表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/192

第85話 朱里夏が気に入らない義妹

 今日のバイトは終わり、覇緒ちゃんの別荘に戻って来る。……と、


「なんでこいつも一緒なのさっ!」


 一緒について来た朱里夏を指差して兎極が声を上げた。


「な、なんでって……。ダメだったか?」

「こいつは沼倉さんの命を狙った敵じゃんっ! なんで仲間みたいにつるんでんのっ!」


 まあそれもそうだ。

 朱里夏は沼倉さんを殺そうとしていた。その彼女をここへ連れて来てしまうのはおかしいという兎極の言い分はもっともだが……。


「お前らとつるむつもりはない。あたしは五貴君と一緒にいたいだけ」

「ああ? おにいに手を出しやがったら殺すぞてめえっ!」

「やってみろデカチチ」


 睨み合う2人。

 危険を察した俺は慌てて2人のあいだに入る。


「ま、待って待ってっ! 喧嘩は無しっ! 君らが喧嘩をしたら覇緒ちゃんちの別荘がめちゃくちゃになっちゃうよっ」


 好意で泊まらせてもらっているのだ。

 迷惑はかけたくない。


「う、うう……けど、おにいこいつ……」

「ま、まあ俺も少し心配だけど、そんなに悪い人じゃないから……」


 最初に出会ったときはとんでもない化け物としか思っていなかった。しかしいろいろあって、実はそんなに悪い人じゃないような気もしていた。


「悪い奴だよっ!」

「いやまあ……良い人とは言わないけど。悪い人じゃないよ。ほら、さっきだって海に潜って国島の不正を暴いてくれたしさ。朱里夏さんがああしてくれなかったら、兎極はあいつに付き合わなきゃいけなかったかもしれないよ?」

「それは……」


 結果的には覇緒ちゃんのおかげになったが、朱里夏があの執事を捕まえてくれたのは俺や兎極のためだ。ただの悪い人ならあんなことはしないだろう。


「別にそいつのためにやったわけじゃない。あんなのに五貴君が負けたら不愉快だからやっただけ。と言うかデカチチは気付かなかったんだな。マヌケ」

「てめえこの……っ」

「と、兎極おちつけって」


 掴みかかろうとする兎極を手で制す。


「やっぱりこいつは悪い奴っ!」

「ううん……」


 兎極は朱里夏のことを蛇蝎の如く嫌っている。

 無人島では殺されかけたのだからしかたないのだけど……。


「ちょっと待つっす。こんな小さい子を相手に喧嘩腰で悪い奴だと言うなんて、大人げないっすよ姉御」

「お前は黙ってろっ!」

「ここはうちの別荘っす。泊めるかどうかはわたしが決めるっす」


 覇緒ちゃんの言い分はもっともだ。

 ここは覇緒ちゃんちの別荘なんだから、朱里夏も泊っていいかは覇緒ちゃんに決める権利があるだろう。


「この子がどこの誰で、先輩たちとどういう関係かは知らないっす。けどもう遅い時間なんですし、泊めてあげたらいいと思うっす」

「こいつはガキじゃないのっ! ガキに見えるけど難波幸隆の姉貴で20歳だよっ!」

「えっ? そ、そうなんすか? だって胸のところに4-1って書いてある水着を着てたっすよ?」

「ガキの振りしてるだけだよっ!」

「振りはしてない。あれしか水着が無かっただけ」


 そう言って朱里夏はさすさすとペタンコな自分の胸を撫でる。


「お、大人の人なんすか? 子供にしか見えないっすけど……」

「大人だし喧嘩もすげー強いから十分にひとりで帰れるんだよっ! だからとっとと追い出せこんな奴っ!」

「けどそんなのかわいそうっすよ。仲間外れみたいでなんか嫌っす。そういうの」

「いや仲間じゃねーしっ! こいつは……」

「兎極」


 俺は兎極の肩をポンと叩く。


「朱里夏さんはコンビニでやってたバイトの件でわざわざここまで来てくれたんだ。無下にしたら失礼だよ」

「けど……」

「頼むよ」


 兎極の目をじっと見つめる。


 もちろん朱里夏はひとりで帰ることはできるだろう。しかしそれはなんだか追い返すようで後味が悪いような気がした。


「……わかった。けどなんか危険な動きをしたら叩き出すからね」

「うん」

「お前に叩き出せるものならね」

「てめ……」

「まあまあ」


 そんなわけで兎極の許しも得て、朱里夏も別荘へ泊まることになった。


 ……


 風呂へ入って食事を終え、俺は自室のベッドへと潜り込む。

 今日は疲れた。すぐにも眠れそうだった。


「……うん?」


 寝入ってからどれくらい経っただろう?

 ベッドの中に誰かが潜り込んで来たようだが……。


 きっと兎極だな。


 それしか考えられないだろう。


 気付いた以上はこのまま一緒に寝るというわけにはいかない。


 追い出すために布団を捲ろうとするが、


「えっ?」


 上半身を腕ごと抱き締められて身動きが取れなくなる。


「ちょ、と、兎極……うん?」


 兎極に抱き締められているにしてはなにか違和感があるような……。


 あるべきものが無い。

 そんな気がした。


「あのデカチチじゃないよ」

「えっ? こ、この声は……」


 見下ろした先に見えたのは黒髪の頭。

 そしてじっと見上げてきたのは、朱里夏であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