君によどみなく自分の評価を述べる立川さん。

 立川さんの言葉に満足したのか、エノク君もニカッと少年らしい笑みを見せた。


「そうか……。フフッ、オレも同感だ。これは、なかなかおもしろい答えだ」


「えっと、それじゃあ……」


 愉快(ゆかい)そうに笑い続けるエノク君へ、おずおずと尋ねる。

 するとエノク君は、大きく首肯しながらわたしに言った。


「ああ、合格だ。後で、デューイが来た時に提案してみるといい」


「はい! ありがとうございます!」

 

 エノク君と立川さんに頭を下げながら、心の中でホッと安堵の吐息をつく。

 二人に認めてもらえて安心した所為か、うれし涙が出てきた。


「おいおい、何を泣いている。お前もさっき言っていたではないか。まだ結果は出ていないのだぞ」


「えへへ、わかってるよ。だけど、とりあえず立川さんとエノク君をがっかりさせずに済んだのが、うれしくて……」


 こぼれた涙を拭いながら、エノク君に返事をする。

 何はともあれ、これでようやくスタート地点に立てた。

 デューイさんが来館するまでそう時間もないので、早速準備を始めなければ!

 上司二人のお(すみ)付きを得て勇気百倍になったわたしは、自信とともに書庫への扉を開いた――。



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