第86話 おにいを味見する怪物(五貴・国島視点)
「しゅ、朱里夏さんっ!?」
驚いた俺は慌てて逃れようとするも、がっちりと抱きつかれて上半身は身動きひとつ取れない状態であった。
「わたし、君のことほしいって言ったよね?」
「えっ? あ、まあ……」
コンビニを襲ったチンピラをのしたあとにそんなことを言っていたか……。
「だから今日は味見をしに来た」
「味見って……うおっ!?」
朱里夏の足が俺の穿いているズボンを器用に脱がしていく。
やがてパンツも脱がされ、俺の下半身は布団の中で全裸となってしまう。
「ふふ、このデカチン〇をずっと足でしたかった」
「ふふぉおっ!!?」
朱里夏の両足が俺のアレをがっちりと挟む。
今自分がどんな状態になっているか?
全体像を想像すると、なにかとんでもない姿が浮かび上がった。
「いや、ちょ……ダ、ダメですよ朱里夏さんっ!」
「嫌だ。逃がさない」
逃れようとしても、がっちりとホールドした朱里夏の腕はピクリともせず上半身はほぼ動くことはできない。
「いいでしょ。五貴君は気持ち良いだけなんだし」
「そ、そう言う問題じゃ……ふふぉっ!?」
朱里夏の足が俺のアレを挟んで上下に動く。
これは本当にダメだ。
このままだと大変なことになってしまう。
「しゅ、朱里夏さんっ! 俺たちってそういう関係じゃないんですから……こ、こんなことは……」
「そんなの関係無いでしょ?」
「い、いや、こういうことは恋人同士じゃないとダメだと思いますけど……」
「若いね」
そう言って朱里夏はますます足を激しく動かす。
「ダ、ダダダメですってっ! んぐう……っ」
いやもうほんとにダメだ。
我慢はしているが、時間の問題であった。
「海外ではこういうことをしたあとに恋人同士になるのは普通」
「ほ、ほんとですか? 聞いたことないですけど……」
「だからこれが終わったら五貴君はあたしのものね」
「そんなむちゃくちゃな……ふがぁっ!!?」
手慣れた……いや、足慣れたような動きに俺はもう限界に……。
と、そのとき部屋の明かりがつく。
そして床を踏み鳴らして誰かが近づいて来て、掛け布団をめくった。
「おいこら……」
ベッドに横たわる俺たちを見下ろすのは、鬼の形相と化した兎極であった。
「今は取り込み中。向こうに行け」
「行くわけねーだろこの野郎っ!」
兎極の拳が朱里夏を目掛けて落ちてくる。しかし寸前で朱里夏は俺の身体から離れて拳の一撃をかわした。
「てめえよくもおにいのアレを一度ならず二度までも……」
一度とは無人島でのことか。
よく考えたら朱里夏にアレを足で触れられたのは二度目であった。
「五貴君はあたしの男にする。だからしてもいい」
「いいわけねーだろがっ!」
拳を振り上げて朱里夏へ向かっていく兎極。
これはいかんと俺は慌てて兎極を抑える。
「ダ、ダメだって兎極っ! 2人が喧嘩したら建物が崩れるからっ!」
「離しておにいっ! あいつをこの世から叩き出してやるんだからっ!」
「落ち着けってっ」
この手を離したら別荘は数分で瓦礫の山になってしまう。そうなることがわかっている俺は必至で兎極を止めた。
―――国島丈吾視点―――
「くそっ」
昼間のことがイラついて眠ることができず、俺はホテルの部屋で浴びるように酒を飲んで、このやり場が無い不愉快を鎮めていた。
どうにかこの鬱憤を晴らすことができないものか……。
「そうだ」
あれを使ってみるかと俺は思いつく。
「辻村。金翔会に電話しろ」
「き、金翔会ですかっ!?」
金翔会と聞いた辻村は驚きの声を上げる。
「ああ。金翔会を使ってこのイラつきを晴らす」
「いやでも、逸見建設のお嬢さんになにかするなんて……」
「あの女にはなにもしねーよ」
逸見建設は国島建設の親会社だ。
娘になにかしたなんて知れたら、親父の会社は最悪、潰されることになる。そんなリスクを負ってまであの女をどうこうしようとは思わない。
「やるのは男のほうだ。金翔会を使ってあいつをちょっと痛めつけてやる」
「し、しかし金翔会はやり過ぎでは……。連中は表向き政治結社ですが、中身は暴力団です。反社会的な力を使ったなんてことが社長に知れたら……」
「有名な経営者や政治家も使ってる組織だ。ちょっと痛めつけてやるのに使うくらいたいしたことないだろ」
「しかし……」
「お前あのとき俺に指示されたとか余計なこと言いやがって。まだ忘れてねーぞ」
「そ、それは……その」
辻村は切り落とされそうになった指を押さえて気まずそうな表情をする。
「とにかくてめえは黙ってろ。親父にもなにも言うんじゃねーぞ」
「はい……」
金翔会のヤクザを使って少し痛めつけてやるだけだ。たいしたことにはならないだろう。
「あの野郎、俺を舐めやがって」
下級国民は上級国民に従っていればいい。
それをしなかったあいつには制裁が必要だ。
奴にそれをわからせてやるため、辻村に金翔会へ電話をさせた。




