レファレンスNo.2 1 ―Side:D― ◆
――青白い月明かりに照らされた、とある部屋。
白い壁に囲まれ、消毒のにおいが染みついたその部屋で、一人の女の子が寝ている。
サラサラした黒い髪を肩のところで切りそろえた、可愛らしい女の子だ。
「文香ちゃん……」
その女の子を枕元から眺めつつ、ぼくは彼女の名前をつぶやいた。
そのまま首を巡らせて、視線を彼女の足の方へ動かしていくと、そこにはギプスに包まれた左足があった。
彼女の痛々しい姿を見て、ぼくの心がチクリと疼く。
「文香ちゃん……」
もう一度、彼女の名前をつぶやく。
思わず涙ぐんでしまったせいで、二度目にこぼれたぼくの声は少しだけ震えていた。
彼女は、ぼくにとって無二の友達。
ぼくに命をくれた、かけがえのない大切な人だ。
だって、彼女がぼくを大事にしてくれたから、ぼくはこうして心を持つことができたのだから……。
彼女がいっしょにいてくれるだけで、ぼくの心は温かくなった。
彼女が声をかけてくれるだけで、ぼくの心はときめいた。
彼女が笑っている姿を見せてくれるだけで――ぼくの心はいつも満たされていた。
――でも、今の彼女はその笑顔をぼくに見せてくれない。
今の彼女は、毎日毎日、虚ろな目で窓の外ばかりを眺めて過ごしている。
受け入れがたい現実を前に、彼女は意気消沈して心を閉ざしてしまったのだ。
今の彼女には笑うだけの――いや、自分の周りの世界を見るだけの元気さえもない……。
(……だけど、ぼくの力だけでは文香ちゃんの心を癒してあげられない)
だって、彼女はぼくが動けることもしゃべれることも知らないのだから……。
彼女にとって、ぼくはただのぬいぐるみ。
今のぼくにできることは、常に彼女の傍にいてあげることだけ……。
ぼくは――本当に無力だ……。
「誰か、ぼくに力を貸してください……。ぼくにできることだったら、どんなことだってします。だから……だから、お願いします。――文香ちゃんに元気をください……」
空に昇る満月と満天の星々に向かい、ぼくはそうつぶやいた。
この思いが、誰かの耳に届くことを願って……。




