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第88話 おにいを助ける怪物2人

 朱里夏はバイクから降りると、首を巡らして俺たちを見回す。


「しゅ、朱里夏さん、どうしてここに?」

「ん? バイクでその辺を走ってたら五貴君がいたからこれはチャンスと思って、急いでここへ飛んで来たの」

「そ、そうですか」


 飛んで来たは文字通りである。


「て、てめえは昨日の変なガキ……」

「ガキじゃない。それで、どういう状況?」


 朱里夏はナイフを向けられている俺を見て顎をポリポリと掻く。


「わかった。とりあえずそいつらをぶっ飛ばせばいいか」


 理解が早くて助かる……。


「お、お前は難波朱里夏……っ」


 女のほうがゾッとしたような表情で朱里夏を見つめる。


「へえ、あたしを知ってるんだ?」

「ふざけるなっ! てめえに取られたこの指のことは忘れてねぇぞっ!」


 この指とはたぶん無くなっている右手人差し指のことだろう。


 女はそれを見せつけるように、右手をかざしていた。


「覚えてない」

「て、てめえ……」

「しゅ、朱里夏さんっ! こいつら金翔会ですっ!」

「金翔会? ああ」


 俺が教えると、朱里夏は納得したように頷く。


「喧嘩を売られたときに指を握り潰してやった奴がいたような……」

「それがあたしだよっ!」


 声を上げた女はナイフを捨てて拳銃を取り出す。


「まさか出てきてやがったとはね。しかしこんなところでてめえに出会えるなんて僥倖だ。この指の落とし前をここでつけさせてやる」

「おい。依頼はこの坊主をちょっと痛めつけてやるだけだぜ? 殺しは依頼に無い」

「黙ってな。これは個人的な殺しだ。仕事は関係無い」

「けどなぁ……」


 男がチラと国島へ目をやる。


「そ、そうだっ! こ、ここ殺しなんか頼んでねーぞっ! ふざけんなっ!」

「口を挟むんじゃないよおぼっちゃん。うるさいとあんたも殺すよ」

「ひっ……」


 女の目は血走っており、平静さを感じない。


 朱里夏と出会ったことで、指を潰された恨みで頭がいっぱいになったようであった。


「死ねっ!」


 引き金に触れている女の指に力が込められた。……そのとき、


「あがっ!?」


 不意に女が短い呻きを上げて前のめりに突っ伏す。

 なんだと思う俺の目に、女の後頭部から転がり落ちるパチンコ玉が見えた。


「おにいって本当、トラブルによく巻き込まれるねぇ」

「あ……」


 声の聞こえたほうを向くと、右手にパチンコ玉をじゃらじゃらと持った兎極がそこにいた。


「な、なんだてめ……うごぁっ!?」


 兎極のほうを向いた男の後頭部へ朱里夏が飛び膝蹴りを食らわす。

 一瞬で白目を剥いた男も、女と同じくうつ伏せとなって倒れた。


「喧嘩の途中でよそ見はダメだよ」


 すでに意識は無いだろう男を見下ろして朱里夏はそう吐き捨てた。


「と、兎極。どうしてお前がここに……?」


 家にいるものだと思っていたのだが……。


「覇緒に言ってドローンでおにいを見張らせてたの。そしたらなんかおにいがあぶない目に遭っているみたいだって聞いて……」


 それで来てくれたってことか。


「それよりも大丈夫? どこも怪我してない?」

「うん大丈夫。朱里夏さんも来てくれたし」


 朱里夏があのタイミングで来てくれなければ今ごろ指が1本無くなっていたかもしれない。そう考えるとゾッとしてしまう。


「朱里夏さんが来てくれなかったら指が無くなってたかもしれないよ。ありがとう朱里夏さん」

「うん」


 と、朱里夏さんは俺へ向かって親指を立てて見せた。


「……ふん。おにいを助けてくれたみたいだね。一応、わたしからも礼を言っとく」

