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ラジエルライブラリの司書見習い  作者: 日野 祐希@既刊9冊発売中
レファレンスNo.1 見習い司書、初めてのレファレンス
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レファレンスNo.1 5 ―Side: K― ◆

 ――私が最初に見た光景は、立ち並ぶ墓石(ぼせき)の群れでした。



「ここは、一体……?」


 周囲を見渡しながら、私はポツリとつぶやきました。

 なぜ自分が、このような墓地にいるか。

 その理由が、私にはまったくわからないからです。



 ――いえ……。わからないのは、それだけではありませんでした。



 自分がここにいる理由を思い出そうとする最中(さなか)、私は一つの事実へ行き着きました。

 それは、いくら頭の中をさらってみても、自分の名前以外のあらゆることが思い出せないということです。

 それはまるで、すべての記憶(きおく)がとても濃い(もや)(おお)い隠されてしまったかのようでした。 


「私は……、今まで一体何を……」


 何も思い出せない恐怖にカタカタと震えながら、思わず自分の体を()き抱きます。

 自分の身に何が起こったのか、自分はこれからどうなってしまうのか……。

 そのすべてがわからないことに、私は恐れ(おのの)きました。



 ――ですが、ここまでに感じた恐怖など、まだまだ序の口に過ぎなかったのです。本当の恐怖の始まりは……ここからでした。



 その始まりは、不意に私の目へ飛び込んできた墓石の文字です。

 そこに刻まれていた名前を見た瞬間、私は自分の意識が遠のくのを感じました。


「これは――私のお墓?」


 そう……。その墓石に刻まれていたのは、(まぎ)れもなく私の名前。

 それは間違いなく、私のお墓でした。


「なぜ、私のお墓なんてものが? では、ここにいる私は?」


 何度見直しても、それが私のお墓であるという事実は(くつがえ)りません。

 愕然(がくぜん)とした私は、(うつむ)きながら震える自分の両手を見下ろしました。

 ――そして、私はとどめとなる最大の恐怖を味わったのです。


「――っ!」


 改めてまじまじと自分の手を見た私は、思わず息をするのを忘れてしまいました。

 何と、私の手は半透明(はんとうめい)となっており、先にある地面が()けて見えていたのです。


(わ、私の……手が……)

 

 何かよくないものを感じ取り、(あわ)てて足元を見ます。

 すると案の定、そこにあるはずのもの――私の足がありませんでした。まるで宙に溶けてしまったかのように、スカートの(すそ)から下が消えていたのです。



 そう。これではまるで――。



「これではまるで、幽霊みたい……」


 (のど)の奥から絞り出された自分の声が、まるで他人の声のように聞こえました。


 おそらく私は、何らかの理由で死んでしまい、その上成仏もできずに幽霊となってしまったのだ。


 頭のどこかに残っていた理性が、無慈悲(むじひ)かつ冷静に、そんな事実を突きつけてきます。

 けれど、理性によって導き出されたその事実に、私の感情はついていくことができませんでした。



 ――ドサリッ!



 もはや立っている気力さえも失い、私は崩れるように膝をつきました。

 自分が死んでしまったという耐えがたい事実が、私の心をこれでもかというほど締めつけてくるのです。

 心が上げた悲鳴はとうとう涙となり、私の目から(あふ)れ出してきました。

 ですが、その涙すらも地面を()らすことなく、宙へと消えてしまいます。


「誰か……、助けて……」


 涙とともに(こぼ)れ落ちた、助けを求める声。

 しかし、その声も誰かに届くことはなく、よく晴れた青い空へと散っていくのでした――。


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