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ラジエルライブラリの司書見習い  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
レファレンスNo.1 見習い司書、初めてのレファレンス
12/68

レファレンスNo.1 6-1

 見習い体験を始めて、三日目の放課後。

 授業を終えたわたしは、いつもの調子で第32閲覧室への扉を開いた。


「立川さん、こんにちは! 今日もよろしくお願いします! ――って、およ?」


 元気にあいさつをして閲覧室に入ると、びっくり!

 なんと、閲覧室に見知らぬ人がいたのだ。

 その人はソファーに座って、向かい側に座った立川さんと話していた。


「ああ、詩織さん。丁度良いところに来ましたね。お待ちかねのお仕事ですよ」


 わたしが来たことに気づいた立川さんが、一端話をやめて声をかけてくれる。



 おお、お仕事! ついに来ましたか、わたしの初仕事!

 苦節(くせつ)三日。待ちに待った、この瞬間!

 ああ、長かった冬の日々……。(まあ、今は初夏だけどね)



 とまあ、そんな具合に私が感動に打ち(ふる)えていると、ソファーに座っていた見知らぬ人改め利用者さんが、


「こちらのお嬢さんも、司書さんなのですか?」


 と、立川さんに向かって尋ねた。


 ふ~む……。

 さっきは突然知らない人がいた驚きで気づかなかったけど、利用者さんは女の人か。

 とても聞き心地のよいソプロノの声だな~。 


「はい、そうです。今回の依頼は、私と彼女で対応させていただきます」


 わたしが利用者さんの声にうっとりしていると、立川さんがそう返事をしてくれた。

 うぅ~。立川さんに司書として紹介してもらえると、何だかそれだけで感無量って感じだよ~。


「そうなのですか。では……」


 そう言うと、利用者さんは立ち上がって、わたしの方に体を向けた。

 その人は黒髪ロングヘアの美人さんで、何というか『深窓(しんそう)令嬢(れいじょう)』という言葉がしっくりきそうな人だった。

 顔立ちはそれほど似ていないけど、どことなく葵ちゃんに似た雰囲気を持っている気がする。でも、当然ながら葵ちゃんよりもずっと落ち着いた、正真正銘の『大人の女性』といった感じだ。



 ただ、何だろう? どうも存在感が薄い感じがするんだけど……。



「はじめまして。私は金森(かなもり)かえでと申します」


「あわわ、こちらこそはじめまして。ラジエルライブラリの司書見習い(仮)の神田詩織です」


 綺麗にお辞儀(じぎ)をしてくれるかえでさんに合わせて、わたしも慌てて頭を下げる。

 と、その時、かえでさんの足元が目に入った。



 ……………………。



 気のせいかな? かえでさんの足が――見えない……。

 わたしの目が確かなら、かえでさんがはいているロングスカートの、裾から下が見当たらないような……。


「ええと、私は幽霊のようなのです」


 わたしの視線に気づいたのか、かえでさんがそう教えてくれた。

 ああ、なるほど!

 幽霊さんなら足がなくて当然だよね。納得、納得!

 それにしても、幽霊さんかぁ……。



 ――うん? 幽……霊……?



「……………………」


「?」


 明かされた衝撃の事実を前にして、石のように固まってしまうわたし。

 ピクリとも動かないわたしを見て、目の前にいるかえでさんも、不思議そうに首を傾げた。


(あっ! 今のかえでさんの表情、すごくかわいいかも~)


 大人の女の人が見せるあどけない表情って、何とも言えないギャップ萌えな感じがするね。

 眼福(がんぷく)、眼福~。



 ……………………。



 ――うん、わかってる。わかっているんだ。現実逃避(とうひ)してるってことはわかってる……。

 ほら、カチコチになったわたしを見て、立川さんとかえでさんが、『どうしたものか』って顔してる。


 この状況、わたしが何かしゃべらないことには、先に進まないだろう。

 でも今しゃべったら、取り乱して悲鳴の一つでも上げてしまいそうな気がするし……。


 ということは、まずは落ち着くことが先決だ!


 そうと決まれば……。

 はい! まずは深呼吸!


 ヒッ、ヒッ、フー! ヒッ、ヒッ、フー!(←ど、どうしたのですか、詩織さん! 急にラマーズ法の呼吸など始めて……。 By立川さん)


 ――よし、深呼吸完了! 立川さんが何か言った気がするけど、よく聞こえなかったし、まあいっか!

