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ラジエルライブラリの司書見習い  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
レファレンスNo.2 見習い司書の元気の素探し
36/68

レファレンスNo.2 7

(はあ……。本当にどうしたものか……)


 夢から覚めた後、一睡(いっすい)もせずに考えてみたんだけど――結局答えは出なかった。

 おかげで、わたしは記念すべき二学期初日を、寝不足のどんよりした気分で登校する羽目になってしまった。……合掌。


(うわっ! 朝日が目にっ!)


 窓際にある自分の席へ着いたわたしを、朝からギラつく夏の太陽が出迎えた。

 ああ……。寝不足の目に、この朝日はよく()みる。


「おはよう、詩織ちゃん。どうかしたの? 朝から疲れた顔してるけど」


 窓から差し込む日の光に目をすがめていると、隣の席から声をかけられた。

 ゾンビのように緩慢(かんまん)な動作で声のした方へふり返ってみると、すでに登校していた(あおい)ちゃんが心配そうな様子でこちらを見ていた。


「葵ちゃん、おはよう。実は昨日の夜、ちょっと考え事してたんだよね。それであんまり寝てないんだ」


 ふぁ~、と大きいなあくびをしながら、葵ちゃんに返事をする。

 やっぱり睡眠三時間というのは、やり過ぎだったかもしれない。このままでは始業式の時に居眠りでもしてしまいそうな気がする。

 うう……。先生に怒られたら、どうしよう……。


「考え事……? もしかして、司書のボランティア絡みのこと?」


 わたしが予想される未来に絶望していると、葵ちゃんはあっさりとわたしの悩みの種を見抜いてしまった。

 葵ちゃんには相談に乗ってもらったということもあり、その後の経過報告として図書館でボランティアを始めたということを話してある。

 だけど、わたしが考え込んでいると見るや、すぐにその原因を仕事絡みと見抜くとは……。まったく、葵ちゃんの洞察力(どうさつりょく)には本当に舌を巻く。

 まあ、この辺りは隠すほどのことでもないし素直に白状してしまおう。


「あはは。葵ちゃん、大正解。実は昨日、ちょっと大変な仕事が入ってね。どうすればいいか、ずっと頭を悩ませているってわけ」


「そうなんだ……。それは、大変だね。――私で良ければ相談に乗るから、いつでも言ってね」


 力なく笑うわたしを(はげ)ますように、葵ちゃんが言う。

 いやはや、わたしは本当にいい友達を持ったものだ。

 思いがけず、ジーンと感動してしまった。


「心配してくれてありがとう。すごくうれしいよ、葵ちゃん」


「気にしないで。大事な友達の話くらい、いつでも聞いてあげるんだから」


 精一杯の感謝を込めて葵ちゃんにお礼を言うと、葵ちゃんはにこやかに小さくガッツポーズをしてみせた。

 ……ま、まぶしい! 葵ちゃんから後光が差している気がする。今の葵ちゃんの笑顔を見ているだけで、どんよりした心が浄化される気分だよ。


(ん? そういえば……)


 その時、ふと昨日エノク君が言っていたことと、夢に出てきたセファーラジエルの助言が頭にうかんだ。


(そういえば他の人の意見を聞いてみるのは、間違ったことじゃないんだよね。それに、セファーラジエルが言いたかったのは、葵ちゃんのことなのかもしれない)


 考えてみれば、わたしが司書見習いになる後押しをしてくれたのも、葵ちゃんだった。

 ということは……、


(もしかしたら葵ちゃんと話している中で、何かいい考えが浮かぶかもしれないよね)


 このまま一人で考え続けても、制限時間内にいいアイデアが出るとは思えない。

 ならば、思い立ったが吉日。ちょっと葵ちゃんの意見を聞いてみることにしよう。


「それじゃあ、相談っていうほど大袈裟(おおげさ)なことじゃないんだけど……。葵ちゃん、ちょっと意見を聞かせてもらえる?」


「うん。お安い御用だよ!」


 葵ちゃんが今度はポンッ、と胸を叩いた。

 うん! そういう何気ない動作も、葵ちゃんがやるとすごくかわいらしく見えるね。



 ――って、今はそんなことを考えている場合じゃない!



「ええとね、これはもしもの話だよ。もしも葵ちゃんが、誰かを元気づける方法を図書館で探すことになったら……、葵ちゃんはどんな本を探す?」


 利用者さんのことや相談内容を詳しく話すわけにはいかない(守秘義務というやつだ!)。なので、できるだけ一般的な形にして質問してみる。


「え? 元気づける方法を……図書館で?」


 そしたら、わたしの質問がよほど予想外のものだったのか、葵ちゃんがきょとんとした顔になる。

 でも、すぐに腕を組んで、「うーん……」とうなり始めた。


「うーん。なかなか難しいね。元気が出る方法かぁ……。ええと、私なら料理の本とかを探すかな。それで、相手が喜んでくれる料理を作るの」


「ああ、なるほど! それは考えなかったなぁ~」


 さすがは葵ちゃん! 何とも女の子っぽい意見だ。これが、巷でうわさの『女子力』というものだろうか。

 まったく、漫才の入門書を持っていくわたしとは大違いだね。ハッハッハッ!