「お前に礼を言われる筋合いは無い。あたしは自分の男を助けただけ」

「てめえ……」

「ま、まあまあ」


 せっかく良い雰囲気で終わりそうだったのだ。

 喧嘩で台無しにしたくはない。


「こ……このっ」


 うつ伏せに倒れている女がピクリと動き、銃をこちらへ向けるが……


「があっ!?」


 兎極がその腕を踏んで銃を手から落とさせた。


「んで、こいつらどうすんだ? 警察にでも引き渡すか?」

「こいつらは金翔会のヤクザ。警察に渡してもすぐに無罪放免」

「金翔会か……」


 どうやら兎極も金翔会のことは知っているようで、面倒くさそうにため息をつく。


「じゃあ殺すのか?」

「こんな雑魚を殺して警察に追われたくはない」


 と、朱里夏はナイフを手に持つ。


「けど落とし前はつけさせないとね」

「んぎゃっ!!?」


 そのナイフを突き下ろして女の小指を飛ばす。


「う、うわ……」


 かなりエグイものを見せられてしまった。

 しかし命を狙われたのに殺さないのだから、落とし前としてはやさしいのか……?


「そっちの男はあんたがやる?」

「JKにそんなことやらせんな」

「じゃああたしがやるよ」


 そう言って朱里夏は慣れた手つきで男のほうの小指も飛ばした。

 それから兎極の持っていたダクトテープを借りて2人をその場に拘束する。


「これで終わりですね」

「まだ」


 と、朱里夏は腰を抜かして震えている国島丈吾のほうへ目をやる。


「い、いや待ってくれっ! 金ならいくらでもやるっ! だから指は……」

「堅気の指なんか取らない。昨日のは単なる脅し」

「えっ? あ、そ、そう。じゃあこのまま俺は見逃して……」

「堅気には堅気の落とし前のつけさせ方がある」

「へ? え? ちょ……」


 朱里夏がナイフを持ったまま国島丈吾に近づいて行く。


 堅気の落とし前とはなんなのか?

 兎極はそれがなにかを知っているのか、ニヤリと笑いながら成り行きを見守っていた。


 ……


「……もっと股を開け」

「も、もう勘弁してくださいぃぃ……」


 朱里夏によって全裸へ剥かれ、頭髪を落ち武者にされた国島丈吾は股を大きく開いたポーズでスマホを向けられていた。


「おいもっと笑えよ。殺すぞてめー」


 兎極も一緒になって国島のポーズに口を出している。


「ケツ向けろ。そこも撮るから」

「ゆ、許してーっ!」

「ケツ穴を広げさせろよ。そっちのほうがおもしろい」

「それいいな。両手でケツ穴を広げろ。やらないと堅気でも指飛ばす」

「ひいいいっ!!」


 本気かは知らないが、そんなことを言われればやるしかないだろう。


 さっきまでの横柄な上級国民はどこへ消え失せたのか?

 国島丈吾は泣きながらケツ穴を広げてスマホへ尻を向けていた。


「上級国民なのにケツは汚い」

「お前おもしろいこと言うなぁ。ねえおにい?」

「そ、そうね……」


 さっきまで仲が悪かったのに、いつの間にか2人は仲良くなっている。


 よくよく考えればどことなく似たところのある2人だ。

 切っ掛けがあればこうして仲良くなるようなこともあるのかもしれなかった。


 ……その切っ掛けが国島への落とし前とは、なんとも女の子らしくないが。


 それからも散々に全裸で国島へポーズを取らせて撮影した朱里夏は、ようやくスマホを懐へしまう。


「お前な、今度ふざけたことしたらこれをネットにバラまくからな。わかった?」

「わ、わがりまじだ……うっうっ……」


 全裸に落ち武者カットで泣きじゃくる国島がひどく憐れに見える。

 まあ自業自得なのでしかたないだろうと、俺は苦笑いしながらその光景を見ていた。

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