 ともあれ、今のわたし、超落ち着いてます! 冷静沈着、知的な超クールビューティーです。


(よーし! これで取り乱すことなく、かえでさんとも普通におしゃべりできるはず!)


 では、気を取り直していってみよう。

 さん、はい!



「きゃああああああああああああっ! 出たああああああああああああっ!」



 出てきたのは、大きな……とても大きな悲鳴だった……。

 それはもう、部屋全体がビリビリ震えるほどの……。

 深呼吸の効果、まったくありませんでした……。(グスン!)


「やめんか、バカ者!」


「あいたっ!」


 そんなわたしを黙らせるように、後ろからスパンッと、ハリセンの一撃が叩き込まれた。

 びっくりして振り返ると、エノク君がハリセンを持ったまま、腕を組んで立っていた。


「まったく……。落ち着かんか、見習い(仮)!」


「だって、本物の幽霊さんだよ! 怖いんだよ! 食べられちゃうんだよ! テレビから、()いずり出てきちゃうんだよ! (たた)られ○▼♨※◎$@■#~!」


 パニックのあまり、ついついエノク君へかみつくように叫んでしまうわたし。

 もはや自分でも、何を言っているのかわからない。最後の方なんて、日本語にもなっていない気が……。


 でも、テンパるなって方が無理な話でしょ!


 だって、幽霊さんがいきなり目の前に現れたんだよ! 本物の幽霊さんを見るのなんて初めてだし、やっぱり怖いよ!



 ――と、そんなことを考えながら(わめ)いていたら……。



「あの、すみません。怖がらせてしまったみたいで……」


 かえでさんがわたしに向かって、とても申し訳なさそうに謝ってきた。

 しかも、目に大粒の涙を浮かべて……。


(うっ! しまった!)


 面と向かって悲鳴を上げるなんて、さすがに失礼すぎだ。その上、悲鳴を上げた後に言った暴言の数々……。

 これはもはや、失礼なんてレベルを軽く跳び越えて、名誉(めいよ)毀損(きそん)の域だ。

 罪の意識で、心が痛い。


「あわわ。か、かえでさんが悪いわけでは……。わたしこそ、悲鳴を上げたりなんかして、本当にごめんなさい‼」


 なので、わたしはすぐに勢いよく頭を下げて、かえでさんに謝った。


(わたし、かえでさんに何てひどいことを……)


 もしわたしが誰かからあんな反応をされたら、ショックで家に引きこもってしまうだろう。

 ベッドで(ひざ)を抱えて泣き明かすこと、間違いなしだ。


「お顔を上げてください、詩織さん。私は気にしていませんから」


 土下座を始めようかという勢いで頭を下げるわたしを、かえでさんは優しく微笑みながら許してくれた。



 ――でも、気にしていないわけがないよね。



 さっきの顔を見れば、傷付けてしまったのは確実。かえでさんに対し、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


(もっと、相手を思いやった対応をできるようにならなきゃ……)


 自分のデリカシーに欠けた振る舞いを猛省(もうせい)する。

 そしたら、隣にやってきた立川さんが、すまなそうにそっと耳打ちしてきた。


「すみません、詩織さん。そう言えば、利用者さんについて何も教えていませんでしたね。ラジエルライブラリを利用しに来るのは人間だけではありません。かえでさんのような幽霊さんや妖精、お化けの方々も訪れるのです。ですが、ご心配なく。彼らは我々に危害を加えたりしません。彼らも、悩みを抱える利用者さんなのです」


「そうですね。かえでさん、悪い幽霊さんには見えないですもん。――よし! かえでさんにさっきの無礼をお()びするためにも、このお仕事を何としても成功させなくては! 立川さん、ご指導をお願いします!」


「ええ。その意気です!」


 胸の前でグッとこぶしを握ったわたしに、立川さんは励ますように微笑んでくれた。


「おい、お前ら。いつまで利用者を放り出したまま、立ち話をしているつもりだ。さっさと、レファレンスの続きをしろ!」


 エノク君がやれやれといった様子で、わたしと立川さんに言う。

 確かに、いつまでもかえでさんを待たせるわけにはいかないよね。



 ――よし!



 気合を入れて頑張るぞ! えい、えい、おーっ!


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