レファレンスNo.1 6-6
――かえでさんが『思い出の本』を読み始めて、30分ほどが経った。
この30分の間、誰一人として言葉を発していない。かえでさんは本を読むのに集中しているし、エノク君と立川さんは静かにかえでさんを見守っている。
誰もしゃべらない所為か、部屋の空気が重く感じられ、時計の針の音がやたら大きく聞こえた。
「ねえ、エノク君。かえでさんが『思い出の本』を読み終わるまで、わたし達は特にすることないよね。だったら、ちょっと書庫の中を探検してきてもいい?」
「ふむ……。まあ、いいだろう。ただし、コンパスは忘れずに持って行けよ。あと、空飛ぶ絨毯は使わず、閲覧室の近くにいろ。まだ、レファレンスは続いているのだからな」
空気の重さと部屋の静かさに耐えられなくなり、こっそりと隣に立つエノク君に耳打ちする。
そんなわたしの顔をジッと見たエノク君は、仕方ないという顔で席を外す許可をくれた。
どうやらわたし、自分で思っていた以上に疲れ切った顔をしていたみたい。
「ありがとう。それじゃあ、行ってくるね!」
エノク君に感謝しつつ軽く手を振る。
わたしはかえでさんの邪魔にならないよう、静かに書庫への扉を開いた。
* * *
(――ふう。何となくあの場に居づらくて、書庫に出てきちゃったな~)
体験とはいえ司書見習いなのに、レファレンス中の雰囲気に耐えられなくなるなんて、情けないな~。
まあ、閲覧室にいてもわたしにできることはないし、居ても居なくても同じか。
「ふーん。こうして一冊一冊見ていくと、今時の日本の本もちゃんとあるんだなぁ~」
適当に本棚の間をぶらつきながら、並べられている本を見て回る。
どうやら、この辺りには日本語の本が多いらしい。外国語がダメダメなわたしとしては、有り難い限りだ。
「うわっ! この本なつかしい~!」
偶然、小さな頃に好きだった絵本を見つけたので、久しぶりに読んでみる。
こういうなつかしい本を読んでいると、小さい頃のことが思い出されて、ほっこりした気分になるね。
(ふう……。久しぶりに読んだけど、やっぱりこの本いいな~)
最後まで読んで「ほう……」と一息。
読み終わった絵本を棚に戻し、探検を再開だ。
その後もわたしは、おもしろそうな本を見つけては手にとって読んでみる、ということを繰り返した。
こうやって図書館の本棚を見て回るのも、たまにはいいものだよね。
思いがけず、おもしろい本にも出会えるし。
「――あっ! もう3時間も経ってる。そろそろ戻った方がいいかも……」
ふとタイマーを起動しておいた携帯を確認すると、思った以上に時間が経っていた。
どうやら、本を読むのに夢中になり過ぎていたみたい。
(かえでさん、そろそろ思い出の本を読み終わったかな……?)
かえでさんのことが気になったわたしは、コンパスを頼りに閲覧室へ戻った。




