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第93話 朱里夏の窮地を救うおにい

「はあ、はあ……。あぶなかった……うん?」


 扉の鍵をかけた五貴君は、振り返って部屋を見回す。


「こ、ここは……あ、ここが1階のパーティー会場か……」


 どうやら気付かずにこの部屋に入って来たようだが、しかしなぜ彼がこのホテルに? それがわからなかった。


「あ、しゅ、朱里夏さんっ!」


 倒れているあたしのもとへ五貴君が駆け寄って来る。


「だ、大丈夫ですかっ!」

「うん……」


 五貴君の腕に掴まって、あたしはようやくと身体を起こすことができた。


「けど、どうして君がここに?」

「朱里夏さんから電話をもらって、なにかその……嫌な予感がしたんで難波の家に行ったんです。そしたらここに行ったかもって紙をもらって……」

「君ひとりで来たのか?」

「はい」


 なるほど。さっきの不可解な停電と非常ベルも彼のやったことだろう。

 たいした度胸だ。しかし……。


「こんな危険なところへ来るなんて……君は馬鹿だよ」


 入り口にいた連中を見ればだいたいのことは察せたはずだ。それなのに中へ入って来るなんて、馬鹿としか言いようがない。


「迷惑でしたか?」

「いや、助かりはしたけどね」


 一旦は助かった。

 しかしこれから先はどうだか……。


「お友達とのお話はもういいかしら?」


 風間が嘲るような口調でそう言ってくる。


「ああ……」


 少しダメージから回復したあたしは立ち上がって風間と佐黒を睨む。


「なるほど。さっきの停電と非常ベルは彼の仕業でしたのね。ふん。以前とは違って仲間を連れて来るだなんて、ずいぶんと弱気になったこと」

「違う。彼は間違いでここへ来てしまっただけ。無関係だ」

「知りませんわそんなの。あなたの仲間ならわたくしの敵。だったらここで一緒に殺してあげるだけですわ」

「く……っ」


 このままでは五貴君も危険だ。

 奴に勝てる確証が持てない以上、五貴君をこのままここに置いてはダメだ。


 こちらへ歩いて来る佐黒から守るようにあたしは五貴君の前に立つ。


「あたしがあいつを引きつける。だから逃げて。外にも敵がいるだろうけども、ここにいるよりはいい。さっきの扉とは別の扉から出ればたぶん逃げられる」

「け、けど……」

「あたしを助けに来てくれたのは嬉しいし、君がしてくれたことで助かったのも事実。だけどここからは君じゃ役立てない。邪魔になるだけ」

「……」

「わかったら行って。じゃ」


 そう五貴君へ言ってあたしは佐黒へ向かって歩く。


 五貴君があたしのために来てくれたのは嬉しかった。

 しかしここで死なすわけにはいかない。


「さあて、まずはてめえを殺してやるぜ」

「やってみろ」


 言うと同時にあたしは飛び掛かる。


 機械の腕がなんだ。当たらなければ威力なんて……。


「っ!?」


 目の前をものすごいスピードで拳が薙がれる。

 あともう数センチほど進んでいたら頭が粉々になっていた。


 そうだと明確にわかるほどの重い一撃であった。


「ちっ。まだうまく扱えねーな。へへ、けど当たらなくてよかったぜ。さっきのが当たってたら終わっちまってただろうからな」

「ぐっ……」


 あのとんでもないスピードを潜って奴の身体に一撃を入れるのは至難だ。いくら頑丈なあたしでも、あれを食らったら終わりなのは間違いない。


「おらっ! 休んでんじゃねーぞっ!」


 佐黒があたしへ向かって落雷のような拳を落とす。

 それを飛び退って寸前で避けると、拳が地面を粉々に砕いた。


「遠くへ逃げても無駄だぜっ!」

「うっ……がはっ!?」


 反対の腕から拳が発射されて伸び、あたしの腹を打つ。


「ぐ、うう……」


 直接に食らうよりは威力が低い。

 しかしそれでも、重いダメージには違いなかった。


「がははっ! ここからこれで狙い打ってなぶってやるのもいいなっ! それっ!」


 佐黒が両方の拳を突き出し、両手首から拳が発射されてあたしを狙う。


 今だ。


 拳が発射されて戻るまでには少し時間がかる。

 そのあいだに距離を詰めれば……。


 あたしは2つの拳を避けて、佐黒の目前まで走る。


 奴まであと1メートルほど。

 拳はまだ戻って来ない。一撃を叩き込むチャンス……。


「そうくると思ったぜっ!」

「な……えっ? うがっ!?」


 突如、佐黒の右目が開いて銃声が鳴る。

 瞬間、あたしは右足に激痛を感じてその場に膝をつく。


「そ、それは……」

「お前に取られた右目の穴が空きっぱなしだったんでな。銃を仕込んだのさ。へへ、皮肉なもんだ。てめえがやったことでてめえ自身がダメージを負うなんてよ」

「ぐっ……」


 この脚ではもうまともに動き回ることはできない。


「さあてそれじゃあ四肢を潰してやるか。ひっひっひ」


 機械の拳があたしの脚へ向かって振られる。

 直後にものすごい激痛がくるだろうことを覚悟したが……。


「えっ?」


 そうはならなかった。


「て、てめえ……」

「い、五貴君っ?」


 これは目の錯覚だろうか?

 あの恐ろしい威力を放つ機械の腕を、五貴君が抱えて受け止めていた。

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