 ……………………。

 はあ……。

 なんだろう。なぜか(むな)しさと悲しさが込み上げてきた。――あ、目から涙が……。


「でもね……」


 圧倒的な『女子力』を前にわたしが勝手に打ちのめされていた、ちょうどその時。

 葵ちゃんは、さらに何か言おうとし始めた。

 これを聞き逃してはいけない。

 直感的にそう覚ったわたしは、急いで涙をふき、葵ちゃんの話に耳を傾けた。


「でもね、詩織ちゃん。私が思うに、図書館にいるなら元気づける『方法』なんてものは探す必要ないんじゃないかな、って思うよ」


「へ? えーと、どういうこと?」


 元気づける『方法』を探す必要がない?

 では、一体どうするというのだろうか。

 疑問符を浮かべるわたしへ、葵ちゃんは事も無げにこう言ってのけた。


「だって、私は本を読んでいるだけで、元気が出てくるよ。冒険のお話を読めばワクワクしてくるし、恋愛小説を読めば、心がぽかぽかしてくるもん。だから、元気にしてあげたい人にも、そんな風になれる楽しい本を読ませてあげればいいんじゃないのかな?」


 わたしの目を見て、可愛らしく微笑む葵ちゃん。

 彼女の言葉を噛み締める様に理解したわたしは、


(そうか……。あはは。本当に……、本当に簡単なことだったんだ……)


 などと考えながら、ポカンとした表情で葵ちゃんを見つめる。

 すると、呆けたまま動かないわたしに気づいて、葵ちゃんがおどおどし始めた。


「あ、あれ? 私、何かおかしなこと言ったかな?」


 あたふたしながらわたしの様子を(うかが)う葵ちゃん。

 そんな彼女の前で、わたしは一度顔を伏せる。そして、力を溜めるようにプルプルと震えた後、思いっきり葵ちゃんに抱きついた。


「それだよ、葵ちゃん!」


「し、詩織ちゃん⁉ 急にどうしたの?」


 急に元気になった上、抱きついて離れないわたしに、葵ちゃんが目を白黒させている。

 対してわたしは、舞い上がってしまって完全にテンションマックスだ。

 

 何で、今まで気づかなかったんだろう。

 そうだよ。『方法』なんて探さなくても、本そのものが立派な『元気の(もと)』じゃん!

 一つ壁をこえてしまうと、他のことも一気にわかってきた。

 今なら、立川さんが言っていたアドバイスのことも良くわかる。

 デューイさんは確かに『文香ちゃんに元気を出してもらう方法』を探していると言っていたが、彼が本当に求めていたものは『方法』そのものじゃない。

 彼が本当に求めていたのは、ちゃんとリハビリが行えるくらい文香ちゃんが元気を取り戻したという『結果』の方なんだ。

 それなのに、わたしが『方法』という言葉にこだわってしまい、話を変な方向へ向かわせてしまっていた。

 葵ちゃんが言ったように、わたしが最初から探すべきだったのは文香ちゃんがただ純粋に楽しんでくれるような本だったんだ。


「ありがとう、葵ちゃん! わたし、何とかできそうだよ!」


「そ、そう? し、詩織ちゃんの力になれて良かったよ?」


 葵ちゃんはわけがわからないという顔で首を傾げている。

 気がつけばクラスのみんなも、何事かとわたし達の方を眺めていた。

 なんか痛い子を見るような視線も感じるけど……、今はまったく気にならない!


 葵ちゃんのおかげで、道がついた。

 デューイさんに提供すべき本も、何となく思い浮かんできた。

 ヒントは昨日のデューイさんの言葉と、エノク君との話の中にあったんだ。

 いろいろクリアしなければならないことがあるけど、何とかなりそうな気がする!


「うん! これなら、きっといける。よーし、やるぞーッ! オーッ!」


 一人で勝手に盛り上がって、こぶしを突き上げるわたし。

 そしたら……、


「お、オーッ?」


「えっと……オーッ!」


「なんかよくわからないけど、オーッ!」


 妙にハイテンションなわたしに釣られ、クラスのみんなもわけがわからないまま、こぶしを突き上げた。


(待っていてください、デューイさん。今度こそ必ず、文香ちゃんに楽しんでもらえる本を見つけてみせますよ!)


 変な盛り上がりを見せるクラスの中心で、わたしは早速デューイさんに提案するアイデアを()り始めるのだった。

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